社会課題&IP起点のニーズ探索によるシーズ偏重からの転換

JNC株式会社

URL
https://www.jnc-corp.co.jp/
業種
製造業
課題
  • 自社技術を活かしながら、ニーズ起点の新規事業発想への転換
  • アイデアが評価される仕組みや提案文化の不在
  • 技術の価値を社内外に伝えられる人材育成

社会課題&IP起点のニーズ探索によるシーズ偏重からの転換

1906年の創業より日本化学工業会界のパイオニアとして業界を大きくリードしているJNC株式会社。「SDGsの視点を重視した環境・エネルギー関連材料」、「高度情報化社会を実現する機能性材料」、「生活を豊かにするライフケミカル関連材料」という3つの重点分野で研究開発に取り組んでいる。しかし、新規事業創出の停滞や研究開発組織のあり方に課題を感じていたという。アスタミューゼとタッグを組むことで、どのような成果を上げることができたのか。執行役員 研究開発本部長の木部茂氏に聞いた。

インタビュイー:JNC株式会社 執行役員 研究開発本部長 木部 茂 氏

液晶事業部にてテクニカルサービス、製品開発を中心にキャリアを積み、2022年4月には液晶事業部事業部長に就任、液晶材料のグローバルビジネスの統括を担った。その後、2024年10月に研究開発本部長へ転じ、横浜研究所・JNC石油化学高機能材料開発研究所・未来技術研究所・JNCファイバーズ守山研究所を束ねる研究開発部門全体の統括を担当。
2025年4月より現職(執行役員 研究開発本部長)に就き、JNCグループの先端化学分野における研究開発戦略を推進している。

VUCAな時代を見据え、新規事業創出へと舵を切る経営判断

御社の事業内容とここ数年、御社を取り巻く事業環境にはどのような変化がありましたか?

もともと当社は液晶材料事業を主力としており、世界トップクラスのシェアを獲得した時期もありました。しかし2013〜14年頃から中国勢の台頭により競争環境が激化し、2018〜19年には全社的に赤字を計上。これを契機に、液晶事業に代わる“次の柱”の確立が重要な経営課題となりました。

その後、コロナ禍を背景に新たな柱の候補として、①シリコン材料、②ライフケミカル、③アグリ(肥料)の3事業が浮上しました。ライフケミカルは、従来から手掛けていたクロマトグラフィー用充填剤が世界的なワクチン需要の高まりにより引き合いが増え、収益拡大につながりました。またシリコン材料についても、高付加価値領域へのシフトにより一定の成果が見られました。

ただし現状、これら3事業はいずれも期待されていたほどの成長には至っていません。2030年に向けた中期経営目標も達成を見据え、経営陣の関心はこれまで以上に新規事業創出へとシフトしています。

そのような状況下で、具体的にどのような課題を抱えていたのでしょうか?

2024年10月に研究開発本部長を拝任して以降、私が強く感じたのは、部内にニーズ起点での発想がほとんど浸透していないという点です。材料メーカーという特性上、シーズ志向を完全に排除することは難しく、バリューチェーン上も川上から川下へ一足飛びに展開するのは容易ではありません。とはいえ、自社技術への過度な自信を前提に、“やれば評価してくれる“限られた顧客との関係に依存し、研究開発が長期化しているのは大きな課題でした。

研究員も事業化の経験が乏しく、アイデア創出に対して苦手意識を抱く者が少なくありません。加えて、社内のアイデア提案制度はGo/No-Goの判断基準が不明確で、「アイデアを出しても取り上げてもらえない」という不満が蓄積していました。こうした状況が重なり、ここ10数年にわたり新規事業が創出されない状態が続いていたのです。

そのような状況を打破するため、アスタミューゼに「有望領域での新規事業案創出ワークショップ」をご依頼いただいたのですね。

はい。アスタミューゼの「未来に向けて解決すべき社会課題105」という切り口が、現状打開のヒントになると直感しました。社会課題を起点としたニーズ探索に加え、自社のIP(技術資産)を起点にアイデアを構想し、それをニーズと結びつけていくアプローチであれば従来のシーズ志向にも親和性が高く、研究員も受け入れやすいのではないかと。

