映画・アニメーションもやはり「あの国」が強い! 3DからXR、さらにAI活用の時代が迫る関連技術の現状と未来

映画・アニメーションもやはり「あの国」が強い! 3DからXR、さらにAI活用の時代が迫る関連技術の現状と未来

著者:アスタミューゼ株式会社 神田知樹 修士(工学) / 源泰拓 博士(理学)

はじめに

日本映画製作者連盟の発表(注1)によれば、日本の映画興行収入は、2019年に2,612億円。2020年には1,433億円に減少しましたが、2022年には2,131億円に増加しました。

注1:一般社団法人 日本映画製作者連盟「日本映画産業統計」
http://www.eiren.org/toukei/index.html

アニメ産業レポート2022(注2)によると、日本国内におけるアニメ産業の市場規模は、2019年に2兆5,145億円。2020年には新型コロナの影響を受けて2兆4,199億円に減少しましたが、2021年には2兆7,422億円となり、コロナ禍前の2019年をも上回りました。

注2:一般社団法人 日本動画協会「アニメ産業レポート」
https://aja.gr.jp/jigyou/chousa/sangyo_toukei

Statista社(注3)によると、世界のアニメ産業の市場規模は2022年に3,910億ドルに達し、2030年には5,870億ドルに達すると予測されています。映画産業・アニメ産業はコロナ禍でうけた打撃を乗り越え、成長傾向にあるといえます。

注3:Statista 「Size of the animation market worldwide from 2020 to 2030」
https://www.statista.com/statistics/817601/worldwide-animation-market-size/

映画産業・アニメ産業が発展を見せる一方、アニメーション制作の労働環境が問題となっています。アニメーション制作者実態調査報告書(注4)によれば、制作者のうち、1ヶ月あたりの平均休日数が4日以下の割合は約4割にのぼります。制作現場に重い負荷がかかっている状態にあるといえます。

注4:一般社団法人日本アニメーター・演出協会「アニメーション制作者実態調査2019」
http://www.janica.jp/survey/survey2019_report.html

映画やアニメーション等の映像制作者の負荷を軽減する技術として、動画生成AIやアニメ生成AIが注目を集めています。2023年5月、Stability AI社は、アニメーション生成ツール「Stable Animation SDK」(注5)をリリースしました。作成したい動画のイメージをテキストや画像で入力すると、そのイメージに沿ったオリジナルのアニメーションを作成することができます。

注5:Stability AI Announcements 「Stability AI、開発者向けテキストからアニメーションへの変換ツール Stable Animation SDK をリリース」
https://ja.stability.ai/blog/stable-animation-sdk

一方で、生成AIが映画・アニメ制作者の雇用を奪うという危惧もあります。人の代わりにAIが脚本家となった映画がすでに制作されています。2022年3月、株式会社Alesが開発した生成AI「フルコト」が出力したストーリーをもとに、短編映画「少年、なにかが発芽する」(注6)が制作され、第17回大阪アジアン映画祭に出品・公開されました。

注6:第17回大阪アジアン映画祭「少年、何かが発芽する」
https://www.oaff.jp/2022/ja/program/hs01.html

生成AIは、過去の作品を大量に学習し、そのデータを利用して新たな作品を作成します。そのため、全米脚本家組合(Writers Guild of America, WGA)(注7)や米映画俳優組合(Screen Actors Guild – American Federation of Television and Radio Artists, SAG-AFTRA)(注8)は、生成AIによる作品生成は著作権や肖像権の侵害にあたると主張し、使用の禁止や補償の制度を求めてストライキを起こしました。

注7:全米脚本家組合(WGA)「WGA ON STRIKE」
https://www.wgacontract2023.org/
注8:米映画俳優組合(SAG-AFTRA)「SAG-AFTRA Strike」
https://www.sagaftrastrike.org/

映画・アニメーション技術の開発には期待と不安の両面から、注目が集まっています。本レポートでは、映画・アニメーション制作に関する技術及び3DやVRヘッドセットといった映像の上映・視聴・鑑賞に関する技術を対象に、アスタミューゼのデータベースを用いて、その動向を見ていきます。

映画・アニメーションに関する特許出願の動向とスコア

映画・アニメーションに関連する特許は、2001年以降、全世界で10万件あまりが出願されています。図1は、特許出願件数上位5か国の、国別の出願動向です。2020年以降、特許出願数が減少しているようにも見えますが、特許は出願から公開までに時間を要する(18か月以上)ため、直近の特許出願は反映されていません。

2012年までは日本が特許出願数で1位でしたが、2013年にアメリカに抜かれました。2015年以降は中国の特許出願が増加して出願数トップとなり、以降は中国が他国を大きく引き離しています。

図1:映画・アニメーションに関する特許出願件数上位5か国の国別の出願数の推移(2001年~2021年)

