次世代エネルギーを支える蓄電技術!世界の最新動向を明らかに
目次
目次
- 蓄電技術が支える産業とは
- 各種蓄電技術の説明
- 二次電池の原理
- 各種蓄電技術に用いられる代表的な電池
- 各蓄電技術の将来予測
- 世界の研究から見る蓄電技術
- 世界の国別公的研究資金(グラント)動向
- 世界の分野別グラント分析
- 最近の興味深いグラント事例
- 特許出願からみる蓄電技術
- 世界の国別特許出願動向
- 世界の分野別特許出願年次推移
- 特許事例
- 蓄電技術を生かしたユニークな企業とは
- 世界のベンチャー・スタートアップ企業資金調達情報
- 最近の興味深いベンチャー・スタートアップ事例
- まとめと展望
1. 蓄電技術が支える産業とは
蓄電技術は社会を支える要素技術として認識されており、さらには資源に乏しい我が国においては特に重要な技術として開発が進められてきました。特に、原子力エネルギーからの脱却と、化石燃料から自然エネルギーを活用した再生可能エネルギーへのシフトが世界的に進む中で、変動が大きく、エネルギー密度が低い自然エネルギーを効率よく利用するためには、優れた蓄電技術の開発は急務であるといえます。蓄電技術は大きく分けて、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することで充放電を可能とする二次電池と、物理的に電荷を蓄えることで充放電を可能とするキャパシタが挙げられます。
これまで蓄電技術としては、リチウムイオン電池に代表される二次電池が長く利用されてきており、スマートフォンや電気自動車等に代表されるような多くの製品に広く活用されています。さらに蓄電技術は、ビル等の電力貯蔵システムや、フォークリフトやクレーン等の建設用車両、バックアップ電源等の産業機械等にも利用が広がってきています。
本リリースでは、蓄電技術が産業においてますます広がりつつある領域、蓄電技術の主流であるリチウムイオン電池に置き換わる技術や、次世代のリチウムイオン電池等を含め、注目される蓄電技術の先端研究・開発技術に関する注目プレイヤーについて紹介します。
下記表に、各産業における蓄電技術の活用を示します。多くの産業において、蓄電技術に小型化や軽量化が求められていることが明らかであるといえます。
各産業における蓄電技術の活用
2. 蓄電に用いられる電池等について
二次電池やキャパシタとは、正極材・負極材・液体電解質・セパレータ等で構成され、電極間に電気を蓄え、充放電可能な蓄電体のことをいいます。前者は、電極間の酸化還元反応により電気を蓄える化学電池であり、リチウムイオン二次電池(LIB)やニッケル水素電池等、ノートPCや携帯電話のバッテリーとして利用されています。また、後者は、電極間の静電気力により電気を蓄える物理電池であり、電気二重層キャパシタ(EDLC)等に代表されるバックアップ電源として利用されています。
2-1. 二次電池の原理
電池の基本的な原理としては、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することで仕事(放電)を行います。例えば、放電時は、負極で酸化反応が起こり、発生した電子が外部に対して仕事を行います。一方、充電時は、負極で陽イオンが外部から注入させた電子を受け取ることで還元反応を起こし、元の状態に戻ります。
2-2. 各種蓄電技術に用いられる代表的な電池
(1)リチウムイオン電池
リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池です。現行、多くのデバイスに採用されており、正極、負極、セパレータ、電解質等の各種部材が幅広く研究開発されています。一方、電解質が有機溶媒であることから危険性を低下させることや、リチウムデンドライト発生による性能の低下を抑制することが課題であるといえます。
(2)全固体電池
全固体電池は、従来液体であった電解質等を固体に置き換えた電池であり、発熱、電解質の液漏れ・凍結・揮発の危険性がなくなることで、高い安全性が期待されます。現行のリチウムイオン電池の延長線上にある、全固体リチウムイオン電池や、Li10GeP2S12(LGPS)等の硫化物やLi7La3Zr2O12(LLZ系)の酸化物を電解質等に用いる全個体電池が挙げられます。一方、電解質等を固体化するため、液体の電解質に対して、いかにイオン電導性を向上させられるかが課題であるといえます。
(3)シリコン負極電池
全個体電池における負極材料としてシリコンを使用するものをいう。負極材料としてシリコンを使うことで、蓄電容量を大容量化することができます。一方、シリコン負極は金属イオンの出入りによって大きく体積変化するため、劣化を抑制することが鍵となります。
(4)空気電池
金属(リチウム、アルミニウム、亜鉛等)空気電池は、正極と負極の間にセパレータを挟んだ積層構造であって、正極活物質に大気中の酸素を用いるものです。電池内部の活物質は負極活物質のみで良く、高エネルギー密度を期待することができます。一方、充電電圧(過電圧)が上昇することによって副反応が誘発されサイクル寿命が劣化することが課題として挙げられます。
(5)次世代スーパーキャパシタ
