AI駆動型タンパク質設計:創薬・産業用酵素の開発を変える生成AI
著者:アスタミューゼ株式会社 平澤 輝一 博士(理学)
AI駆動型タンパク質設計とは
本レポートでいうAI駆動型タンパク質設計とは、酵素や抗体、受容体などの複雑な立体構造をもつタンパク質から、比較的分子量の小さいペプチドまでを対象に、人工知能(Artificial Intelligence:AI)の一種である深層学習などをもちいて、ねらった機能をもつ分子を計算機上で設計する技術体系をさします。
設計の対象は、新しいアミノ酸配列や立体構造をゼロから作りだすデノボ設計にくわえ、天然のタンパク質への変異導入や化学修飾による機能改変もふくめています。タンパク質設計の根底には、アミノ酸をどうならべるかという課題があります。その組みあわせは天文学的な数にのぼるため、有用な機能をもつ分子を見いだすことは、きわめて困難な課題とされてきました。
従来のタンパク質設計は、変異の導入と選抜をくりかえす指向性進化や、ウイルスの一種であるファージに分子を提示して選抜するファージディスプレイ法など、実験的手法と研究者の専門知識や経験を活用してきました。指向性進化のような手法では、出発点となるアミノ酸配列からかけはなれた範囲を探索することがむずかしく、探索範囲がかぎられる場合があります。くわえて、研究者がすべての設計候補を検討することはむずかしく、原子や分子の動きを計算する分子動力学シミュレーションによる評価は計算コストが高く、大規模な機能検証実験には多大な労力を要するという課題をかかえていました。
近年のAI駆動型タンパク質設計では、これらの課題を軽減し、機能性タンパク質の開発を高速かつ高精度に実現することが試みられています。
次世代のAI駆動型タンパク質設計は、目的とする機能や構造の条件におうじて、立体構造やアミノ酸配列の候補を計算機上で生成できる点が特徴です。2024年のノーベル化学賞は、タンパク質の立体構造をアミノ酸配列から高精度に予測するAI「AlphaFold2」を開発したJohn Jumper氏、Demis Hassabis氏と、計算機によるタンパク質設計で成果をあげたDavid Baker氏に授与されました。構造生成AIのRFdiffusionは、構造予測モデルのRoseTTAFoldを基盤としています。構造予測と生成設計を組みあわせることで、設計候補の生成と評価を進められます。
RFdiffusionなどの構造生成AIが設計した立体構造にアミノ酸配列を割りあて、その配列からAlphaFoldなどの構造予測AIが折りたたみ構造を予測して整合性を評価することもでき、標的分子に結合するタンパク質(バインダ)の設計、治療用酵素や産業用バイオ触媒の設計、免疫反応を引きおこす性質(免疫原性)の最適化をめざすワクチン抗原の設計など幅広い領域で応用が急速にすすんでいます。
実際に、計算機設計されたタンパク質が自己集合して形成するナノ粒子をもちいた新型コロナウイルスワクチン「SKYCovione」は、韓国や英国で承認された事例です。世界保健機関(World Health Organization:WHO)の緊急使用リストには2023年に掲載され、計算機による設計が医薬品の開発につながった事例として位置づけられます。
本レポートでは、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許、論文、グラント(競争的研究資金)における「AI駆動型タンパク質設計」に関連する技術動向を分析しました。また、この分野のスタートアップを中心に、関連企業の事例もまとめました。
AI駆動型タンパク質設計に関連する特許の動向
アスタミューゼの保有する特許データベースから、「デノボ(新規)設計」、「計算的・生成的設計」、「AI手法」などの技術要素を要約にふくむ特許母集団1,224件を抽出し、ふくまれるキーワードの年次推移から近年言及がふえている技術要素を探るキーワード分析を実施しました。キーワードの変遷を把握することで、特許で言及される技術要素の変化を定量的に評価できます。
2016年以降に出願されたAI駆動型タンパク質設計関連特許のキーワードの年次推移が図1です。

キーワードごとのGrowthは、2016年から2025年までの出現回数と、2021年以降の出現回数の比で定義されます。値が1に近いキーワードほど、対象期間のうち直近の期間に出現が集中していると解釈します。
