データセンタ冷却技術:AIをささえる液冷・放熱材料の開発動向と実用化への課題
著者:アスタミューゼ株式会社 岸本 拓磨 博士(医学)
AIデータセンタの冷却技術とは
AIデータセンタの冷却技術とは、人工知能(Artificial Intelligence:AI)の学習・推論処理をになう画像処理装置(Graphics Processing Unit:GPU)など、演算を高速化するアクセラレータが発する熱を排出し、演算性能と稼働信頼性を維持するためにかかせないものです。半導体は一定の温度を超えると動作周波数を自動的に下げて自らを保護するため、冷却が追いつかないと、計算能力が制限されます。従来のデータセンタは、室内に冷たい空気を送り込み、機器のあいだを通過させて熱を運び去る空冷を基盤としてきました。しかしAI向けの機器は設置面積あたりの発熱量が従来のサーバより大きく、単位体積あたりに運べる熱量が小さい空気では冷却が追いつきにくくなっています。そこで、空気より単位体積あたりに多くの熱を運べる液体を媒体とする方式へ、比重が移りつつあります。
液体をもちいる代表的な方式は三つあります。第一は、チップの真上に金属製の受熱板(コールドプレート)を密着させ、その内部に冷却液を循環させるダイレクトチップ液冷(直接液冷)です。第二は、ラックの背面扉そのものを熱交換器とし、通過する排気から熱を回収するリアドア(rear-door)型冷却です。第三は、電気を通さない誘電性の液体に機器全体を沈める液浸(immersion)冷却です。本レポートでは、これらの方式に加えて、各冷却方式を成立させる熱交換器や冷媒、熱界面材料(Thermal Interface Material:TIM)などの要素技術をふくめ、この領域をささえる熱交換・熱管理技術全般を分析対象としています。
なお、本分析の母集団(分析対象の集合)は、熱の発生・輸送・排出を主題とする文献で構成されています。数値流体解析や制御、機械学習を手法としてもちいる研究も、熱を対象とするものはふくまれます。一方で、計算資源の配分やIT運用そのものを主題とし、熱に関する用語をもちいない研究は十分に捕捉されていない可能性があります。また、応用可能性を基準に母集団を秀出すると、温度帯や支配的な課題の異なる分野が同居します。本母集団で汚れやスケール(付着した析出物)、腐食に言及する出願は496件ある一方、半導体の接合部温度に言及するものは4件、熱流束(単位時間に単位面積を通過する熱量)に言及するものは26件です。板の成形や流路配分、漏洩対策といった構造と製造の知見は温度帯を越えて転用できますが、作動流体や材料の選定、おもな故障の起こり方は温度帯ごとにことなります。本レポートでは、温度帯を越えて応用できる構造や製造の知見を中心に整理します。
本レポートの件数は、技術の蓄積をしめす指標として読む必要があります。件数が表すのは、AIデータセンタの冷却に応用できる技術がどの領域にどれだけ蓄積され、誰が保有しているかです。データセンタがその技術をどれだけ採用しているかではありません。したがって、母集団で液体をあつかう文献が多いことは、データセンタの冷却が液冷へ移行していることの根拠にはなりません。データセンタに関わる開発動向については、データセンタもしくはサーバに明示的に言及する特許185件と、データセンタに言及する論文127件に限って述べます。
技術的な役割は、熱が発生源から外部へ抜けていく経路に沿って三つの層に分けて整理できます(図1)。

まず、チップから熱を受け取る界面の層です。半導体の表面と受熱部品はいずれも微視的には凹凸があり、そのまま重ねると両者の間に空隙が生じます。空気は熱を伝えにくいため、この空隙が熱の通り道を塞ぐ抵抗となります。これを埋めて熱を通しやすくするのが熱界面材料であり、受け取った熱を面方向に広げて局所的な高温部をならすのがベーパチャンバです。
次に、受け取った熱を離れた場所へ運ぶ輸送の層です。液体の蒸発と凝縮を利用して動力を使わずに熱を運ぶループヒートパイプや、冷却液を循環させる配管系がこれにあたります。なお、微細な流路に冷却液を通すマイクロチャネルや、機器ごと液体に沈める液浸は、熱を受け取る部分と運ぶ部分が一体になっており、前段の受熱側に位置づけられます。
最後が、運ばれてきた熱を施設側で大気や冷却水へ最終的に放出する層であり、薄い金属板を重ねて伝熱面積を確保するプレート式熱交換器や、冷媒の圧縮と膨張によって冷水をつくる冷凍機が中核をにないます。
この三つの層は直列につながっており、チップから外気までの熱抵抗(熱の伝わりにくさ)は、直列の経路では各層の和としてとらえられます。どこか一つの層が熱の流れを大きく妨げている場合、他の層だけを改善しても、全体の放熱性能の向上は限られます。半導体側の熱設計と施設側の熱交換が、どちらも欠かせない理由はここにあります。今回の分析母集団でも、この三層に対応する技術分野が併存していました。
素材から施設設備までが一本の経路でつながるというこの構造を背景に、産業面では二つの論点が浮かびます。一つは、設備産業と半導体・IT産業の接点です。本分析の特許母集団では、プレート式熱交換器を手がける専業メーカと、半導体・IT機器メーカが上位出願人として並存しています。冷却が演算性能を左右するなか、これまで別の産業として発展してきた両者の技術を、どう組み合わせるかが課題となります。
もう一つは、データソースによる技術分野の構成の違いです。論文とグラントでは熱を伝える材料と相変化をあつかう領域が最大の比重を占める一方、特許では熱交換器の構造に関する出願が多く、液冷・液浸を直接あつかう出願は限られます。この違いを研究から実装までの時間的な差として解釈するには、個別技術の開発段階や採用状況との称号が必要です。
公的支援については、今回のグラント母集団において、二相冷却システムや熱界面材料を対象とする助成が米国・欧州を中心に確認されました。特に米国では、企業を対象とする研究開発助成が2021年以降も毎年採択されています。
以下、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許・学術論文・グラント(研究助成金)・スタートアップ企業情報の4つのデータソースに基づき、AIデータセンタの冷却に応用できる熱交換・熱管理技術の動向を分析します。
AIデータセンタの冷却技術に関する特許の動向分析
アスタミューゼ独自のデータベースから、AIデータセンタの冷却に応用できる熱交換・熱管理技術に関連するキーワードをふくむ特許母集団10,234件を抽出しました(出願年2016年〜2025年)。本レポートでは、4つのデータソースのうち特許・論文・グラントの対象期間を2016年から2025年の10年間にそろえています。企業や研究機関が出願する特許は、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術の動向を反映します。
今回抽出された特許は7つのカテゴリに分類できます(図2)。

なお、この分類は特許・論文・グラントに共通の技術軸を設け、各文献の表題から判定したものです。判定の観点には冷却方式、熱の経路上の位置、材料、設備区分が混在しており、複数の分類に当てはまる文献が約1割あります。これらはあらかじめ定めた評価順で先に一致した分類に計上しているため、本図は厳密な技術分類ではなく、母集団の構成を概観するための整理としてご覧ください。