アスタミューゼでは、出願件数だけではなく、特許の「強さ」を指標化して、技術力評価するためのスコアリング手法を開発しています。各特許が持つ他社への脅威度(他社の特許査定の拒絶理由として何回引用されたか?)や、権利の地理的範囲(同じ発明を何か国に出願したか?)などの重要な変数にもとづいて、競争力を評価するパテントインパクトスコアを特許1件ごとに付与します。続いて、各特許出願人ごとの総合的な特許競争力を示すトータルパテントアセットを算出します。そして、出願人のトータルパテントアセットを帰属国ごとに集計し、帰属国のトータルパテントアセットとしています。以上の流れで、2001年から2022年までに全世界で出願された、10万件あまりの映画・アニメーションに関する特許に対し、競争力の定量評価を行いました。

帰属国別のトータルパテントアセットのランキングが図2です。

図2:出願特許の帰属国別トータルパテントアセットランキング(2001年~2022年)

出願件数では中国が1位であり、僅差で2位日本、3位アメリカ、大きく差をつけて4位韓国と続きます。トータルパテントアセットでも中国が1位であり、2位アメリカ、3位日本、4位韓国と続きます。

中国では、17時から21時にテレビで海外アニメを放送することが禁じられています。また、2021年4月からインターネットにおいても、中国当局の検閲を通過し認可が付与された海外アニメしか配信できなくなっています。海外アニメを強く規制する一方、国産アニメ企業には税制上での優遇措置を設けています(注9)。これらの政策から、中国が現在アニメ産業に力を入れていることがうかがえます。政策による後押しを受けてアニメーション制作の開発が進められ、特許出願数が急増したと考えられます。

注9:日本貿易振興機構「中国のアニメに関する市場調査」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2023/72218cac73449251/animation-rev.pdf

続いて、企業別(出願人別)のトータルパテントアセットのランキングが図3です。

企業別(出願人別)のトータルパテントアセットでは、トップは中国のTencent Technology。それ以外の上位10社は日本・米国・韓国 の企業が占めています。

図3:出願特許の企業・研究機関ごとのトータルパテントアセットランキング(2001年~2022年)

映画・アニメーションにおける最高スコアの特許は、Magic Leap社(米国)の所持する特許です。ユーザーの目と頭の動きを捉えることで、視野の動きに対応し、不快感を招くことなく本物のように感じる映像を表示できるヘッドセットに関する特許「仮想現実と拡張現実を作成するための方法とシステム」(US10203762B2)です。一方、日本の最高スコアの特許はソニー株式会社が所持しています。映画やアニメの視聴履歴を収集し、個人にあった推奨コンテンツリストを作成する能力を持つプラットフォームに関する特許、「推奨エンジンを介した選択的なメディアコンテンツアクセスのシステムおよび方法」(US2008134043A1)です。

映画・アニメに関わる技術の中で、今後どの分野の発展が見込まれるか考察するため、3D、人工知能AI、XR(クロスリアリティ)に関して、技術分野別に特許の出願動向を調査しました。図4に、技術分野ごとの特許出願件数の推移を示します。

図4:映画・アニメーション関連技術分野別の特許出願件数の推移(2001年~2021年)

2001年以降、XRは約21,000件、3Dは約19,000件の特許出願があります。累計の出願件数は3DとXRでほぼ同程度ですが、3D技術は2010年以降、1年あたりの出願数が1,000件~1,500件程度でほぼ横ばいであるのに対し、XR技術は2015年に3Dを上回り、近年の出願件数が多くなっています。ただし、XRでの出願件数の増加も2017年に止まっており、3D、XRともに頭打ちの状態にあります。

またAIの特許出願数は累計で約4,200件です。AIを利用した特許出願は2015年まではほとんど見られませんが、2020年には3D技術とほぼ同程度の特許出願がされています。今後、映画・アニメにおけるAI活用が急速に進められていくと考えられます。

映画・アニメーションに関するスタートアップ企業の資金調達動向

映画・アニメーションについては、技術開発から社会実装までの時間が短いという特徴があります。すでに多くの民間企業がビジネスを展開しており、ベンチャー企業の設立も進んでいると考えられます。そのため、スタートアップ企業の動向に着目し、調査を行いました。

まず、技術分野別のスタートアップ企業の設立社数の推移を図5で示します。

設立社数では3D技術が多いです。ただし近年は3D、XRとも新規設立は伸び悩んでいる傾向にあり、これらの分野での起業は成熟期に入ったと考えられます。

図5:映画・アニメーション関連技術の分野別スタートアップ企業の設立社数の年次推移(2001年~2021年)

どの技術分野に注目が集まっているかを評価するには、スタートアップ企業の設立数だけではなく、その技術分野に流入している金額も重要となります。スタートアップ企業の資金調達額についても調査を行いました。

