日本光学会 光エレクトロニクス産学連携専門委員会 第349回研究会「特許動向から読み解くメタレンズ・メタサーフェスの最前線と空白領域の探索」
2026年7月16日、日本光学会 光エレクトロニクス産学連携専門委員会の第349回研究会にて、弊社テクノロジー・インテリジェンス部のテクノロジーアナリスト・古川昭夫が「特許動向から読み解くメタレンズ・メタサーフェスの最前線と空白領域の探索」と題して講演しました。
目次
1. 研究会について
2. 講演:メタレンズ・メタサーフェス分野の現在地と空白領域
3. 会場で寄せられた質問と、参加者の関心
4. 東京科学大学 宮本智之教授からのコメント
5. 登壇者インタビュー
本記事では、講演の概要と当日の質疑応答を紹介します。あわせて、弊社の動向分析記事をきっかけに講演を依頼くださった、同委員会第4部会主査・東京科学大学の宮本智之教授のコメントと、登壇後に行った古川へのインタビューをお届けします。
登壇者プロフィール

1991年にソニー株式会社へ入社後、磁気記録デバイス、半導体レーザー素子およびモジュール、フローサイトメーター等の研究開発に従事。2025年より、アスタミューゼ株式会社にてテクノロジーアナリストを務める。
1. 研究会について
はじめに、古川が登壇した研究会の概要と、今回取り上げられたテーマについて紹介します。
2026年7月16日、日本光学会 光エレクトロニクス産学連携専門委員会の第349回研究会が開催されました。同委員会は、光エレクトロニクス分野における産業界と学界の研究者による情報交換と、将来的な産業創出を目的に活動しています。
今回は「メタレンズ・メタサーフェスの新展開 ―社会実装と動向、そしてアクティブ化への挑戦―」をテーマに、メタサーフェスの基礎から特許動向、アクティブ化に向けた研究まで、複数の専門家による講演が行われました。
▪日時:2026年7月16日(木)13:10~17:00
▪開催形式:ハイブリッド開催
▪会場:東京理科大学 森戸記念館(東京都新宿区神楽坂)およびオンライン
2. 講演:メタレンズ・メタサーフェス分野の現在地と空白領域
講演では、メタレンズ・メタサーフェスをめぐる世界の特許動向を俯瞰したうえで、弊社独自の「未来推定」による空白領域の探索結果を紹介しました。ここでは、その主なポイントを取り上げます。
光領域におけるメタレンズ・メタサーフェスの特許動向を見ると、全世界の出願件数は2017年の31件から2023年の819件へと、6年間で25倍以上に増加しています。

▪中国における出願が旺盛で全体件数の約60%を占める
▪米国18% と併せた2地域に8割の出願が集中
▪日本は韓国・台湾に次ぐ7位の出願件数
中国が全体の約60%、米国が18%を占め、この2カ国に約8割の出願が集中しています。日本の出願件数は韓国、台湾に次ぐ7位で、上位国と比べると少ない状況です。
国際特許分類(IPC)による分析では、G02B 1/00(コーティング関連)が13%で最多です。また、全体を上回る伸びを示す分類として、G02B 13/00(対物レンズ)などが挙げられます。
増加率の高い筆頭IPCの出願のうち、パテントインパクトスコア(PIS ※1)の高い出願事例としては、中国・中山大学のメタサーフェスの多層化設計による色収差低減を実現した特許(被引用回数33)、Lumotive社のチューナブル液晶を使ったアクティブメタサーフェス特許、カリフォルニア工科大学の分光カメラ用光学素子特許などがあります。Metalenz社のシリコンウェハ上にメタサーフェス光学素子(メタレンズ)を直接形成する技術の特許も、PIS 124、被引用回数156回と強い特許です。
トータルパテントアセット(TPA/総合特許力 ※2)ランキングでは、韓国のサムスン電子が1位となり、続いて米国の大学発ベンチャー2社(Lumotive、Metalenz)、ハーバード大学の順となりました。日本企業では浜松ホトニクスが最上位、トヨタ自動車、ソニーグループと続きます。今回のランキング全体で、日本の大学としてランクインしたのは東北大学のみでした。
TPAは権利化された特許に基づく指標ですので、2022年以降に増えている日本企業・大学による出願の登録が進むことで、今後ランキング上のプレゼンスが変化する可能性があります。なお今回の調査では、メタレンズまたはメタサーフェスに直接言及のある特許のみを対象としています。
また、アスタミューゼの「未来推定」手法を用いると、メタレンズ・メタサーフェスの空白領域を探索することができます。この手法では、文献中のキーワードの希少性を自然言語処理で用いられているIDF(Inverse Document Frequency)指標で評価し、論文数は伸びているが領域内ではまだ希少な「領域希少語」を特定します。

この手法でメタレンズ・メタサーフェス分野を探索した結果、encryption(暗号化)、absorber(吸収体)、continuum・BIC(連続域束縛状態)、label-free(ラベルフリー)などが空白領域の候補として抽出されました。なかでも古川は、BICを有望な空白領域候補のひとつとして挙げました。
※1 パテントインパクトスコア(PIS):他社への排他権としてのインパクト評価を中心に、さらに地理的な権利範囲、権利の時間的な残存期間などを重み付けしアスタミューゼが開発した定量評価指標。
※2 トータルパテントアセット(TPA):企業が保有する各特許のPISに権利の残存期間を掛け合わせて総和した、アスタミューゼ独自の総合特許力指標。