もっとも多いのは熱交換器本体の構造設計をあつかう「熱交換器・伝熱構造」でした。4,243件、全体の41.5%にあたります。次いで、熱を伝える媒体と材料をあつかう「熱媒体・熱機能材料」が1,272件(12.4%)、デバイス側の実装をあつかう「半導体・電子機器の放熱実装」が1,169件(11.4%)、蒸発と凝縮で熱を運ぶ「ヒートパイプ・相変化冷却」が1,144件(11.2%)、施設側の「空調・冷凍・施設設備」が347件(3.4%)と続きます。本レポートの主題の一つである「液冷・液浸システム」は230件(2.2%)にとどまり、残る1,829件(17.9%)は上記に分類されない出願でした。ただし、液冷・液浸システムの230件は、表題で液冷そのものを主題にした出願の数です。液冷をささえる熱交換器や冷媒、熱界面材料、相変化デバイスは、それぞれ別の分類に入っています。
このうち、表題または要約においてデータセンタもしくはサーバについて明示的に言及している特許は185件にとどまります。母集団の大半は汎用の熱交換・熱管理技術です。本分析では、データセンタ向け冷却を、既存の熱交換・熱管理技術の応用先としてとらえています。
図3は出願先・公報発行機関別の特許件数の年次推移です。

この集計では中国が7,239件と全体の70.7%を占め、次いで米国1,149件(11.2%)、国際出願(WO)545件(5.3%)、欧州特許庁(EP)449件(4.4%)、台湾248件(2.4%)、韓国206件(2.0%)、日本63件(0.6%)となっています。中国は2016年の535件から2023年の1,002件へ増加しました。2020年から2021年にかけて一時的に減少しているものの、本分野における出願の中心です。米国は2016年の106件から2023年の139件まで年間100件台で推移しており、中国と比べて変動は小さい傾向があります。なお、2024年および2025年の数値は、データ格納のタイムラグにより実際より少なくしめされているため参考値となります。
出願人の所在国ベースで集計すると、中国2,349件、米国1,113件に次いで台湾379件、スウェーデン329件が並びます(出願人の所在国を特定できない出願が4,745件あります)。これは上位出願機関の構成にもあらわれており、最多はプレート式熱交換器を手がけるAlfa Laval(スウェーデン、253件)でした。以下、TSMC(台湾、218件)、山東大学(中国、151件)、Danfoss(デンマーク、130件)、Intel(米国、124件)、IBM(米国、86件)、Samsung Electronics(韓国、81件)、新光電気工業(日本、47件)、SWEP International(スウェーデン、44件)、Laird Technologies(米国、39件)が続きます。台湾ではTSMC、スウェーデンではAlfa Lavalという、異なる分野の企業の出願が大きな割合を占めています。熱交換器の専業メーカと半導体・IT機器メーカが上位に並ぶ点に、この母集団の特徴が出ています。
もっとも、この並存は一つの出願の中で両者が統合されていることを意味しません。チップ側の語(熱界面材料、ベーパチャンバ、ヒートスプレッダ、ヒートシンク、コールドプレート)を含む出願は2,863件、施設側の語(プレート式熱交換器、冷凍機、冷却塔、冷凍サイクル)をふくむ出願は6,196件ありますが、両方をふくむものは72件、母集団の0.7%にとどまります。
出願人別にも、この違いが見られます。Alfa Lavalの出願でチップ側の語をふくむものは1件、SWEPとDanfossは0件でした。逆に、Intel、TSMC、IBMの出願で施設側の語をふくむものはいずれも0件です。分かれているのは技術の語彙だけではありません。半導体や計算機そのものに言及する出願は母集団全体で1,282件、12.5%ありますが、Alfa Laval・SWEP・Danfossの427件には1件もふくまれていません。本母集団では、これらの施設側メーカの出願に、半導体用途への明示的な言及は見られません。つまり、施設側の技術がAIデータセンタの冷却に使えることと、それがAIデータセンタのために開発されていることは、別のことです。熱の経路は一本につながっているにもかかわらず、出願で明示される技術や用途は、層によって異なっています。
両方をふくむ72件の出願人を見ると、もっとも多いのはFord Global Technologiesの7件で、以下、Hangzhou Lemaiji New Energy Technologyの6件、Beijing Fulllink Aori TechnologyとDana Canadaの各3件と続きます。いずれも自動車や電動車両、産業設備の熱管理を手がける企業であり、データセンタ向けの企業は上位に入りません。電池セルの冷却から車両全体の放熱までを一社が通しで設計する分野では、層をまたぐ出願が生まれていると考えられます。データセンタについては、機器側のループと施設側のループをつなぐ冷却液分配ユニット(Coolant Distribution Unit:UDU)に言及する出願が4件あり、NVIDIA、Hewlett Packard Enterprise、Inventecなど計算機側からの出願で占められています。熱交換器の専業メーカはふくまれていません。チップから施設までを一体で設計する担い手や、企業間の協業の実体は判断できません。
図4は特許から抽出されたキーワードの年次推移です。

本章では、特許データから算出した「直近集中度」をもちいます。これは、特許における直近5年間(2021年〜2025年)の出現数を、全期間(2016年〜2025年)の出現数で除した値であり、0から1の範囲をとります。集計期間10年のうち直近5年を分子としているため、0.5は前半5年間と後半5年間の出現数が等しいことを意味します。0.5を上回るほど、全期間の出現数に占める直近5年間の割合が高くなります。
抽出されたキーワードのうち冷却技術の専門用語および新しい技術を指す語に絞り、直近集中度の高い20語をしめしたものです。「液体(liquid)」や「熱交換(heat-exchange)」のように出現数の多い語はふくめていません。「液体」は1,918件、「熱交換」は2,774件と母集団の主軸をなす語ですが、分野を問わず一般的にもちいられる語であり、直近集中度もそれぞれ0.54、0.49と前半5年間と後半5年間の出現数の差が小さいためです。以下では図4の20語を、チップ側の界面材料、施設側の熱交換器構造、データセンタ向け冷却と相変化冷却の3つに分けて読み解きます。
第一に、チップ側の界面材料に関する語が多く見られます。なかでも熱伝導性の付与(heat-conducting)」は342件と多く、直近集中度は0.77です。表題または要約にこの語をふくむ出願303件のうち、291件が中国への出願でした。関連して、「熱的界面(heat-interface)」13件・0.77、「ガリウム系液体金属(gallium-based)」14件・0.86が続き、出現数は少ないものの「はんだ炭素複合材(solder-carbon)」と「炭化物系セラミックス(carbides)」が各4件、「ナノ材料(nano-material)」と「ナノ流体(nanofluid)」が各5件で、直近集中度はいずれも0.80以上です。「ガリウム系液体金属」の出願人は桂林電子科技大学、GRINM、大連海事大学、雲南科威液態金属谷など中国の大学・企業が中心で、本母集団では、液体金属をもちいた熱界面材料について、中国の大学や企業による出願が目立ちます。「はんだ炭素複合材」は、はんだに炭素ナノ構造体を複合させた熱界面材料をCarbice社が出願したものでした。