図1に掲載されたキーワードはすべてGrowthが1であり、これらのキーワードの出現が近年に集中していることが読みとれます。その中からとくに注目のキーワードを紹介します。
- タンパク質言語モデル(protein-language-model):大量のタンパク質のアミノ酸配列を「言語」に見立て、そのならびの規則性や進化に関する情報を深層学習するAIモデル。
- ProteinMPNN(抽出語:proteinmpnn):米国のワシントン大学のDavid Baker教授らの研究室が開発した、タンパク質の立体構造からアミノ酸配列を設計する深層学習モデル。このように構造から配列をもとめることを逆フォールディングという。
- RFdiffusion(抽出語:rfdiffusion):米国のワシントン大学のDavid Baker教授らの研究室などが開発した、拡散モデル(ノイズを段階的にとりのぞいて構造を生成するモデル)をもちいて新しいタンパク質の立体構造をデノボ設計する、オープンソースのAIシステム。
- AlphaFold(抽出語:alphafold):Google DeepMindが開発した、アミノ酸配列からタンパク質の立体構造を予測するAIシステム。AlphaFold2は、予測対象と進化的に関連する複数の配列をならべて比較する多重配列アライメント(Multiple Sequence Alignment:MSA)などの情報を予測に利用する。
- ESMFold(抽出語:esmfold):Metaが開発した、単一のアミノ酸配列からタンパク質の立体構造を高速に予測するAIモデル。予測時にMSAを必要としない。
これらのキーワードの出現は、構造予測や配列・構造の設計にAIモデルを利用する特許が、近年見られるようになったことをあらわしています。2024年のノーベル化学賞でも注目された分野であり、AI駆動型タンパク質設計の実用化が着々と進んでいることを反映しています。
以下に、「RFdiffusion」と「AlphaFold」に関する特許事例を紹介します。
RFdiffusion
- 人工的に合成されたポリペプチドP2およびヘルペスウイルス感染に対するその応用
- 公報番号:CN120349386A
- 公開年:2025年
- 機関/企業:LANZHOU VETERINARY RESEARCH INSTITUTE, CHINESE ACADEMY OF AGRICULTURAL SCIENCES (CHINA CENTER FOR ANIMAL HEALTH AND EPIDEMIOLOGY, LANZHOU BRANCH)
- 国:中国
- 概要:ヘルペスウイルスが宿主に感染する際、ウイルス糖タンパク質gDが宿主受容体Nectin-1と結合するが、本特許ではNectin-1の結合にもちいられるアミノ酸残基にもとづき、RFdiffusionをもちいて人工ポリペプチドP2を設計・取得した。同公報では、P2について、評価条件下で毒性をしめさず、ヘルペスウイルスの一種である火星狂犬病ウイルス(Pseudorabies Virus:PRV)の感染を阻害したと報告している。ウイルス感染におけるNectin-1の重要度の共通性から、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)や2型(HSV-2)など広範なヘルペスウイルスに対する新規治療薬開発への応用も期待される。
AlphaFold
- 微小筋萎縮性疾患耐性関連タンパク質Utro-H1/H3、コード遺伝子、組換えベクター、組換えウイルス、製品および用途
- 公報番号:CN120988093A
- 公開年:2025年
- 機関/企業:SHENZHEN RUIGENG BIOMEDICAL TECHNOLOGY CO., LTD.、 BEIJING SPORT UNIVERSITY
- 国:中国
- 概要:AlphaFold 3をもちいて野生型ユートロフィンの立体構造を予測し、その構造情報と各部位の機能に関する知見にもとづいて、送達キャリア(ウイルスベクター)の搭載容量制限におさまるよう局所構造の保持や削除の判断、部位の融合などの改変をおこない、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療をめざすミニユートロフィン(Utro-H1/H3)を設計・創出した。