※表は2025年までのデータを掲載しています。ただし、2025年の研究資金(Grants)件数はデータベースへの収録・集計途中のため参考値です。このため、グラフは2024年までのデータを表示しています。
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メタマテリアル分析レポートを無料で読む3. 会場で寄せられた質問と、参加者の関心
講演後の質疑では、分析結果そのものに加え、未来推定の時間軸や新規事業への応用など、実務につながる質問が寄せられました。主なやり取りを紹介します。

—『未来推定』は新規事業企画にどう応用できますか?
すでに特許出願件数や研究資金、ベンチャー投資が伸びている分野は、将来性がある程度見えており、比較的リスクが低いと言えます。一方、この分析の目的は、その一歩手前の段階にある技術や分野を見つけること。将来性は不透明でも、「将来の成長可能性を示す兆し」を持つテーマを早期に発掘するための分析なので、比較的ハイリスク・ハイリターンの領域を探索する方法といえます。
—それはどのくらいの時間軸で捉えていますか?
希少性は比較的長い期間のデータをもとに評価しています。一方で、「増加しているかどうか」は直近数年の推移を対象に分析しています。
—希少性の価値や重要性を客観的に評価できる指標はありますか?
希少な分野であっても、その分野から生まれる特許のインパクトが非常に高かったり、著名な研究者(スター研究者)が関わっていたりする場合は、将来性や重要性が高いと考えられます。希少性に他の指標も組み合わせることで、その技術の将来性や可能性の確からしさを間接的に評価することが可能です。
—中国からの出願が多い一方、登録数が少ないのはなぜですか?
登録数が少ない背景については定量的な分析手段がないので明確な回答は難しいのですが、中国の出願の多くは大学や研究機関によるものです。そのため、中国では大学や研究機関が積極的に出願する制度的背景がある可能性があります。ただし、インパクトスコアという点では企業による特許が相対的に高い傾向があります。
4. 東京科学大学 宮本智之教授からのコメント
今回の講演は、研究会の中でどのような役割を果たしたのでしょうか。講演をご依頼いただいた東京科学大学の宮本智之教授に、その背景と今後への期待を伺いました。
—古川に講演をご依頼いただいた経緯と、きっかけとなった弊社の分析記事で印象に残った点を教えてください。
近年、メタレンズ・メタサーフェス分野では研究開発が活発化するとともに、市場形成や社会実装への関心も急速に高まっていることから、技術だけでなく、世界的な特許・産業動向を俯瞰する講演が必要と考えました。その中で、アスタミューゼのWeb記事を拝見し、豊富なデータと独自の分析力によって、技術の成長領域や今後の可能性を分かりやすく示していたことが印象に残り、このような分析に高い専門性を有する古川氏に講演をお願いしました。
—研究会全体のテーマにおいて、古川の講演はどのような役割を果たしたとお考えですか?
通常の研究者による講演では、特定の研究者や組織が取り組む技術とその周辺領域を中心に、具体的な成果や研究方針、研究動向を紹介いただく形が中心となります。これに対し、今回の講演には、特許情報をはじめとする幅広いデータの分析を通じて、メタレンズ・メタサーフェス分野全体を俯瞰し、世界の研究開発・競争動向や今後の空白領域を示すことで、研究会参加者が今後の研究開発方針や連携、事業展開を検討するうえで有益な情報を提供する役割を果たしたと考えています。
—研究会の今後の展望と、参加者に期待することをお聞かせください。
今後も本研究会では、個々の技術的内容に加え、特許や市場動向などの視点も取り入れることで、研究側と産業側の相互理解を深め、新たな産学連携や光技術の社会実装につながる議論を進めていきたいと考えています。メタレンズ・メタサーフェスに限らず、他の光エレクトロニクス分野においても、このような俯瞰的な分析をご紹介いただく機会を設け、参加者の研究開発方針の検討や、産学連携を通じた新規事業の創出や社会実装の推進につながることを期待しています。
5. 登壇者インタビュー
最後に、登壇した古川自身に、当日の手応えや今後注目すべき技術動向、企業が技術探索に取り組む際の視点を聞きました。
—登壇を通じて感じた参加者の反応や、質問から得た気づきを教えてください。
研究開発職を中心とする参加者の方々が、特許の個々の事例以上に技術の社会実装過程における特許出願のタイミングや、出願に対する各国の政策など、出願の在り方そのものへの興味が高いことを実感しました。
—今回最も伝えたかったことは?
文献母集団の単語出現傾向を多面的に分析する未来推定の手法により、表面上は分かりにくく生成 AI では掴み辛い、新しい技術潮流の萌芽を素早く発見できることです。
—メタレンズ・メタサーフェス分野で「これから伸びそう」なトレンド・方向性を教えてください。
光の伝搬方向への静的な作用だけでなく、伝搬の方向をアクティブに制御したり遅延させたりする動的な作用に用途が拡大していくと思われます。
—新規事業企画への応用について、企業はどう向き合うとよいのでしょうか?
新規事業の探索はひとつのアプローチ方法に限定せず、複数の手法を組み合わせて行うのが良いと思います。
—「未来推定」手法を通して見える、今後の変化と企業が向き合うべき課題は?
生成 AI の進化に伴い活用の幅が広がる中で、生成 AI による調査分析でできることとできないことを常に把握し、できない部分を補う手法を効果的に組み合わせて技術の探索を行う必要があると考えます。
—「この分析手法を自社で使ってみたい」と思った方に、次の一歩として何をお勧めしますか?
未来推定が最も力を発揮するのは隣接領域との境界を明確に定義できる「シャープな」母集団。自社で使ってみたいと思う領域がある場合は、その領域をできるだけシャープに定義できるキーワードを考えるところから始めると良いと思います。
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