ガリウム系液体金属(gallium-based):ガリウムを主成分とし、常温で液体のまま流動する合金です。熱伝導率が樹脂系の熱界面材料を大きく上回り、微細な凹凸にも入り込んで空隙を埋められるため、高発熱チップ向けの界面材料として研究が進んでいます。
はんだ炭素複合材(solder-carbon):はんだに炭素ナノチューブなどの炭素ナノ構造体を複合させた熱界面材料です。はんだの高い熱伝導性と、炭素材料のしなやかさを組み合わせることで、熱サイクルによる劣化を抑えることをねらっています。
炭化物系セラミックス(carbides):炭化ケイ素に代表される、炭素と金属・半金属からなるセラミックスです。熱伝導率が高く耐熱性にも優れるため、絶縁性が求められる放熱基板や、充填材の材料としてもちいられます。
実装形態をあつかう語も見られます。「複数TIMの使い分け(multi-tim)」は5件・0.80となり、発熱量の異なるダイ(個々の半導体チップ)ごとに別の熱界面材料を割り当てる構成をTSMCが出願しています。「リッド付きパッケージ(lidded)」は10件・0.80で、流動性のある熱界面材料や液体金属をリッドで封じ込める構造が中心であり、Advanced Micro Devicesの出願もふくまれます。「可変熱伝導率の材料(vtcm)」の4件・1.00は、熱伝導率を変化させられる材料層を冷却構造とヒータのあいだに置き、伝熱量そのものを制御する構成です。材料を高熱伝導化するだけでなく、界面での熱の通し方を設計変数としてあつかう方向が現れています。
リッド付きパッケージ (lidded):半導体チップの上に金属製の蓋(リッド)を被せた実装形態です。チップとリッドの間、リッドと放熱器の間の二段階で熱を逃がす構造であり、流動性の高い熱界面材料や液体金属をリッドで封じ込める使い方も検討されています。
可変熱伝導率の材料(vtcm):外部からの操作によって熱伝導率を変えられる材料層です。冷却構造と発熱体の間に挟みこみ、熱を逃がす量そのものを制御する発想であり、冷却能力を上げるのではなく熱の通し方を設計変数としてあつかう点に特徴があります。
第二に、施設側の熱交換器の構造に関する語が続きます。「固定管板式熱交換器(fixed-tube-plate)」は32件・0.84で、2023年に13件ともっとも多くなります。ただし出願人の大半は中国の企業・大学で、データセンタ固有の動きではなく、熱交換技術全般の出願増加をとらえたものと考えられます。一方、「二重壁構造(double-wall)」13件・0.85、「二重管板 (double-tube-sheet)6件・0.83、「突条を分断する凹部(through-broken)」6件・0.83は、一次側と二次側の流体が混ざることを防ぐ構造に関する語です。「突条を分断する凹部」は6件すべてがAlfa Lavalの出願で、「二重壁構造」にはSWEPとDanfossがくるまれます。「二重管板」の6件はいずれも中国の熱交換器メーカによるものでした。プレート式熱交換器の専業メーカと中国の装置メーカの双方で、漏洩対策が構造設計の主題になっていることがうかがえます。
固定管板式熱交換器(fixed-tube-plate):多数の伝熱管の両端を管板に通し、その管板を胴体に溶接で固定した多管式熱交換器です。構造が単純で製作費を抑えられる反面、管と胴の熱膨張差を逃がせないため、温度差の大きい用途には向きません。
熱交換器の構造に関する語には、「ピロープレート型熱交換器(pillow-plate)」の4件・1.00もふくまれます。出現数は少ないものの、論文側では23件と特許を上回っており、次章の論文分析でも紹介します。
ピロープレート型熱交換器(pillow-plate):2枚の金属板を点状に溶接したうえで内部に圧力をかけ、枕のように膨らませて流路とした熱交換器です。複雑な加工を必要とせずに大きな伝熱面積が得られるため、蓄熱や排熱回収の分野で応用が広がっています。
第三に、データセンタ向け冷却と相変化冷却に関する3つの語に注目します。「リアドア型熱交換器(rear-door)」が10件・0.90で、出願人はNVIDIA、Inventec、New Nordic Data Cooling、Hewlett Packard Enterpriseなどです。NVIDIAは2022年と2024年に、データセンタの局所冷却ループ向けの知能型リアドア熱交換器を公開しています。図4にある20語のうち、データセンタを明示的に対象としているのはこの「リアドア型熱交換器」だけです。「ハイブリッドループヒートパイプ(hlhp)」の4件・1.00は、毛細管駆動に磁気浮上式の軸受なしポンプを組み合わせた構成を米国海軍が出願したものです。「二重貯液器の毛細管ポンプ(double-liquid-storage-device)」の5件・1.00は、貯液器を二重化したループヒートパイプに関する出願で、いずれも中国からのものです。後者2つは、相変化を利用した熱輸送の性能や動作条件の改善をねらう設計です。
リアドア型熱交換器(rear-door):サーバラックの背面扉そのものを熱交換器に置き換え、ラックから出る排気が扉を通り抜ける際に熱を回収する方式です。機器側の大幅な改造を抑えて導入できる場合があり、既存のデータセンタを液冷へ移行させる際の現実的な選択肢とされています。
ハイブリッドループヒートパイプ(hlhp):作動液の蒸発と凝縮で熱を運ぶループヒートパイプに、ポンプによる強制循環を組み合わせた方式です。毛細管力だけでは足りない場面でもポンプが循環を助けるため、熱負荷の変動が大きい用途に向くと考えられます。
ただし、直近集中度が1.00となる8語はいずれも出現数が4件から5件で、その多くは単一の出願人による同一パテントファミリ(共通の優先権などで結びつく出願群)に属していました。構造的なトレンドと呼ぶにはまだ早く、今後の出願動向を継続して追う必要がある萌芽的な領域と位置づけられます。
要素技術のうち冷媒は、キーワードの上位には現れませんが、母集団の中では一定の量を占めています。伝熱媒体を対象とする国際特許分類(C09K 5/xx)を筆頭分類とする出願は238件あり、表題または要約で「冷媒(refrigerant)」に言及する出願は359件、「作動流体(working fluid)」は157件です。後述のグラント分析でも、「冷媒(refrigerant)」が10件・0.60、「流体(fluids)」が11件・0.64として現れます。ただし、液浸冷却でもちいる「誘電性液体」に言及する出願は1件にとどまり、「フッ素系化合物」に言及する出願は37件、「有機フッ素化合物(PFAS)」は7件、「地球温暖化係数」は0件でした。冷媒そのものの開発は活発である一方、液浸冷却液の選定や規制対応というデータセンタに固有の論点は、本母集団からは見えません。