実は、研究開発本部への異動が決まっていた時、宮澤和利常務(当時)が既存事業の拡充に向けたアイデア創出のため、アスタミューゼのサービスを利用したことがあります。その会議に私も同席しており、開発アプローチの違いに大きな感銘を受けました。その後、研究開発本部に配属されてからもこのときの印象が強く残っており、「いつかご一緒に仕事をしてみたい」と思っていたので、研修をお願いすることにしました。

新規事業提案は0→60件に、市場・競合調査も1日程度で完了

研修と合わせ、AIエージェントを活用した新規事業特化支援サービス「イノベーションパートナー」も導入されました。どのような成果が得られましたか?

まず、研修の実施により、新規事業提案は直近3〜4ヶ月で約80件(アスタミューゼからの提案20件を除くと60件)まで増加しました。従来はほぼゼロであったことを考えると、大きな前進といえます。

また、イノベーションパートナーの導入により、市場情報から顧客・競合調査までが1日程度で完了可能になりました。提案のGo/No-Goを判断する材料が充実し、提案する側も採否を下す側もともに客観的なデータ(根拠)を持って議論できるようになり、双方にとって納得感のある意思決定ができるようになりました。

研修に関しては、意外な成果もあったそうですね。

はい。研修当日は既存のテーマをそのまま記載しているケースもあり、アイデア創出の文化を浸透させるにはまだまだ時間がかかるだろうなというのが正直な印象でした。ですが先日、別途実施した事業計画作成研修で、アスタミューゼの研修で作成した提案を持ち込んで取り組んだところ、講師から「例年に比べて非常にレベルが高い」と評価されたのです。

これまでの提案は、アイデアの独自性が弱い傾向にありましたが、今回は講師から「これほどレベルが高いなら、今後の指導方法を見直す必要がありますね」と言われるほどで、特に評価されたのは、IPを軸としつつ、ニーズや顧客価値と的確に結びつけている点でした。まさに、アスタミューゼのアプローチが高く評価されたことになります。

アスタミューゼの研修時には既存テーマを出すだけだったメンバーも、再検討の上ニーズ起点の提案へと作り直しており、明確な意識変化が見られました。不思議なことに研修を受けていないメンバーの提案スキルも着実に向上しており、やはりアスタミューゼのアプローチは研究員にとって受け入れやすいものであったと感じています。これまでベンチャーキャピタルへの投資なども行ってきましたが、資金を起点としたアプローチであるがゆえに、研究員にとってはやや馴染みにくい側面があったように思います。

アスタミューゼのサービス全般について、どのようにお感じになりますか。

AIエージェントについては、他社と比較しても非常に高機能かつ低コストであると感じています。今後は類似サービスの増加に伴い、クオリティとコストの競争が一層進むと考えられます。その結果、機能やデータベースの差異だけで優位性を維持することは難しくなり、最終的にはAIエージェントというツールを使いこなす“人”の力が競争力を左右するようになるでしょう。その点においても、アスタミューゼは早い段階から人材育成に力を入れており、他社との差別化と将来を見据えた戦略性を感じます。

AIによって作業効率や発想の補助は進む一方で、課題設定や価値の見極め、意思決定といった領域は引き続き人に委ねられます。だからこそ、その部分に対する教育や支援を先行して強化しているアスタミューゼを私は高く評価しています。

自律的に質の高い提案が次々と生まれる研究開発組織を目指す

今後の貴社の成長戦略を教えてください。

新規事業創出はこれまで研究開発部門に委ねてきましたが、これからは全社的に取り組む方針です。アウトプットの形式や評価軸を全社で統一し、研究員一人ひとりがアイデア提案から簡易的な事業計画の作成まで担える状態を整え、社内で主体的に提案・発信していく仕組みづくりが求められます。研究員が部門を越えて競い合い、相互に磨き合いながら事業化を目指すような、全社を巻き込んだ開発体制が理想的であると考えています。