図6は、映画・アニメーション関連技術における、分野別の資金調達額の年次推移です。

図6:映画・アニメーション関連技術における分野別のスタートアップ企業の資金調達額の年次推移(2001年~2021年)

2001年以降の累計で、XRに関する技術で約42億米ドル、3Dに関する技術で約7億米ドル、AIに関する技術で約1億米ドルの資金調達が行われています。2014年にXR関連企業の調達額が3Dを抜き去り、大きく差が開いています。XRに関連する事業者は、設立数は3Dよりも少ないにも関わらず、資金調達額は大きくなっています。映画・アニメーション分野においてXR技術の活用が特に注目を浴びていることが、資金調達額の動向から推察できます。

3DとAIに注目して比較するために調達額を2億米ドル上限としたものが図7です。

図7:調達額(縦軸)を2億米ドルに限定した技術分野別の資金調達額の年次推移(2001年~2021年)

AI関連企業は、2015年まではほとんど資金調達が行われていないように見えます。それまで別の技術でビジネスを展開していた企業がAIに参入した場合、AI関連企業として情報が修正されず、その資金調達が反映できていない可能性があります。そういった状況でも、2016年以降、AIを利用したスタートアップは徐々に資金調達額を伸ばしていて、数年以内にAIの活用が大きなトレンドとなる可能性が考えられます。

実際に、映画・アニメーションのスタートアップ企業の経営や巨額の資金調達に、大手ITテック企業が介入する事例が見られます。2014年には、Google社がMagic Leap社への5億4200万米ドルもの投資を主導(注10)しました。

注10:PR Newswire「Magic Leap、シリーズB資金調達で5億4,200万ドルを調達」
https://www.prnewswire.com/news-releases/magic-leap-raises-542-million-in-series-b-funding-918706813.html

Magic Leap社は2010年に設立された、仮想現実(VR)や複合現実(MR)のヘッドセットを販売する会社です。2019年サンダンス映画祭では、Magic Leap社が開発したヘッドセットを用いたVR映画作品「The Seven Ages of Man」(注11)が公開されました。

注11:Magic Leap 「The Seven Ages of Man」
https://world.magicleap.com/ja-jp/details/com.rsc.sevenages2

Magic Leap社は、特許スコアリングで最高スコアであった特許を有する、出願人別のトータルパテントアセットランキングで10位にランクインしており、大手企業にも負けない高い技術を有しています。高い技術力が評価され、巨額の資金調達を多数受けており、2001年以降の累計資金調達額は30億米ドルを超えます。

2020年には、映画・TV番組を360度動画で配信する、VR動画サービス企業のNextVR社をApple社が買収(注12)しました。NextVR社は2001年以降の累計で1億1600万米ドルの資金調達を行っています。

注12:9to5Mac 「Exclusive: NextVR acquired by Apple (Updated)」
https://9to5mac.com/2020/05/14/apple-nextr-ar-headset/

2016年に8000万米ドルを調達した際にはソフトバンク社も投資(注13)に加わっており、VRの分野で存在感を示していた企業です。

注13:UpLoadVR「NextVR がスポーツのライブストリーミング向けに 8,000 万ドルの巨額投資を調達」
https://www.uploadvr.com/nextvr-raises-80-million-live-streaming-sports/

Apple社は新しいAR/VRヘッドセット「Vision Pro」(注14)を2023年に発表をしています、NextVR社の買収がApple社のXR領域への参入の足掛かりの1つとなったと言えます。

注14:Apple 「Vision Pro」
https://www.apple.com/apple-vision-pro/

こうした巨大ITテック企業による介入・支援を通して、映画・アニメーションとIT技術の融合が今後いっそう進められていくと考えられます。

まとめ

映画・アニメーションの関連技術においては、中国が政策の後押しを受け、特許出願数が増加しており、トータルスコアでも1位となっています。技術分野別の特許出願件数では、XRが3Dとともに成熟期に入る一方、AIが急伸しています。

一方でスタートアップの動向では、目下のところXRへの投資が進んでいることが示されました。AIへの投資は現時点では目立ってはいませんが、今後の進展が見込まれます。Magic Leap社が示したように、映画・アニメーションの分野では、設立して数年のスタートアップ企業によって大企業を超える技術が生み出されています。この領域では、スタートアップ企業が持つ技術を、巨大企業が高く評価し、買収や出資を進めていくと考えられます。

日本は現在、映画・アニメーションの分野で大きな存在感を持っていますが、日本が持っているアセットを有効に活用していくには、AIやXRなど、今後のさらなる発展が見込まれる技術を利用し、制作される映画・アニメーションの価値を高めることが重要となるでしょう。

著者:アスタミューゼ株式会社 神田知樹 修士(工学) / 源泰拓 博士(理学)

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