なお、図2の分類には、冷媒だけをまとめた項目はありません。表題で冷媒や作動流体そのものをあつかう出願は11件にとどまり、冷媒をもちいる出願の多くは表題に熱交換器や冷凍機が先に現れ、それらの分類に数えられているためです。本段落の件数は、この分類とは別に、国際特許分類と表題・要約の言及から数えたものです。
以下は注目の特許事例です。「チップ側の界面材料(US2025210442A1)」、「ラック単位の冷却システム(US2025081407A1、CN117693166A)」、「液浸システム(US2024349449A1)」という観点から選びました。いずれも本母集団にふくまれる出願です。
- US2025210442A1「PUMP-OUT RESISTANT COLDPLATE」
- 出願機関:Microsoft Technology Licensing, LLC(米国)
- 出願国:米国 / 出願日:2023年12月20日
- 公開年:2025年(公開日:2025年6月26日)
- 概要:コールドプレートと半導体の間に配置した熱界面材料が、繰り返しの熱サイクルによって押し出される「ポンプアウト」現象を抑える構造。接合部の周縁をガスケットまたは接着剤で封止したうえで、毛細管を設けて押し出された熱界面材料を捕集する。外気の巻き込みによる空隙(ボイド)の発生を防ぐよう、毛細管の寸法も設定されている。高信頼性の観点から、界面の経時劣化に取り組んだ事例。
- US2025081407A1「COOLING SYSTEMS AND METHODS FOR SERVER RACKS IN DATA CENTERS」
- 出願機関:Magcale, Arnold Castillo(米国、個人出願)
- 出願国:米国 / 出願日:2023年8月31日
- 公開年:2025年
- データセンタのサーバラックを対象とする冷却システム。データセンタまたはサーバに言及する特許のうち、直近集中度の高いキーワードを多くふくむ部類に入り、その数は33語で、「ラック(rack, racks)」、「背面(rear)」、「扉(door)」、「液体(liquid)」、「ループ(loop)」、「プレナム(plenum)」、「弁(valves)」、「流入口(inlet)」、「流出口(outlet)」など、ラック単位の液冷と気流経路に関する語が集中して出現している。ラック全体を単位として冷却を設計する事例。
- CN117693166A「Data center cabinet-level composite cooling system based on micro-channel loop heat pipe」
- 出願機関:広東工業大学(中国)
- 出願国:中国 / 出願日:2023年12月15日
- 公開年:2024年
- 概要:マイクロチャネル式ループヒートパイプをもちいた、キャビネット単位の複合冷却システム。大学からの出願であり、中国における出願増加が企業だけによるものではないことがうかがえる。同一機関からは実用新案(CN221488191U)も公開されている。
- US2024349449A1「CONTAINERIZED SINGLE-PHASE LIQUID IMMERSION COOLING SYSTEM」
- 出願機関:Hangzhou Dare Rouhan Technology Co., Ltd.(中国)
- 出願国:米国 / 出願日:2024年1月26日(最先優先日:2023年4月12日)
- 公開年:2024年
- 概要:コンテナ型の単相液浸冷却システムです。中国企業が液浸冷却システムについて米国で権利化を図る事例。液浸に言及する出願は28件と少数だが、その出現は2021年以降にかたよっており、本件もその時期に入る。
AIデータセンタの冷却技術に関する論文の動向分析
アスタミューゼ独自のデータベースをもちいて、論文母集団2,583件を抽出しました(発表年2016年〜2025年)。うち2,468件にデジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier: DOI)が付与されています。論文は特許と比較して社会実装までの時間軸が長く、現在の基礎研究が将来の技術トレンドを先読みする指標となります。
本母集団は、言及している対象で三つに分かれます。データセンタに明示的に言及する論文が127件、データセンタには触れないものの半導体・電子機器・計算機の冷却に言及する論文が1,069件、どちらにも触れない汎用の熱交換・熱管理研究が1,387件です。半導体や電子機器の冷却をあつかう研究は1,119件、全体の43.3%にあたり、母集団の大きな割合を占めます。データセンタという語を使っていないだけで、チップ側の冷却研究は厚く蓄積されています。
論文母集団を特許と同じ技術軸で整理すると、7つのカテゴリに分類できます(図5)。

もっとも多いのは「熱媒体・熱機能材料」で796件、全体の30.8%を占めました。特許では12.4%にとどまる分類が論文では最大になっており、論文では材料に関する研究の比率がたかいことがわかります。以下、「熱交換器・伝熱構造」491件(19.0%)、「ヒートパイプ・相変化冷却」451件(17.5%)、「半導体・電子機器の放熱実装」308件(11.9%)が続きます。「空調・冷凍・熱回収」は61件(2.4%)、「液冷・液浸システム」は55件(2.1%)で、こちらは特許と同様に構成比が小さくとどまりました。残る421件(16.3%)は上記に分類されない論文です。なお、「空調・冷凍・熱回収」の61件は表題で判定した数であり、熱回収や排熱利用そのものに言及する論文は、表題または要約で見ると53件、全体の2.1%にとどまります。本レポートが対象とするのは、発熱源から熱を受け取り、運び、外部へ出すまでの技術です。外部へ出した後の熱をどう使うかは、冷却とは目的の異なる技術にあたるため、本母集団では比重が小さくなっています。
論文数は2016年の175件から2025年の450件へ増加しており、特に直近3年の伸びが大きくなっています(2023年301件、2024年374件、2025年450件)。筆頭著者の所属国別では中国が706件と最多で、米国349件、日本82件、インド77件、韓国69件、ドイツ52件が続きます(図6)。所属国を特定できない論文は641件あります。

中国は2019年の47件から2025年の141件へ約3倍に増加している一方、米国は2019年以降、年間15件から41件の範囲で変動しており、増加傾向は見られません。その結果、両国の差は拡大しています。日本は同期間に年間7件から13件で推移しています。
図7は論文から抽出されたキーワードの年次推移であり、特許と同様に冷却技術の専門用語および新しい技術を指す語に絞ってしめしています。

論文側で特徴的なのは、半導体パッケージの熱管理を扱う語が直近に集中している点です。「フリップチップ・ボールグリッドアレイ(Flip Chip Ball Grid Array:FCBGA)」は44件で直近集中度0.86に達し、2024年に13件、2025年に15件と直近2年で全体の約6割を占めます。これらの論文は、インジウム系合金やグラフェンをもちいた熱界面材料をFCBGAパッケージに適用し、熱抵抗と熱変形による反りを同時に評価する研究が中心です。図7にはふくまれていませんが、「反り(warpage)」も46件・0.85で同じ時期に伸びており、2025年だけで20件を占めます。反りは冷却部品との密着を失わせて熱抵抗を増やすため、放熱性能と一体で評価される指標です。