続いて、特許出願数の国別動向です。企業や研究機関の出願する特許の傾向には、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術と関連する短中期の動向が反映されます。
AI駆動型タンパク質設計に関連する特許の国別出願件数の年次推移が図2です。なお、特許データは出願から公開までにタイムラグが存在するため、2024年までのグラフとなっています。

特許出願数では、中国の特許出願の伸びが著しく、アメリカや欧州からの出願も複数見られます。
中国ではZHEJIANG UNIVERSITY OF TECHNOLOGYやJIANGNAN UNIVERSITYといった大学を中心に、深層学習をもちいた立体構造の予測や酵素の改変に関する出願が顕著で、AI駆動型タンパク質設計に関する特許戦略が活発化していることがうかがえます。
AI駆動型タンパク質設計に関連する論文の動向
企業や研究機関が発表する論文は、研究開発段階にあり、特許と比較して社会実装までに時間を要する技術の中長期的動向を反映します。
特許分析と同様に、AI駆動型タンパク質設計と関連する特徴的なキーワードをふくむ論文母集団6, 710件を抽出しました。2016年以降に出版されたAI駆動型タンパク質設計に関連する論文の概要にふくまれるキーワードの年次推移が図3です。

特許同様、図3に掲載されたキーワードはすべてGrowthが1であり、掲載語の出現が近年に集中していることが読みとれます。その中からとくに注目のキーワードを紹介します。
- 小型結合タンパク質(minibinder):特定の標的タンパク質に強く結合するように設計された、小型のタンパク質。本レポートではAIなどをもちいてデノボ設計するものを取りあげる。通常50〜70個のアミノ酸からなり、構造がコンパクト。
- アミノ酸置換スコア行列(Blocks Substitution Matrix:BLOUSUM):タンパク質のアミノ酸配列の類似性を評価し、配列を位置合わせするために使用される行列。どのアミノ酸同士が置き換わりやすいかをスコアであらわす。古くから使われてきた。近年では、AlphaFoldが予測した立体構造モデルを利用し、BLOSUMの手法を応用して「AFSM(AlphaFold Substitution Matrix)」という新しいアミノ酸置換行列を導出する研究もおこなわれている。
- ProGen2(抽出語:progen2):10億以上のタンパク質配列を学習し、最大64億パラメータにスケールアップされた生成AIモデル。新規の有用なタンパク質配列の生成や、タンパク質の昨日や性質に関する評価値(適応度)の予測においてすぐれた性能をしめす。
- タンパク質配列をあつかう言語モデル(ProteinBERT):自然言語処理のBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)モデルをタンパク質のアミノ酸配列に応用し、配列の構造や機能を高速に解析・予測するために開発された深層学習言語モデル。
- ProtGPT2(抽出語:protgpt2):文書生成AIのGPT-2と同種のモデル構造を採用した、タンパク質のアミノ酸配列をゼロから生成する、7億3,800万パラメータを持つ自己回帰型言語モデル(前の配列をもとに次のアミノ酸を順に生成するモデル)。
- OpenFold(抽出語:openfold):AlphaFold2を深層学習用ソフトウェアのPyTorchで再実装した、学習可能なオープンソースのタンパク質構造予測モデル。
- AlphaFold3(抽出語:alphafold3):生体分子の立体構造や分子間相互作用を高精度に予測するAIモデル。タンパク質だけでなく、DNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)、イオン、小分子などのリガンド(結合相手となる分子)などの複合体構造を一度に予測できる。
- OmegaFold(抽出語:omegafold):Helixon社が開発した、単一のアミノ酸配列からタンパク質の立体構造を予測する深層学習プログラム。進化的に関連する配列が見つかりにくいオーファンタンパク質や抗体など、MSAの作成がむずかしい対象への応用が検討されている。
上記の論文キーワードからわかるように、AI駆動型タンパク質設計分野では、タンパク質をあつかう深層学習モデルの開発が進み、各モデルの特徴を活かした多様なアプローチが可能となってきています。OpenFoldによる再学習や内部解析のしやすさ、OmegaFoldのMSAに依存しない予測手法も特徴です。
