脳波技術の特許動向と未来技術への展望 ~2011年以降、中国の出願件数が急伸! 特許スコアは各国がしのぎを削りつつ全体で拡大傾向~

脳波技術の特許動向と未来技術への展望 ~2011年以降、中国の出願件数が急伸! 特許スコアは各国がしのぎを削りつつ全体で拡大傾向~

著者:アスタミューゼ株式会社 琴岡匠 博士(工学)/荒井喬広 修士(生命科学)

はじめに

科学の進歩によって、かつては理解できなかった多くのことが明らかになってきました。しかし「脳」についてはまだすべてを知り尽くしているわけではありません。脳は複雑な器官であり数百億の神経細胞(ニューロン)からできています。これらの活動をくわしく調べる方法が日々研究されており、その1つの手法が「脳波」の測定です。脳波はニューロンの電気活動を示すもので、これを調べることで脳の動きや機能を解明する手助けとなります。脳波には周波数によって5つの種類に分けられています。

  • アルファ波:周波数8~13Hzの波。目が覚めてリラックスしているときに出る。瞑想や眼を閉じたときに見られる。
  • ベータ波:周波数13~30Hzの波。集中して活動しているときに現れる。考え事をしているときなどに見られます。
  • ガンマ波:周波数30Hz以上の高周波。学習や記憶、感情の処理などさまざまな思考と関係しています。
  • デルタ波:周波数0.5Hz~4Hzの低い周波数の波。深い睡眠や無意識のときに出る。
  • シータ波:周波数4~7Hzの波。軽い睡眠や瞑想のときに見られる。

これらの脳波の特性やパターンを分析することで、脳の状態を知ることができます。たとえば、人の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠という2つの段階があります。レム睡眠は夢を見るときの睡眠段階で、そのときの脳波はベータ波が支配的であり、目が覚めているときの脳と似ています。ノンレム睡眠ではアルファ波から始まり、深い睡眠ではデルタ波が現れ、身体の回復やエネルギー補給が行われます。このようにして、脳波から睡眠の状態を知ることができ、実際に睡眠サイクルを管理するアプリも作られています。

脳波を測る方法は2つあります。侵襲的な方法と非侵襲的な方法です。前者は電極を直接脳に埋めるなど、負担が大きいことが多いです。そのため、後者の非侵襲的な方法がよく使われています。代表的なものには、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法 / functional Magnetic Resonance Imaging)やNIRS(近赤外分光法 / Near-Infrared Spectroscopy)があります。これらの方法は負担が少ないですが、測定できる領域や情報の精度が異なるため、目的に応じて使い分ける必要があります。

脳波は医療で使われることが多いですが、最近では脳波を使ってコンピュータや機器を操作する技術も開発されています。これがBMI(脳と機械のインターフェース / Brain Machine Interface)と呼ばれる技術で、脳波を使って機器を操作したり、逆に機器の信号を脳波に変換したりできます。この技術を利用することで、たとえば、電気信号に変換した資格情報を脳のしかるべき部位へ信号刺激を与えることで、盲目の人でも健常者と同様の視覚体験を得ることができます。

また、脳波を使った技術はビジネスでも使われています。消費者の脳波を測ることで、どのような商品やサービスが人々に喜ばれるかを予測するニューロマーケティングという手法があります。これには脳波だけでなく、アイトラッキング(視線の動き)や表情の解析などもあわせて行い、消費行動で生じる情動・感情を定量的に把握するリサーチ手法です。

このように、脳波を使った技術は医療だけでなく、人体拡張技術やビジネスなど幅広い分野で使われています。現在、脳波技術はどのような状況にあり、今後どのような展望があるのかを知るために、関連する技術データを参照・調査し、脳波関連技術の今後の展望について考察しました。

脳波技術の技術動向分析

アスタミューゼでは、世界中の研究開発予算(グラント)、特許、論文、スタートアップなど、イノベーションに関連する膨大なデータベースを保有しています。ここでは、特許データを用いて、脳波に関する技術の動向について調査します。

図1は、2001年から2022年までの脳波関連技術の特許出願数の国別動向を示しています。特に、中国は2011年から急速に特許数が増加しています。図2では、中国を除く各国の特許出願数と出願年数の傾向を示しており、どの国でも特許出願が増加していることが分かります。

図1:特許数と出願国の傾向(2001年~2022年)
図2:中国を除く特許数と出願国の傾向(2001年~2022年)

次に、各国の特許スコアについて考察します。アスタミューゼは独自のアルゴリズムに基づいて特許を評価しています。特許1件ごとに競争力を示すパテントインパクトスコアを計算し、出願者ごとに特許の競争力を示すトータルパテントアセット(総合特許力)を算出しました。

帰属国別のトータルパテントアセットランキングが図3です。中国がトータルパテントアセットと特許数の両方で1位となっています。アメリカ、ドイツが続き、日本は4位となっています。