フリップチップBGA(fcbga):半導体チップの電極面を下向きにしてパッケージ基盤に接合し、その基盤の裏面に格子状のはんだボールを配置した実装形態です。ワイヤを使わないぶん電気的にも熱的にも有利ですが、チップと基板の熱膨張差が大きく、反りが生じやすい構造でもあります。
反り(warpage):加熱や冷却の際、材料ごとの熱膨張の差によって基板やパッケージが弓なりに変形する現象です。反りが出ると冷却部品との密着が失われて熱抵抗が増え、接合部の剥離にもつながるため、熱性能と同時に評価すべき指標とされています。
合金(alloys):金属を主成分とし、ほかの金属や非金属元素を加えた材料の総称です。冷却の分野では、低い温度で溶けて隙間になじむ低融点合金や、熱伝導率の高い合金が、チップと冷却部品の間を埋める界面材料として使われます。
材料側では、充填材と母材の組み合わせに関する語が並びます。「界面(interfacial)」が254件、「窒化物(nitride)」が212件、「ホウ素(boron)」が175件で、nitrideとboronはいずれも窒化ホウ素に由来します。表題または要約で見ると、窒化ホウ素をふくむ論文が178件、グラフェンが259件あり、どちらも高熱伝導の充填材です。「シリコーン(silicone)」の95件は、その充填材を分散させる母材(充填剤を保持する材料)にあたり、放熱グリースや放熱シートの基材として使われます。液体金属をあつかう論文は118件で、金属そのものを界面にもちいる材料系です。粒子を添加した液体金属ペーストも、後述の事例で紹介します。「合金(alloys)」の56件・0.79もこの系統にあたり、低融点合金を界面材料に使う研究に対応します。これらの材料では、材料内部や接触面に生じる熱抵抗をどこまで下げられるかが課題となります。
伝熱解析に関する語は、論文側にかたよって出現します。「ヌセルト数(nusselt)」が論文101件に対し特許1件、「二相(two-phase)」が論文195件に対し特許98件でした。ヌセルト数は液冷に限らず空冷の評価にももちいる指標であり、冷却方式を問わず性能を比較する枠組みが学術側に蓄積されていることをしめしています。
ヌセルト数(nusselt):流体が熱をどれだけ効率よく運んでいるかを、静止した状態での熱伝導と比べて表す無次元の指標です。この値が大きいほど流れによる伝熱が効いていることを意味し、冷却構造の性能を比較する共通の物差しとしてもちいられます。
二相冷却(two-phase):冷却液が沸騰して蒸気になり、別の場所で冷やされて液体に戻る過程を利用する冷却方式です。液体のまま循環させる単相方式に比べ、蒸発の潜熱を使えるぶん、同じ流量でも運べる熱量が大きくなります。
萌芽技術としては、「ピロープレート(pillow-plate)」が論文23件に対し特許4件、「酸化ガリウム(gallium-oxide)」が論文8件に対し特許1件という分布でした。いずれも絶対数は小さいものの、本母集団では、特許よりも論文での出現数が多い技術です。酸化ガリウムについては、論文側でIndium社とノースカロライナ州立大学などが、GPUや高性能計算機の冷却を想定した液体金属ペーストの熱性能を評価しており、前章の「ガリウム系液体金属(gallium-based)」と同じ系統の動きにあたります。特に酸化ガリウムは、企業情報での出現が0件である一方、グラントで2件の出現が確認されており、公的資金による基礎研究が先に動いている可能性があります。
酸化ガリウム(gallium-oxide):ガリウム系の液体金属が空気に触れたときに表面にできる酸化物の膜です。本母集団でこの語が現れる文献は、酸化ガリウムを半導体材料としてあつかうものではなく、液体金属を熱界面材料として使うさいの酸化膜のあつかいを論じたものです。酸化膜は熱や電気の伝わりをさまたげる一方、ダイヤモンドや銅の粒子を液体金属の中に保持してペースト状にし、塗布時の厚みを制御するはたらきもにないます。取り除くか活かすかが、設計上の分かれ目になっています。
最後に、データセンタに明示的に言及する127件の内訳を見ると、冷却方式の比重が変わりつつあることがわかります。アイル(ラック間の通路)の封じ込め、気流配分、外気冷房など空気側をあつかう研究は82件、液冷・液浸・コールドプレート・二相冷却など液体側をあつかう研究は48件で、両方に言及するものが21件あります。累計では空気側が上回っています。
期間を分けると、比重の変化が見えます。2016年から2020年の54件では空気側39件に対し液体側9件でしたが、2021年から2025年の73件では空気側43件に対し液体側39件となりました。液体側が4倍以上に増えた一方、空気側はほぼ横ばいです。直近5年でも件数では空気側が多く、その差は4件にとどまります。置き換えが起きたというよりも、液体側が空気側に追いついた段階と読むのが妥当です。両方に言及する研究21件のうち17件が直近5年に集中しており、空気と液体を併用する構成の検討が進んでいることもうかがえます。なお、この127件のうち64件は、数値流体解析や制御、機械学習を手法としてもちいる研究でした。冷却の改善が装置の設計だけでなく、運用と制御の側からも進められていることをしめしています。
以下は、注目の論文事例です。
- “Thermal Performance Characteristic of Single-phase Immersion Cooling on Servers with Optimized Heatsink Design”
- DOI:10.1109/itherm55375.2024.10709588
- 著者:Jin Wang他
- 発表年:2024年
- 会議録:2024 23rd IEEE Intersociety Conference on Thermal and Thermomechanical Phenomena in Electronic Systems (ITherm)
- 概要:サーバを対象とした単相液浸冷却について、ヒートシンク形状を最適化した場合の熱性能を検証した研究。液浸環境では、空冷を前提としたヒートシンク設計が最適とはかぎらない。液浸(immersion)の実装にあたっては機器側の設計も見直す必要があることを示唆している。
- “Experimental Study on the Thermal Performance of Flat Loop Heat Pipe Applied in Data Center Cooling”
- DOI:10.3390/en16124677
- 著者:Yongle Tang他(中国)
- 発表年:2023年
- 雑誌:Energies
- 概要:平板型のループヒートパイプをデータセンタ冷却に持ち込み、熱性能を実験で確かめた研究。動力を使わずに熱を運べる相変化デバイスをこの用途に当てはめる試みで、特許側でも見られた相変化冷却に関連する。
- “Thermal Performance of Liquid Metal Pastes Containing low Content of Metal Particles for Thermal Interface Materials in IC Module Electronics”