以下に、OpenFoldを活用した研究と、OmegaFoldなどを比較対象とする研究論文の事例を紹介します。
OpenFold
- Enhancing protein structure predictions: DeepSHAP as a tool for understanding AlphaFold2 (タンパク質構造予測の向上:AlphaFold2理解のためのツールとしてのDeepSHAP)
- 雑誌名:Expert Systems with Applications
- 出版年:2025年
- DOI:10.1016/j.eswa.2025.127853
- 機関名:University of Patras(ギリシャ)
- 概要:AlphaFold2は深層学習用ソフトウェアのJAX/Haikuで実装されており、PyTorch向けの説明可能AIツールをそのまま適用することはむずかしい。本研究では、AlphaFold2をPyTorchで再実装したOpenFoldを利用し、予測に各入力がどの程度寄与するかを解析するDeepSHAPを適用した。これにより、構造予測モデルの判断過程を分析した。
OmegaFoldなどとの比較:SPIRED
- An end-to-end framework for the prediction of protein structure and fitness from single sequence (単一配列からのタンパク質構造および適応度の予測を実現するエンドツーエンドのフレームワーク)
- 雑誌名:Nature Communications
- 出版年:2024年
- DOI:10.1038/s41467-024-51776-x
- 機関名:Tsinghua University(中国)
- 概要:ESMFoldやOmegaFoldをはじめとする単一配列に基づく構造予測手法は、推論速度と予測精度のバランスにすぐれ注目されている。本研究で提案するSPIREDは、同論文の評価条件で、比較対象と同等の精度を維持しながら推論速度を約5倍に向上させ、学習コストを1桁以上削減した。さらに、SPIRED-Fitnessは単一配列から構造と適応度を迅速・高精度に予測する。また、派生モデルのSPIRED-Stabは変異によるタンパク質安定性への影響予測で同論文の比較条件における最高性能を達成した。
図4は論文の国別出版件数の年次推移です。

国別論文出版件数では、アメリカや中国が急伸しています。これらの国で研究活動が活発におこなわれていることがうかがえます。また、紹介した論文事例からは、予測の高度化や内部解析の手法が研究されていることがわかります。モデルやコードの公開は、開発元以外の研究機関による検証や改良にもつながり、研究開発が活発化していると考えられます。
AI駆動型タンパク質設計に関連するグラントの動向
続いて、グラント(競争的研究資金)の動向を分析します。企業や研究機関に交付されるグラントは、特許や論文と比較して社会実装にさらに長い時間が必要な研究計画段階にある技術と関連する長期の動向が反映されます。
特許と論文の分析と同様に、AI駆動型タンパク質設計に関連する特徴的なキーワードをふくむグラント母集団919件を抽出しました。2016年以降のAI駆動型タンパク質設計に関連するグラントの要約にふくまれるキーワードの年次推移が図5です。

図5に掲載されたキーワードのGrowthは高く、掲載語の出現が近年に集中していることが読みとれます。その中からとくに注目のキーワードを紹介します。
- CRISPR類似タンパク質制御システム(crispr-analogous):生成AIで設計したペプチドをもちい、ゲノム編集で知られるCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)に類似した配列に応じて標的を指定できるタンパク質制御をめざす研究。タンパク質全体をあつかうプロテオーム編集システムの構築をめざす。分解や、ユビキチンという目印を外す脱ユビキチン化による安定化をつうじて、タンパク質の量やはたらきを制御する。さらに言語モデルを活用し、病原性変異体や翻訳後に修飾されたタンパク質を選択的に標的化・修飾することをめざす。
