【新規事業の探索例】水の濾過装置技術を起点に、「微生物の網羅的DNA解析による海水環境モニタリング」の実現へ

著者:アスタミューゼ 小林由幸 博士(薬科学 / 経営学)

はじめに

前回と同様、社会課題解決型新規事業の創出例です。 

今回は、三浦工業株式会社(以下「三浦工業」)の「濾過システム」技術を活用し、海洋生物資源・海洋生態系領域の「微生物の網羅的DNA解析による海水環境モニタリング」への用途展開をご紹介します。 

アスタミューゼが定義する「社会課題105」の中の一つ「海洋環境の保全・修復を推進する社会を実現する」(SDGs「海の豊かさを守ろう」に対応)に資するものです。 

背景:赤潮の環境負荷に関する社会課題

赤潮は水中に生息する植物プランクトン等の微生物が異常に繁殖し、海水が赤色にかわる現象です。近年、気候変動による水温上昇などが原因で、植物プランクトンが増加し、赤潮の被害が恒常的に発生しています。赤潮によって魚介類が死滅するなど環境負荷が問題になっています。 

2021年9月には、北海道南部において赤潮による海産物の被害額が過去最大の167億円にのぼったと報告されています。 

Credit: 海上保安庁 
出典:https://www.kaiho.mlit.go.jp/03kanku/03sankankutokushoku/akasio,aosio,naze.htm 

これまでに赤潮の発生予測には海洋環境やプランクトン量の監視が行われてきましたが、赤潮の発生直前にしか予報ができず、赤潮への対処が遅れるという課題がありました。 

赤潮発生予測技術として、衛星やドローンを用いた監視、AIによる画像解析などの技術が研究されていますが、利用簡便性や規制などがハードルとなっています。発生予測の早期達成と利用可能性を両立した技術の開発が望まれています。

では、水の濾過装置の技術を用いて赤潮の発生予測や水中の環境モニタリングを行う事業展開とはどういうことか、順を追って説明します。 

水の濾過システム関連の特許を検索 

 三浦工業が出願している公開特許公報(特開)2011-189283「濾過システム」に着目します。出願内容は「給水量を確保しつつ、安定した水質の処理水を製造することができる濾過システムを提供」するものです。 

この特開2011-189283が牽制(注)した特許出願文献から、新規用途を探索していきます。ある特許公報が牽制した特許出願文献をリストとして確認するのは難しいですが、アスタミューゼは独自の牽制データベースを保有しているため、同特許が牽制した特許出願文献を見出すことが可能です。

(注)特許出願された技術が、先行技術の特許出願により権利化を阻害された特許

結果、特開2011-189283が牽制した特許出願文献の一つとして、国立大学法人九州大学が出願している特開2018-153168「微生物収集装置」を見出すことができました。出願内容は「メタゲノム解析に用いるためのコンパクトで、安定的且つ確実に、水中から微生物が収集できる微生物収集装置を提供」するものになります。

この牽制関係を得ることで、三浦工業が有する「安定した水質の処理水を製造する濾過システム」の技術を活用し、「微生物のDNA解析による海水環境モニタリング」への用途展開を検討できるのではないかという着想が得られました。 

牽制先の特開2018-153168の発明者は九州大学の石野教授らになりますが、同研究室ではメタゲノム解析を活用した海の海中モニタリング技術の研究を行っていることが分かりました。 

メタゲノム解析による環境モニタリング 

メタゲノム解析は、環境中の複数の微生物を1つずつ取り出さず、まとめて直接DNA解析を行う技術です。海中に存在する多様な微生物それぞれを特定することなく、混在した状態でDNAを抽出・解析することにより、その特徴や生態系の変化を探索することができます。 

Credit: 九州大学大学院 生物化学(石野)研究室 
出典:http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/seibutsukagaku/theme.html 

赤潮の原因となるプランクトンは40種類以上と言われており、海中から微生物を効率的に採取できると、微生物を培養することなくその場でメタゲノム解析を行うことが可能となります。その結果、赤潮の発生原因となる有害プランクトンの状態をモニタリングすることができるようになり、迅速な赤潮の発生予測に繋がります。 

また、海中のプランクトンの中には赤潮の原因となるもの以外にも、魚毒や貝毒の原因となる微生物も含まれていますので、網羅的な海洋環境のモニタリングの実現も考えられます。 

さらに、微生物採取やモニタリング技術の応用の方向性として、生活排水や医療排水のモニタリングに活用することも期待されます。たとえば、東北大学の久保田健吾准教授は「未知廃水処理微生物群のメタゲノム解析による統合代謝ネットワークの解明(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))(2019年)」の研究を行っており、東京大学の佐藤弘泰教授は「下水・廃水処理場の微生物叢解析の現状と未来(EICA 第22巻 第4号 2018年)」の中で、下水処理場におけるメタゲノム解析の応用可能性に触れています。 

このようにメタゲノム解析を活用して、広義の環境排水のモニタリングを実施し、微生物汚染や感染症の予測や対策をすることにより、プロアクティブな公衆衛生や環境保全に繋げることができます。 

さらにくわしい分析は…… 

アスタミューゼでは、特許に関する牽制データベースを用いて、技術の新規用途の探索が可能です。自社が保有する技術を基点に、牽制データベースを参照することで、自社保有技術を活用した新規事業案創出を支援いたします。また、自社だけでなく、自社がウォッチする競合他社の類似技術も対象に入れて牽制データベースを参照することで、自社が属する業界から異業種異分野への新規参入も検討することが可能になります。 

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