- DOI:10.4071/001c.74583
- 著者:Guangyu Fan他(Indium Corporation of America、ノースカロライナ州立大学、米国)
- 発表年:2023年
- 会議録:IMAPSource Proceedings
- 概要:ガリウム系の液体金属に少量の固体金属粒子を加えたペーストを、熱界面材料として評価した研究。GPUや高性能計算機の冷却を想定し、熱性能と、塗布したときの膜厚の制御を両立させることをねらっている。酸化ガリウムは、粒子を液体金属の中に保持してペースト状にするためにもちいられており、図7で「gallium-oxide」として抽出された語の実体にあたる。材料メーカが事業化を見据えて評価を進めている例。
AIデータセンタの冷却技術に関するグラントの動向分析
グラント(研究助成金)は、政府や公的機関が戦略的に育成しようとする技術領域を映し出す指標です。アスタミューゼ独自のデータベースをもちいて、グラント母集団182件を抽出しました(開始年2016年〜2025年)。助成総額は約7,067万米ドルです。
グラント母集団を同じ技術軸で整理すると、7つのカテゴリに分類できます(図8)。

もっとも多いのは「熱媒体・熱機能材料」52件(28.6%)、次いで「ヒートパイプ・相変化冷却」44件(24.2%)で、この2分類だけで全体の半数を超えます。特許では両分類の合計が23.6%にとどまるため、本グラント母集団では、素材と相変化冷却の比重が特許より高いことがわかります。以下、「半導体・電子機器の放熱実装」31件(17.0%)、「熱交換器・伝熱構造」12件(6.6%)、「空調・冷凍・施設設備」2件(1.1%)、「液冷・液浸システム」2件(1.1%)と続きます。残る39件(21.4%)は上記に分類されない案件です。
国・地域別の配賦額推移をまとめたものが図9です。

米国が63件・約3,389万米ドルと、件数・金額ともに最多です。件数では日本38件、中国37件、英国15件、欧州連合(EU)とノルウェーが各9件と続き、金額では欧州連合約1,748万米ドル、英国約665万米ドル、ノルウェー約641万米ドル、中国約249万米ドル、日本約239万米ドルの順になります。中国は収録範囲が2020年までに限られ、2019年は1件、2020年は4件、2021年以降は0件です。対象期間がそろわないため、他国と同じ軸で順位を比較することはできません。中国の実際の助成規模は本分析の集計値より大きい可能性が高いと考えられます。
米国は2021年以降も継続的に採択されています。新規採択を開始年で集計すると、2021年に約705万米ドル、2022年に約502万米ドル、2023年に約734万米ドルです。なお図9は各案件の助成額を実施期間に按分した年次額で、実際の年度別支出額をしめすものではありません。そのため、開始年で集計した本文の数値とは一致しません。個別案件を確認した範囲では企業を受給者とする助成が目立ち、中小企業技術革新制度(Small Business Innovation Research :SBIR)による案件もふくまれます。日本は件数では38件と米国に次ぎますが、助成総額は約239万米ドルで、1件あたりでは約6万米ドルにとどまります。対象期間を通じてほぼ毎年採択がある一方、規模の大きい案件は確認できませんでした。欧州連合は2019年に約766万米ドル、2025年に約452万米ドルと、年による振れ幅が大きくなっています。
本母集団には、二相冷却システム、熱界面材料、ループヒートパイプ、ピロープレート型熱交換器を対象とする案件がふくまれます。なかでも熱界面材料は、米国・スウェーデン・中国のいずれでも採択が確認されました。チップと冷却機構の界面における熱抵抗の低減は、各国に共通する技術課題になっているようです。
図10はグラントから抽出されたキーワードの年次推移です。特許・論文と同じ直近集中度(直近5年間の出現数を全期間の出現数で除した値)をもちい、冷却技術の専門用語および新しい技術を指す語に限って18語をしめしています。

グラント母集団は182件と特許と論文に比べて小さく、各語の出現数は3件から26件の範囲にとどまります。1件の増減が直近集中度を大きく動かすため、以下では出現数もあわせて記載します。また、図10の18語のうち4語は直近集中度が0.50で、前半5年間と後半5年間の出現数が等しい水準にあります。これらを増加のきざしとして読むことはできません。
直近5年間の出現割合が高い語として、まず挙げられるのは相変化冷却の構成要素です。「コールドプレート(cold-plate)」は8件・0.75で、2019年以降、英国・日本・米国で継続的に採択されており、2022年以降は米国の案件が中心です。「ヒートパイプ冷却(heat-pipe-cooling)」4件・0.75、「ハイブリッド二相冷却システム(htpcs)」3件・0.67、「毛細管駆動(capillary-pumped)」3件・0.67、「蒸発器(evaporators)」6件・0.67、「凝縮器(condensers)3件・0.67と、受熱部から凝縮部までの語がそろって直近側に分布しています。特許側では同じ系統の語が0.36から0.51にとどまっていました。この差は、グラントでは相変化冷却に関する語の出現が、特許より直近5年間に集中していることをしめします。公的資金が技術開発に先行している、とはいえそうです。
ハイブリッド二相冷却システム(htpcs):毛細管力による作動液の供給と蒸発、ポンプによる強制循環とを組み合わせた二相冷却の方式です。受動的な冷却の信頼性と、ポンプによる熱輸送量の大きさを両立させることをねらっています。
毛細管駆動(capillary-pumped):細かな孔をもつ多孔質体が液体を吸い上げる力(毛細管力)だけで、作動液を循環させる方式です。ポンプのような可動部がないため故障要因が少なく、保守のできない用途でもちいられてきました。
プレート式熱交換器に関する語は2024年に集中しています。「平板(plate)」26件・0.62、「プレート式伝熱(plate-heat)」14件・0.57、「プレート式熱交換器(plate-heat-exchanger)」11件・0.55で、いずれも2024年が最多です(順に6件、5件、4件)。ただし2024年の該当案件は、英国のプレート式熱交換器における混合冷媒の流動沸騰とトポロジー最適化(材料の配置や構造を最適化する設計手法)による小型熱交換器設計、米国の熱交換器の生成設計であり、データセンタ冷却に限った動きではありません。本母集団では、欧米で熱交換器の設計手法に関する助成が増えているのが確認できます。
材料側では、「ペースト状放熱材(pastes)」が4件・0.50としてあらわれます。件数は少ないものの内容は具体的で、窒化ホウ素ナノチューブをもちいた熱界面材料、銀系の熱界面材料ペースト、そして2021年に採択された液体金属ペーストの製造技術に関する共同研究2件という構成でした。「銅(copper)」も10件・0.50のうち4件が2021年に集中し、ナノ銅をもちいた熱界面材料や電力機器向けの高熱伝導材料がふくまれます。pastesとcopperの内訳にあらわれた液体金属および銅系の界面材料への助成が2021年前後に立ち上がっている点は、論文側で確認された液体金属をもちいる界面材料の研究が直近に集中していることと重なります。