- タンパク質間相互作用の予測(Predicting Protein-Protein Interactions :PrePPI):タンパク質間相互作用を予測・網羅する構造ベースのデータベースおよび予測解析手法。とくにヒトのタンパク質間相互作用ネットワーク(インタラクトーム)では、約130万件のタンパク質間相互作用が登録・予測されており、研究者はWebサーバ(PrePPI Webserver)を通じて特定のタンパク質を検索し、その相互作用の予測結果、複合体の立体構造モデル、および機能に関する注釈を閲覧・解析できる。近年のアップデートでは、AlphaFoldによって予測された高精度なドメイン(タンパク質内の構造・機能上の単位)の構造も取りいれられている。
- タンパク質スイッチLOCKR(Latching Orthogonal Cage/Key pRotein):「Cage(籠)」「Latch(閂・ラッチ)」「Key(鍵)」という3つの要素から構成される、分子レベルの錠前システム。自然界にあるタンパク質を改造するのではなく、タンパク質の構造解析・設計ソフトウェアRosettaをもちいてデノボ設計された。鍵となるシグナル分子などが籠に結合すると、ラッチが押し出されて外れ、隠されていた生理活性ペプチドが露出して作動する仕組み。
- 量子力学クラスターモデル(qm-cluster):酵素の活性部位や触媒反応のメカニズムを解析するために使われる手法。酵素などのタンパク質全体を量子力学で計算する代わりに、反応が起きる中心部分だけを切り出して計算することで計算負荷を大幅に抑えつつ、反応の解析を行なう。
- 実用に根ざしたタンパク質設計の加速(Use-Inspired Acceleration of Protein Design:USPRD):実用にねざしたタンパク質設計の加速を目的とした、米国国立科学財団(National Science Foundation:NSF)が主導する約4,000万ドル規模の大型研究投資イニシアチブ。AIや機械学習を活用して、自然界にない新しい機能を持つ「人工タンパク質」の設計と実用への展開をうながす。
これらのキーワードからは、新規タンパク質の応用や計算手法の効率化、タンパク質間相互作用の解析など、多様な研究への支援が見られます。ヒトのインタラクトームを対象とする解析でも、AIによる構造予測が活用されています。また、アメリカでは、USPRDのような大型の研究支援が進められており、設計技術の応用拡大が期待されます。
以下に、LOCKRとUSPRDに関するグラント事例を紹介します。
LOCKR
- De novo design of a generalizable protein biosensor platform for point-of-care testing(臨床現場即時検査に向けた汎用的タンパク質バイオセンサプラットフォームのデノボ設計)
- 配賦機関:米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)
- 期間:2023年-2027年
- 研究機関名:UNIVERSITY OF CALIFORNIA SANTA CRUZ (アメリカ)
- 概要:計算機をもちいたタンパク質設計によるモジュール式スイッチ「LOCKR」を基盤とし、臨床現場即時検査で活用できる汎用的なバイオセンサプラットフォームの開発をめざす。LOCKRのモジュール性と新規タンパク質結合体設計の融合により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や心筋疾患などに関連するバイオマーカ(診断の指標となる分子)を検出し、発光や色の変化をしめす迅速・高感度な診断システムを実現することで、医療現場や家庭における診断の質向上をめざす。
USPRD
- Ideas Lab: USPRD: De Novo Design and Evolution of Enzymes for Biomass Upcycling to Surfactants and Fuels (Ideas Lab: USPRD: 界面活性剤および燃料へのバイオマスアップサイクリングに向けた酵素のデノボ設計と進化)
- 配賦機関:米国国立科学財団
- 期間:2025年-2027年
- 研究機関名:UNIVERSITY OF CALIFORNIA, SANTA BARBARA (アメリカ)
