新規事業の探索例-002:デジカメ技術を起点に、「ハチが紡ぐサステナブルファッション素材を提供する養蜂DX」の実現へ

新規事業の探索例-002:デジカメ技術を起点に、「ハチが紡ぐサステナブルファッション素材を提供する養蜂DX」の実現へ

著者:アスタミューゼ 中前佳那子 博士(理学)

はじめに

前回と同様、社会課題解決型事業の創出例です。 

今回は、ソニー株式会社(以下「ソニー」)の技術を起点として新規事業の探索を行いました。同社の「デジタルカメラの画像や情報処理」技術を活用することで、バイオマテリアル・生分解性材料領域において「養蜂DXによる、ハチがつむぐサステナブルファッション素材の提供」への用途展開という着想に至りました。 

アスタミューゼが定義する「社会課題105」の中の一つである、「排出量低減・回収・再資源化によりごみ・廃棄物を低減する社会を実現する」(SDGs「つくる責任 つかう責任」に対応)に資するものです。

背景:ファッション・アパレル産業における社会課題

ファッション・アパレル産業は、大量消費・大量廃棄のビジネスモデルから環境負荷が大きく、環続可能で循環型の経済への移行が急務となっています。サステナブル素材を提供し、ファッション業界に変革をもたらそうとしている企業に Spiber 社 や Bolt Threads 社があります。

THE NORTH FACE は微生物発酵で製造される構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン」を Spiber と共同開発し、アウトドアジャケット「MOON PARKA(ムーンパーカー)」で使用しました。

adidas は Bolt Threadsと連携し、キノコ由来の素材でシューズを作りました。大手アパレルメーカーもサステナブル素材を積極的に採用し、サステナブルのトレンドがアクティブウェアブランドに浸透しています。これらウェアブランドはサステナビリティ戦略をブランド価値に繋げ、消費者の意識改革をも成し遂げようとしています。 

では、ソニーの所有するデジタルカメラ技術を用いたファッション・アパレル業界を変革する事業展開とはどういうことなのか? 順を追って説明します。 

デジカメ関連の特許を探索

ソニーが出願している公開特許公報(特開)2011-211628「画像処理装置および方法、並びにプログラム」に着目します。出願内容は「カメラにより撮像された入力画像から、前景画像からなる対象物を入力画像から正確に抽出できるようにした画像処理装置を提供」するものです。 

この特開2011-211628が牽制(注)した特許出願文献から、新規用途を探索していきます。ある特許公報が牽制した特許出願文献をリストとして確認するのは難しいですが、アスタミューゼは独自の牽制データベースを保有しているため、同特許が牽制した特許出願文献を見出すことが可能です。 

(注)特許出願された技術が、先行技術の特許出願により権利化を阻害された特許 

結果、特開2011-211628が牽制した特許出願文献の一つとして、株式会社最先端研究開発支援センターが出願している特開2017-148033「動物忌避装置及び動物忌避システム」を見出すことができました。出願内容は「画像検出により動物の存在を的確に検出し、該動物の方向に向けて液体を噴射することで該動物を忌避する動物忌避装置を提供」するものです。

さらに、ソニーが出願している特開2016-194798「情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム」にも着目します。出願内容は「カメラキャリブレーションにおいて、空間の所定の範囲をセンシングするセンサを用いた場合、ユーザの利便性を向上できる方法を提供」するものです。 

こちらは牽制した特許出願文献として、オムロン株式会社が出願している特開2018-151886「環境センサ」が見つかりました。出願内容は「周囲環境に関わる複数種類の物理量の測定が可能な環境センサにおいて、環境測定の効率または質を向上させることが可能な方法を提供」するものです。

これらの牽制関係から、ソニーの「カメラの画像や情報処理」技術を活用し、「巣箱の気温や湿度をコントロールし、さらに、害虫を検知して必要なところに殺虫剤を散布するスマート養蜂」への用途展開という着想が得られました。

そこでアスタミューゼの所有するスタートアップデータベースを参照したところ、このような養蜂自動化を実現しているイスラエルのスタートアップ企業 Beewise Technologies がヒットしました。

養蜂DXとサステナブル繊維

Credit: Beewise Technologies
出典:https://www.beewise.ag/

養蜂の主役となるミツバチは、人間が食べる果物や野菜、種子、ナッツ類のポリネーター (花粉媒介者)として世界の食糧供給を支えています。そのミツバチの個体群全体が突然死するコロニー崩壊は深刻な問題で、それを防ぐためには害虫駆除と巣箱の環境の最適化が重要です。ソニーの高度なAI認識技術により、膨大なミツバチの行動データからミツバチの健康状態の把握や行動予測を行う養蜂DXを実現するためのシナリオが描けます。

養蜂DXが実現した場合、ミツバチの「進化」を促すことも期待されます。ニュージーランドのスタートアップ企業 Humble Bee Bio は、合成生物学的アプローチによりミツバチを操作し、持続可能なバイオプラスチックを作ろうとしています。具体的には、オーストラリア固有のミツバチ種であるバンクシアハチ(Hylius nubilosus)に着目し、その巣を覆うセロファンのような物質をプラスチック代替素材として利用します。同社はバンクシアハチの遺伝子コードを抽出して巣材を作る役割を担う遺伝子の特定に成功しており、これから実際にミツバチを使った実験を開始しようとしています。

Credit: Humble Bee Bio
出典:https://www.humblebee.co.nz/

このようなバイオプラスチックを生み出すミツバチの生育を養蜂DXにより最適化し、サステナブル繊維を量産するというシナリオも考えられます。「ハチが世界を救う」として訴求できるサステナブル素材を提供することで、ファッション・アパレル業界は環境対応に沿ったブランド戦略に繋げることができます。

さらにくわしい分析は…… 

アスタミューゼでは、特許に関する牽制データベースを用いて、技術の新規用途の探索が可能です。自社が保有する技術を基点に、牽制データベースを参照することで、自社保有技術を活用した新規事業案創出を支援いたします。また、自社だけでなく、自社がウォッチする競合他社の類似技術も対象に入れて牽制データベースを参照することで、自社が属する業界から異業種異分野への新規参入も検討することが可能になります。 お問い合わせはこちらへお願いします。 

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