以下は、注目のグラント事例です。
- Electrically Isolated Hybrid Two-Phase Cooling System
- 機関:Advanced Cooling Technologies, Inc.(米国)
- 開始年:2022年8月
- 助成額:約225万米ドル
- 概要:電気的に絶縁したハイブリッド二相冷却システムの開発プロジェクト。電気的な絶縁を確保したうえで二相冷却を成立させる構成であり、企業を受給者とする案件として二相冷却技術が公的支援の対象になっていることがうかがえる。
- SBIR Phase II: Ultrasoft Thermal Interface Elastomer for Microelectronics
- 機関:ARIECA INC.(米国)
- 開始年:2023年4月
- 助成額:約103万米ドル
- 助成元:米国国立科学財団(National Science Foundation:NSF)
- 概要:マイクロエレクトロニクス向けの超軟質熱界面エラストマ(ゴムのような弾性をもつ材料)を実用化するプロジェクト。熱界面材料は本グラント母集団の主要テーマの一つであり、素材側から界面熱抵抗の低減をはかる取りくみは、すでに事業化支援の段階に入っている。
- Loop heat pipe for waste heat recovery in data centres
- 機関:Trinity College Dublin(アイルランド)
- 開始年:2021年10月
- 助成額:約22万米ドル
- 助成元:欧州連合(EU)
- 概要:データセンタの排熱回収にループヒートパイプを適用することを目的としたプロジェクト。冷却性能の向上だけでなく、排出される熱の再利用までふくめて設計する発想であり、環境負荷低減を重視する欧州の政策方向性と重なる。
- Development of enhanced thermal interface materials for electronics and power module cooling application
- 機関:SHT Smart High Tech AB(スウェーデン)
- 開始年:2022年6月
- 助成額:約3万米ドル
- 助成元:Vinnova(スウェーデンイノベーション庁)
- 電子機器および電力用モジュールの冷却に向けて、熱界面材料の性能を高めるプロジェクト。助成額は小規模だが、スウェーデンは特許の出願人所在国で4番目に多い329件を占めている。熱交換器の産業基盤をもつスウェーデンで、材料分野にも研究開発支援が見られる一例。
AIデータセンタの冷却技術に関連するスタートアップの動向
スタートアップの動向は、技術が市場においてビジネスとして成立しはじめているかをしめす指標の一つです。アスタミューゼ独自のデータベースをもとに、本領域で活動するスタートアップ67社を抽出しました。設立年は2005年から2025年までで、2016年以降に設立された企業は35社、このうち2021年以降に設立された企業は16社です。なお、設立年は企業の属性であってデータの取得期間を区切る条件ではないため、ほかの3のデータソースのように2016年以降へそろえる処理はおこなっていません。
国別では米国14社、中国10社、英国8社、インド6社、オランダ3社が上位を占めます(所在国コードが未収録の企業は8社)。事業内容を確認できた範囲では、データセンタ向けの設備構築・配線・調達・運用コンサルティングといったサービス事業者が多く、冷却ハードウェアや熱制御材料そのものを手がける企業は少数にとどまりました。本分析のキーワード抽出で「サービス(services )」が付与された企業が67社中20社にのぼる点も、この母集団構成を裏づけます。企業数の伸びを、冷却技術そのものの成長をしめす指標として読むことはできません。
設立年で区切ると、母集団の構成に違いが見えます。2021年以降に設立された16社のうち7社がデータセンタ分野に区分されているのに対し、2020年以前に設立された51社では8社にとどまります。直近に設立された企業ほど、データセンタを主たる対象分野として掲げている傾向があります。事業分野の区分は65社に付与されており(複数区分への計上をふくむ)、製造38社、エネルギー18社、データセンタ15社、ハードウェア15社、先端材料14社が上位です。製造・エネルギー分野の区分が多く、装置・設備寄りの母集団であることがわかります。
企業の状態については、65社が事業継続中、2社が買収済みです。なお、調達ラウンドの段階(シード、シリーズAなどの区分)が記録されているのは67社中4社、調達額が記録されているのは1社であるため、本レポートでは資金調達の規模や段階には踏み込まず、設立年・所在国・事業分野から母集団の性格を整理しています。
以下では、冷却技術または熱制御材料に関わる企業4社を事例として挙げます。
- Triton Thermal
- https://tritonthermal.com/
- 国:米国
- 設立:2025年
- 概要:チップ直接液冷、リアドア型熱交換器、液浸冷却、および冷却制御システムを手がける企業。本母集団の中で、キーワードとして抽出された「リアドア(rear-door)」と「液浸(immersion)」の双方を事業領域に掲げている、数少ない一社。
- Exit 1C Power and Cooling
- https://exit1c.com
- 国:米国
- 設立:2023年
- 概要:データセンタおよび産業用途向けに、電源・冷却機器を供給する企業。ラック電源分配、支持構造、冷却液分配ユニットに加え、リアドア型熱交換器、液浸冷却機器、誘電性流体を取りあつかい、配管系の試運転や水処理のサービスも提供している。機器の供給と導入支援をになう事業者であり、冷却設備を導入する側をささえる事業の一例。
- HyMet Thermal Interfaces
- https://latviaspace.gov.lv/en/directory/hymet-thermal-interfaces/
- 国:ラトビア
- 設立:2020年
- 概要:複合型の熱界面材料を製造する企業。熱の伝わりかたを構造によって制御する熱メタマテリアルにより、ヒートシンクの小型化や削減をめざし、コンピューティングや通信分野を対象としている。本母集団で調達額が記録されている唯一の企業でもあり、2020年にプレシード段階(事業立ち上げの初期段階)で約5万6千米ドルを調達した。
- meerkats world
- https://meerkats.world
- 国:インド
- 設立:2022年
- 概要:ナノ構造の金属系熱界面材料を開発する企業。垂直に並べたナノサイズの金属製円柱(ナノシリンダ)による熱伝導が技術的な特徴。グラントで確認された熱界面材料への公的投資と、事業化側の動きが重なる一例。
AIデータセンタの冷却技術の動向分析まとめ
特許・論文・グラント・スタートアップの4つのデータソースを横断的に分析した結果、次の2点が確認できました。