- 概要:AIや機械学習を活用したタンパク質設計技術により、植物バイオマスを燃料や界面活性剤などの付加価値の高い化学品へ変換する新規酵素を創出・最適化する取りくみ。分子動力学シミュレーションや指向性進化法を融合し、酵素の活性・安定性・基質特異性(特定の反応相手を選ぶ性質)を向上させる。産業界との連携による社会実装や人材育成も推進し、AI駆動型酵素設計を通じた持続可能なバイオモノづくりの基盤確立をめざす。
つづいて、グラントの件数および配賦額(均等割)を見ます。AI駆動型タンパク質設計に関連するグラントの国別の件数推移が図6、配賦額の推移が図7です。中国はグラントデータの開示状況が年次により大きく異なり、実態を反映しない可能性が高いことから除外しています。また、公開直後のグラント情報はデータベースに収録されていない場合があり、直近の集計値については過小評価されている可能性があります。


グラント件数ではアメリカが最多ですが、日本も一定数が確認されました。配賦額ではアメリカが圧倒的に多く、欧州連合などが続いています。日本のグラントについては、科学研究費助成事業(科研費)や日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)、科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency:JST)による支援が見られました。
日本では、大規模配列データに基づく効率的酵素進化サイクルの研究、機械学習支援による合理的設計手法の確立と合成酵素複合体の機能向上、AlphaFoldも利用した血液がんに対するヒト化二重特異性抗体の探索など、多様なタンパク質のAI駆動型設計・機能改変に資金投入がおこなわれています。
AI駆動型タンパク質設計に関連する企業の事例
AI駆動型タンパク質設計分野では、スタートアップをはじめ、さまざまな企業が技術開発や資金調達に取りくんでいます。以下に、関連企業の事例を紹介します。
- DeepMind
- https://deepmind.google/
- 所在国/創業年:イギリス/2010年
- 事業概要:Google DeepMindは、言語、視覚、音声、ロボットなどを動かす身体性AIにわたる多様なモデルやプロダクトを開発。またAlphaFoldをはじめとする科学分野に特化したAIや、自律的に処理を進めるエージェントシステムを構築している。
- Chai Discovery
- https://www.chaidiscovery.com/
- 所在国/創業年:アメリカ/2024年
- 事業概要:標的構造や配列から抗体や小型タンパク質(miniprotein)など多様な分子をAIで設計するプラットフォームを提供。分子間相互作用の予測とデノボ設計により候補を実験で選別するスクリーニングの負担軽減をめざす企業。
- Skape Bio
- https://www.skape.bio/
- 所在国/創業年:デンマーク/2025年
- 事業概要:薬剤開発がむずかしい標的をふくむGタンパク質共役型受容体(G Protein-Coupled Receptor:GPCR)を標的に、AI設計のデノボ小型タンパク質(受容体を活性化するアゴニスト、または作用を阻害するアンタゴニスト)によるバイオ医薬品を開発。生成型タンパク質設計と細胞内で多数の候補を効率よく評価するスクリーニングを統合したアプローチをとる。
- Aizen Therapeutic
- https://www.aizentx.com/
- 所在国/創業年:アメリカ/2022年
- 事業概要:天然のタンパク質を構成するL-アミノ酸と鏡像関係にあるD-アミノ酸のみで構成される「Mirror Peptides」を、生成AIとガイド付き拡散モデルで設計するDaX platformを保有。分解されにくい分子の設計にむけた技術を開発。
- MAbSilico
- https://www.mabsilico.com/
- 所在国/創業年:フランス/2017年
- 事業概要:抗体医薬の設計・発見をAIで支援するデジタル技術を生命科学に活用するTechBio企業。立体構造のモデル化、相互作用シミュレーション、配列解析を組みあわせて抗体医薬品候補を選別。また、自然言語処理技術を活用して多様なデータベースから抗体や標的に関する情報を収集し、競合分析なども実施。
- BioMap
- https://www.biomap.com/
- 所在国/創業年:アメリカ/2020年