スーパーキャパシタは電気二重層コンデンサとも呼ばれ、電気二重層という物理現象を利用することで蓄電量が著しく高められたコンデンサ(キャパシタ)です。充電のときには、電極が電解質を含む電解液に接触しており、電極間に電圧をかけることで電解質イオンが溶液内を移動します。その結果電極界面に電解質イオンが吸着され、電極表面に電気二重層を形成することで電荷が蓄えられます。一方、化学反応によってエネルギーを蓄えるものではないため、二次電池等に比べて、電力を保持できる時間が短いことが課題として挙げられます。
(6)レドックスフロー電池
レドックスフロー電池は、イオンの酸化還元反応を溶液のポンプ循環によって進行させて、充電と放電を行うことができ、また、溶液の量を増大することで蓄電容量を自由に増やすことができます。一方、ポンプ等が必要であることから、小型化できないこと、バナジウム等のレア金属が必要なことが課題であるといえます。
(7)NAS電池
ナトリウム・硫黄電池とは、負極にナトリウムを、正極に硫黄を、電解質にβ-アルミナを利用した高温作動型二次電池です。液体ナトリウムを使用する点、300℃近い高温での使用が必要となる点が、懸念点として挙げられます。
2-3. 各蓄電技術の将来予測
次に、各蓄電技術の将来予測を下記表に示す。全体的には、小型、軽量方向に技術開発が進むと思われます。
ここで、重量エネルギー密度(W·h/kg)、体積エネルギー密度(W·h/L)とは、電気エネルギーの量を示しており、どちらも数値が大きいほど、高容量の電気エネルギーを蓄えられることを意味します。
3. 世界の研究から見る蓄電技術
3-1. 世界の国別公的研究資金(グラント)動向
世界の国別グラント分析
アスタミューゼ保有のグラントデータベースから、2009年以降に研究が開始された世界の研究テーマ5,237件について、各国別での採択数や総配賦額を分析しました。 下記に、蓄電技術に関して、世界のグラント国別の件数等を示します。
グラント総配賦額では、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン等イギリスの代表的な大学やアメリカの大学が上位20位に並びます。その中でも日本からは東京大学と東北大学がランクインしています。また、上記ランキングからは外れますが、2017年に設立されたイギリスのファラデー研究所は、イギリス政府におけるエネルギー政策の一部として巨額の資金が投入されていることがわかりました。
3-2. 世界の分野別グラント分析
2009-2020年に研究がスタートしたグラント5,237件を分野別に分類し、分野別件数年次推移を調べたところ、「リチウムイオン電池」が最も多く、全体の約60%がこれに関するテーマでした。次いで「全固体電池(酸化物)」「空気電池」、「次世代スーパーキャパシタ」、「全固体電池(硫化物)」と続きます。グラントにおいては、まだまだ現状広く使われているリチウムイオン電池の割合が高いものの、次世代の蓄電技術として注目される全個体電池や空気電池の研究が盛んになっている様子も伺えます。
3-3. 最近の興味深いグラント事例
(1)リチウムイオン電池関連技術の例
(2)全固体電池(酸化物)の例
(3)次世代スーパーキャパシタ技術の例
(4)空気電池の例
4. 特許出願からみる蓄電技術
4-1. 世界の国別特許出願動向
出願人/譲受人の国籍別特許出願数の年推移(2009-2018)
今回分析した蓄電技術関連、2009年以降の世界の特許出願は約90,000件でした。日本からの出願はそのうち約33,000件を占め、最も大きな存在感を示しているものの、近年の出願件数は横ばいであり、開発競争が一定レベルに達し、実用フェーズにあることが明らかです。日本に次いで出願件数が多いのは韓国で、2015年以降一時的に減少しましたが、近年では再び増加に転じており、中国からの出願も2015年以降急激な伸びがみられることからも、市場の拡大に呼応して応用技術の開発競争が激化してきていると考えられ、世界的には今後も継続的な出願の増加が予想されます。
つぎに、2009年以降、日本・米国・欧州の3極特許庁並びに世界特許機関(WIPO)に出願された蓄電技術関連出願(以下、4極特許という。)50,091件を対象とした集計を行いました。その結果、件数トップはリチウムイオン電池関連の事業を行っている韓国のLG化学で、2位は自動運転、スマートシティ等に取り組むトヨタ自動車、3位は電気自動車用電池の実績があるパナソニックが続くことがわかりました。さらに、トップ20のうち半分以上が日本の大手電機・自動車メーカーが占め、本分野の中心的な技術は世界的に日本企業が牽引していることがわかりました。サステイナブルな社会の構築の観点からの市場の拡大は、有望技術を多数保有する日本企業にとって好機であることは疑いの余地はありませんが、一方で急速に技術の権利化を進める韓国、中国企業との応用技術競争は熾烈を極め、権利を主張した訴訟も増加してくると予想されます。今後は、ライバル企業のポートフォリオ分析等も含めた、特許戦略を基にしたビジネスの戦略策定が急務と考えられます。
出願人/世界の企業別特許出願数ランキング
4-2. 世界の分野別特許出願年次推移
次に、上記4極特許50,091件のうち、グラント件数調査において上位にランクインした、リチウムイオン電池、空気電池、全固体電池(酸化物)、全固体電池(硫化物)、次世代スーパーキャパシタの分野別に分類し、出願件数の年次推移を調べました。