また、意思決定プロセスの改革も急務です。従来、アイデアのGo/No-Go判断は基準が曖昧なまま行われることが多く、研究員の不満を招いていました。今後はAIエージェント等を活用した市場規模・競合優位性・IP状況の調査を標準化し、データに基づく客観的な評価軸を全社で共有していきます。早い段階での安易なシャットアウトをやめ、「埋まっていない部分をどう埋めるか」をマイルストーンとして設定し、段階的に可能性を検証していく仕組みに転換することで、研究員のモチベーションを維持しながら質の高い事業化候補を絞り込んでいく考えです。

さらに、研究員の社内説得力を高めることも重要な戦略の柱と位置づけています。「社内を説得できないアイデアは、顧客にも伝わらない」というのが私の持論です。技術や研究の専門家が、研究開発に詳しくない経営層や他部門に対してわかりやすく価値を伝えられるようになること、それ自体が事業化力の向上につながります。社内プレゼンを通じて提案を磨き、部門を越えた共感と協力を得ていく力を育てることが、真の意味での全社的な新規事業創出体制の確立につながると考えています。

今回のサービス活用経験を踏まえ、今後アスタミューゼと「こんなことをやってみたい」といった構想はありますか?

世界的に労働力不足が深刻化していく中では、DXの推進と同時に、一人ひとりの能力を引き上げることが不可欠です。特に研究開発領域においては、個々の研究員の構想力や事業化力を高めていくことが、企業の競争力を左右する重要な要素になると考えています。「自律的に質の高い提案が次々と生まれる研究開発組織」を作り上げることが私の使命であり、その支援をアスタミューゼにぜひお願いしたいと思っています。

加えて、スピード感のある新規事業開発にはオープンイノベーションの活用も不可欠なため、オープンイノベーション領域も含めたご支援もお願いできれば幸いです。2040年以降は世界的に労働力が絶対的に不足する時代が到来すると言われており、外国人労働力の受け入れだけでは到底補えない局面も訪れるでしょう。そのような時代を見据えると、DXによる業務効率化と、一人ひとりの研究員が持つ能力の最大化は、二つで一つの戦略です。AIエージェントで調査・分析にかかる時間を圧縮しながら、空いたリソースを構想力や提案力の向上に充てる。そのサイクルを回し続けることで、少ない人数でも高い成果を生み出せる研究開発組織へと進化させていきたいと考えています。

貴社にとって、アスタミューゼは一言で言うとどのような存在でしょうか?

当社はまだ発展途上の段階にあります。アスタミューゼはその歩みを先導してくださる「先生」であると同時に、ともに挑戦する「同志」のような存在であると感じています。

現時点では、まだサービスを十分に活用しきれておらず、挑戦者として向き合っている段階です。しかし将来的には、アスタミューゼと肩を並べ、さらには乗り越えていきたいですね。「いつか倒したい」と本気で思っています(笑)。

最後に、アスタミューゼへのメッセージやご期待があればお聞かせください。

AIエージェントについては、今後さまざまな企業から類似サービスが登場すると思います。その中で御社には、頻繁なアップデートで過度に機能を追加するのではなく、独自の調査に基づくデータベースのさらなる充実に注力していただきたいと感じています。また、使いこなす人材の育成がより重要になってくると思いますので、アスタミューゼの強みである人材教育領域での支援をさらに強化していただけるとありがたいです。

今後は信頼できるパートナーを軸に企業同士がつながり、互いに巻き込み合って、業界や市場そのものが拡張していくような世界になるでしょう。その中で、アスタミューゼがハブとなり、企業の連携がどんどん広がっていくのではないかと大いに期待しています。

ぜひそのような存在になりたいと私たちも思います。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

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