- 事業概要:タンパク質中心の大規模言語モデルプラットフォーム「xTrimo」を構築し、タンパク質が関与する生命現象を幅広くモデル化。言語モデル技術をタンパク質設計に応用する企業。
- PROTESYN STUDIO
- https://protesyn.studio/
- 所在国/創業年:イギリス/2025年
- 事業概要:大規模言語モデルと拡散モデルを組み合わせ、自然言語による指定を機能的で安定したタンパク質配列へ変換するtext-to-protein(文章からタンパク質を設計する)プラットフォームを開発。言語による指定とタンパク質設計を結びつける。また、同等の機能特性を維持できる異なる分子配列を提供することで、知的財産上の要件への対応をめざすタンパク質変異体の生成も支援する。
これらの企業は、拡散モデル、大規模言語モデルなどの生成AIを活用し、デノボ設計をはじめとするAI駆動型タンパク質設計技術を開発しています。小型タンパク質や抗体など、多様なタンパク質の設計への取り組みも活発です。
設計プラットフォームの研究開発のみならず、スクリーニング技術との連携も進められており、設計候補の生成と実験評価の連携による実用性の向上が期待されます。また、配列変異体の生成技術も向上しており、用途に応じた機能の調整につながると期待されます。
AI駆動型タンパク質設計に関連する技術動向のまとめ
本レポートでは、AI駆動型タンパク質設計に関連する特許、論文、グラント、および関連企業のデータベースにもとづいて分析をおこないました。
特許分析からは、「ProteinMPNN」「RFdiffusion」「AlphaFold」といったAIモデルへの言及が、対象期間の後半に集中していることがわかりました。構造予測や設計にAIを利用する出願が見られ、AI駆動型タンパク質設計の社会実装が進展していることをしめしています。
論文分析からは、構造予測や配列生成をになうモデルが多様化し、モデルやコードの公開によって検証や改良の機会が拡大していることがわかりました。「ProGen2」「ProteinBERT」「ProtGPT2」「OmegaFold」といった多様な深層学習モデルが出現しており、AlphaFoldとは異なるモデルをもちいたタンパク質設計への多様なアプローチが研究されています。また、中国やアメリカがこの分野の論文出版件数で上位にあることがしめされました。
グラント分析からは、人工的に設計したタンパク質やペプチドの改良・応用をめざす研究への支援が見られました。「CRISPR類似タンパク質制御システム」や「LOCKR」に関する研究への資金配分がそのことをしめしています。また、量子力学クラスターモデルによる酵素の活性部位の解析や、PrePPIによるタンパク質間相互作用の解析など、対象とする範囲の異なる研究が見られます。PrePPIではAlphaFoldによる構造予測も活用されています。
企業事例では、AlphaFoldを開発したGoogle DeepMindをはじめとするさまざまな企業が、それぞれのアプローチでAI駆動型タンパク質設計に取りくんでいることがわかりました。AIによる実験量の削減や、AIモデルと効率的な実験プラットフォームの統合が進められており、タンパク質やペプチドをもちいた創薬の大きな加速が期待されます。また、「Mirror Peptides」に代表されるような挑戦的な研究も、AIによってスクリーニングやシミュレーションを効率化することで推進が期待されます。時間や費用の制約で探索がむずかしかった領域へ、研究開発の範囲が広がる可能性があります。
今回の分析では、設計候補の探索範囲を広げること、計算を高速化すること、計算上の設計と実験評価を連携させることをめざす研究や事業の事例が見られました。2024年のノーベル化学賞でも注目されたこの分野では、創薬や産業用酵素などへの応用が期待されます。今後は、AIが生成した候補について、用途に必要な機能や安全性、製造可能性を実験で検証することが実用化に向けて重要となります。
著者:アスタミューゼ株式会社 平澤 輝一 博士(理学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「AI駆動型タンパク質設計」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
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