第一に、データセンタを明示的にあつかう論文の中では、液体側の研究が空気側に追いついてきています。2016年から2020年は空気側39件に対し液体側9件でしたが、2021年から2025年は空気側43件に対し液体側39件となりました。累計では依然として空気側が多く、置き換えというよりも並走の段階にあります。
第二に、母集団全体では、施設側の熱交換技術とチップ側の界面材料技術という二つの層が、冷却方式の違いとは独立に、それぞれ別の速度で進展しています。界面材料は空冷でも液冷でも必要になる技術であり、液冷への移行とは別の軸として捉える必要があります。加えて、この二つの層は直列につながっているにもかかわらず、両方をあつかう出願は母集団の0.7%にとどまります。この結果は、層をまたぐ設計や協業の実体を確認する必要性をしめしています。
特許では、母集団10,234件のうちデータセンタもしくはサーバに言及するものが185件にとどまり、大半は用途を限定しない熱交換・熱管理技術でした。出願機関の上位には熱交換器の専業メーカと半導体・IT機器メーカが並存しており、施設設備と計算機設計の双方に関連する技術が、この母集団にふくまれていることがわかります。
論文では、「フリップチップBGA(fcbga)」や「反り(warpage)」、「界面(interfacial)」、「ヌセルト数(nusselt)」など、半導体パッケージの熱管理と伝熱性能の解析に関する研究が、特許を上回る規模で蓄積されています。ピロープレート型熱交換器や酸化ガリウムのように、本母集団では特許より論文での出現数が多い技術も見られました。
グラントでは、米国が件数・金額ともに最多であり、二相冷却と熱界面材料が主要な助成テーマとなっています。日本は件数では米国に次ぐものの、1件あたりの助成額が小さく、金額では欧州連合・英国・ノルウェーを下回ります。なお、中国は収録期間が2020年までに限られるため、他国と同じ軸では比較していません。
スタートアップでは、事業内容を確認できた範囲でデータセンタ向けのサービス事業者が多く、冷却技術そのものを手がける企業は少数でした。ただし、この母集団の校正だけから、冷却技術の事業化における既存企業の比率や、新興企業の参入余地までは判断できません。
以上はデータソースごとの整理ですが、冒頭で示した三つの層(図1)を軸に4つのソースを横断すると、層によって進み方が異なることが見えてきます。以下の件数は、特許・論文・グラントにおいて各文献の表題または要約に、界面・輸送・放出それぞれの層を表す語が現れるかどうかで数えたものです。複数の層に言及する文献は重複して計上しており、その数は特許599件、論文165件、グラント26件、スタートアップ8社です。
界面の層は、論文とグラントの件数がもっとも多く、特許件数が増加している層です。論文2,583件のうち1,473件(57.0%)、グラント182件のうち113件(62.1%、助成額では約4,500万米ドル)がこの層に言及しており、いずれも三つの層で最大でした。特許でも2,960件(28.9%)を占め、2016年から2020年の1,247件に対し2021年から2025年は1,713件と1.37倍に増えています。特許母集団全体の件数が5,239件から4,995件へわずかに減るなかでの増加であり、増えているのはこの層だけです。論文でも同じ期間に489件から984件へ2.01倍となり、母集団全体の伸びである1.66倍を上回りました。熱界面材料や液体金属、窒化ホウ素といった素材側のテーマが各章で繰り返し現れるのは、この構造によるものと考えられます。
輸送の層は、特許・論文・スタートアップの3つのデータソースで件数がもっとも少ない層です。特許1,525件(14.9%)、論文413件(16.0%)、スタートアップ9社で、いずれも三つの層の中で最小でした。特許では2016年から2020年の939件に対し2021年から2025年は586件と0.62倍に減り、論文の伸びも1.17倍と母集団全体の1.66倍を下回っています。例外はグラントで、69件(37.9%)、助成額約2,500万米ドルと中位を占めます。ループヒートパイプや毛細管駆動を対象とする助成がグラント分析で確認されたことと整合します。受熱部と放熱部をつなぐ部分は、グラントでは一定の比重を占める一方、特許と論文では、他の層より件数が少なくなっています。
放出の層は、界面の層とは逆に、特許での構成比が高く、論文とグラントでの構成比が低くなっています。特許では6,221件(60.8%)と三つの層で最大であり、スタートアップでも29社と最多でした。一方、グラントは24件(13.2%)、助成額約1,064万米ドルで三つの層では最小、論文も750件(29.0%)にとどまります。特許の件数も2016年から2020年の3,302件に対し2021年から2025年は2,919件と0.88倍で、横ばいから微減です。プレート式熱交換器や冷凍機はすでに産業として成立しており、既存事業のなかで開発が進む可能性があります。
三つの層を並べると、論文とグラントでは界面、特許とスタートアップでは放出の件数が多く、輸送はグラントをのぞく3つのデータソースでもっとも少ないことがわかります。特許の分析で確認したとおり、チップ側と施設側の両方をあつかう出願は母集団の0.7%にとどまります。層ごとに担い手が分かれているのは、層と層の技術的な結びつきが弱いことの反映と考えられますが、チップから外気までを一本の経路として設計する役割が定まっていないという本レポートの論点は、この層別のかたよりからも裏づけられます。
これらの結果を事業判断に活用する際には、分析対象の範囲に注意が必要です。本分析の母集団は、AIデータセンタの冷却に応用できる熱交換・熱管理技術という条件で抽出したものであり、その大半はプレート式熱交換器、多管式熱交換器、熱界面材料といった用途を限定しない既存分野です。上位出願機関にもプレート式熱交換器の専業メーカが並びます。したがって、ここまでの件数がしめすのは、応用候補となる技術がどの領域にどれだけ蓄積され、誰が保有しているかであって、データセンタでの採用の進み方ではありません。データセンタまたはサーバに明示的に言及する特許は185件、データセンタに言及する論文は127件です。論文の分析でしめした空気側と液体側の比較も、この127件の中での比較です。一方、計算機側には、用途に固有の技術も見られます。ラック背面扉に熱交換器を組み込むリアドア型冷却や、発熱量の異なるダイごとに熱界面材料を使い分ける実装のように、計算機の構成に固有の課題から生まれた技術も現れています。
以上の分析から、AIデータセンタの冷却に応用できる熱交換・熱管理技術は、「液冷システムの開発・導入」と「界面熱抵抗を下げる材料開発」という二つの潮流が並行して進む領域として捉えられます。液冷システムでは装置開発や導入支援、界面材料では研究開発と事業化支援の事例が確認できました。研究段階と実装段階を分野ごとに一律に分けるのではなく、個別技術の開発段階と、材料から施設までの接続条件を見極めることが、技術獲得戦略の要点になると考えられます。
著者:アスタミューゼ株式会社 岸本 拓磨 博士(医学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「データセンタ冷却」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。