2009年以降、「リチウムイオン電池」関連の出願件数が最も多く、全体ののべ20%にあたる10,110件が該当しました。次いで、「空気電池」関連特許が18%を占めています。その他の分野は「全固体電池(酸化物)」、「全固体電池(硫化物)」、「次世代スーパーキャパシタ」と続きます。「はじめに」で述べた通り、リチウムイオン電池は実用化されて現代の蓄電技術の多くを占めているため、それが他の分野に対する出願件数の多さとして表れていると見受けられます。今後研究が進むにつれ、他の応用的な分野でも出願件数が伸びていくと推測されます。
4-3. 特許事例
(1)リチウムイオン電池の例
(2)空気電池の例
(3)全個体電池の(酸化物系)例
(4)全個体電池(硫化物系)の例
(5)次世代スーパーキャパシタ
5. 蓄電技術を生かしたユニークな企業とは
5-1. 世界のベンチャー・スタートアップ企業資金調達情報
蓄電技術関係の2000年以降設立のベンチャー企業について調査したところ、約250社設立されていることがわかりました。また、近年では、年間約1500MUSドルの資金を調達していることもわかりました。
下記に、調査したベンチャー・スタートアップ企業の中から、興味深い企業について紹介します。
5-2. 最近の興味深いベンチャー・スタートアップ事例
SolidEnergy Systems(アメリカ)
総調達額:71.4M USD
設立年:2012
概要:エネルギー密度が従来のリチウムイオン電池の2倍となるリチウム金属電池を開発。2016年にリチウム金属電池のパイロットラインを開発し、2019年後半には、上海に世界最大のリチウム金属電池の製造施設を開設しています。特許出願はPCT出願を中心に5件ほど行っており、日本への出願もみられます(特表2019-517722)。
Ionic Materials(アメリカ)
総調達額:65.0M USD
設立年:2012
概要:次世代の全固体電池を可能にする固体高分子電解質材料を開発。この材料は室温で機能し、リチウムおよびアルカリベースの電池と互換性がある最初の固体電解質であり、電池の安全性、性能、およびコストの大幅に改善につながると期待されています。2018年に日立化成(現・昭和電工マテリアルズ)が出資しています。最近では、固体イオン伝導性ポリマー電解質の出願を行っています(US20200303773A1)。
ADVANO(アメリカ)
総調達額:23.8M USD
設立年:2014
概要:リチウムイオン電池用のシリコンナノ粒子を開発。シリコンナノ粒子をアノードに使用すると、リチウムイオン電池のエネルギー密度を30〜40%向上させることが可能となります。
Solid Power(アメリカ)
総調達額:20.0M USD
設立年:2011
概要:コロラド大学ボルダー校からスピンオフしたスタートアップ企業であり、次世代の全固体電池を開発。金属リチウムをアノードとして使用することで、利用可能な最高の二次電池を大幅に超えるエネルギー密度と比エネルギーを提供しています。また、セラミックス材料を固体電解質とする発明について、スタンフォード大学と共願で出願しています(WO2019051305A1)。
Addionics(イギリス/イスラエル)
総調達額:7.0M USD
設立年:2018
概要:電気自動車やその他の用途向けの次世代充電式バッテリーを開発しています。Addionicsは電極用の多孔質表面を開発しており、この構造は内部抵抗を最小限に抑え、機械的寿命、熱安定性、その他の基本的な制限、および標準バッテリーの劣化要因の改善につながることが期待されます。
6. まとめと展望
本調査により、蓄電技術としては、信頼性、実績があるリチウムイオン電池が、研究開発、特許出願ともに多数を占めていることがわかりました。そして、特許出願については、日本からの出願が非常に多く、日本が世界に対して優位に立っている技術分野であることがわかりました。
一方、現行のリチウムイオン電池は、理論的に容量の限界があることが知られており、数年後には理論的な限界を迎えると言われております。また、2030年代半ばには、日本国内で販売される新車はハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)に切り替えるとの報道もあり、蓄電技術により脚光が当てられることとなります。
その中でも、理論容量が最も大きい空気電池や、化学電池に比べて応答速度がより優れる次世代スーパーキャパシタについては、まだ開発初期段階であるため、参入余地があると考えられます。
(アスタミューゼ株式会社テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、米谷真人、伊藤大一輔、*井津健太郎)
参考文献
- 魚崎浩平 蓄電池の研究開発動向 https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/juyoukadai/energy/17kai/siryo1-1-1.pdf
- NEDO エネルギー・環境・産業技術の今と明日を伝える【フォーカス・ネド】 https://www.nedo.go.jp/content/100881592.pdf
- NEDO 二次電池技術開発ロードマップ
https://www.nedo.go.jp/content/100153876.pdf