図3:帰属国別のトータルパテントアセットランキング

図4は企業・研究機関別のトータルパテントアセットランキングです。ドイツのSiemens AGが1位で、次いで日本のTOSHIBA Corp.が2位、オランダのKoninklijke Philips NVが3位となっています。影響力のある特許を保有していることがうかがえます。他にも日本の企業としては、Canon Medical Systems Corp.が7位、Hitachi Ltd.が19位にランクインしています。

図4:企業・研究機関別のトータルパテントアセットランキング

以下に、ランキングに入った企業が保有する脳波関連技術の特許を紹介します。

  • Siemens AG:「Method for detecting a brain region with neurodegenerative change」(神経変性変化を伴う脳領域の検出方法)
    • 公開番号:US21960908A
    • 出願年:2007年
    • 特許概要:患者の脳の神経変性変化を伴う脳領域と血管変化を伴う脳領域を検出するためのコンピュータプログラム
  • TOSHIBA Corp.:「Magnetic resonance imaging apparatus and control device of a magnetic resonance imaging apparatus」(磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴イメージング装置の制御装置)
    • 公開番号:US201213615891A
    • 出願年:2012年
    • 特許概要:磁気共鳴画像法(MRI)の制御装置に関する特許。設定した磁場波形と実際に発生する磁場波形のずれを補正する制御システムについて記載
  • Koninklijke Philips NV:「Deep learning based processing of motion artifacts in magnetic resonance imaging data」(磁気共鳴画像データにおける深層学習に基づくモーションアーチファクトの処理)
    • 公開番号:US201816759778A
    • 出願年:2018年
    • 特許概要:MRI測定時に患者の動きによって生じる画像ノイズを、深層学習を利用して除去する方法
  • Koninklijke Philips NV:「Relating to brain computer interfaces」(ブレインコンピュータインターフェース関連)
    • 公開番号:US68023008A
    • 出願年:2008年
    • 特許概要:測定した脳波を用いて外部機器の操作を行う一連のシステムに関する特許、個々人の脳波のプロファイル作成システムから、ブレインコンピュータインターフェース用のアプリケーションまでを内包している
  • Regents of the University of California:「Wireless wearable big data brain machine interface」
    • 公開番号:US201615176411A
    • 出願年:2016年
    • 特許概要: 頭蓋骨に埋め込まれた複数電極から、大量の脳神経活動を監視・記録することができるBMIシステム、電極から無線でウェアラブルモジュールに信号を転送することができ、脳活動マッピングや脳異常の診断、脳関連疾患の予防・新しい医療手法の開発に応用される

上位のランキングを占める特許の中には、主に医療関連の特許が多く見られます。特にMRI技術に関するものが顕著です。また、ブレインマシンインターフェース(BMI)に関する特許も増加しており、これは脳から直接機器を操作する技術を指します。これらの技術は医療分野だけでなく、新しい商品やガジェットの開発にも活用される可能性が高く、今後の社会実装が期待されます。

まとめ

脳波関連技術の特許数について、急激な増加が中国で見られる一方で、他の国々も増加傾向にあります。特許の出願件数を見ると、中国とアメリカが特に多くを占めています。しかし、企業別に視点を移すと、ドイツ、日本、オランダの企業も上位に位置し、多数の影響力のある特許を持っていることが確認されました。脳波に関連する特許の中では、医療分野が主要な領域を占めていますが、ブレインマシンインターフェース(BMI)などの技術が登場することで、医療以外の分野でも利用が拡大しています。現在、脳波を測定する方法としては、侵襲的な手法が一般的で、脳に電極を埋め込むなどの方法が主流ですが、非侵襲的なBMI技術なども研究が進んでおり、その応用は医療だけでなく多岐にわたっています。将来的には、家庭で簡単に脳波を測定できる技術が普及し、思考だけで電子機器を操作する日が訪れる可能性があります。

著者:アスタミューゼ株式会社琴岡匠 博士(工学)/荒井喬広 修士(生命科学)

さらに詳しい分析は……

アスタミューゼは世界193ヵ国、39言語、7億件を超える世界最大級の無形資産可視化データベースを構築しています。同データベースでは、技術を中心とした無形資産や社会課題/ニーズを探索でき、それらデータを活用して136の「成長領域」とSDGsに対応した人類が解決すべき105の「社会課題」を定義。

それらを用いて、事業会社や投資家、公共機関等に対して、データ提供およびデータを活用したコンサルティング、技術調査・分析等のサービス提供を行っています。

本件に関するお問い合わせはこちらからお願いいたします。
https://www.astamuse.co.jp/contact/

本件レポートを
ダウンロードできます その他、未来の成長領域
136に関わるレポートも販売中
ダウンロードはこちら