洋上風力発電の世界の研究開発投資額は年間成長率17.2%、10年間の総計4.8億ドルに!日本は「浮体」「環境評価」に商機と勝機~世界の有望企業/大学研究機関の技術資産スコアランキングを公開~

洋上風力発電の世界の研究開発投資額は年間成長率17.2%、10年間の総計4.8億ドルに!日本は「浮体」「環境評価」に商機と勝機~世界の有望企業/大学研究機関の技術資産スコアランキングを公開~

2020年10月、菅首相は国会での所信表明演説の中で、2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)にするとの政策目標を表明。これを受けて、令和2年度第3次補正予算において、2兆円の「グリーンイノベーション基金」の設置が決まりました。この基金は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて野心的な目標にコミットする企業等に対して、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援するためのお金です。

経済産業省ではこの基金を、2020年12月にまとめられたグリーン成長戦略に規定された14の重点分野に配分することとしています。お金の使い方として、より政策効果が大きく、また実用化まで長期間の支援を要する領域に重点的に交付することが求められます。アスタミューゼは、重点分野における研究開発動向と国際競争力の分析をもって、基金配分の検討に参画しました(2021年3月「グリーンイノベーション基金事業の今後の進め方について」)。

一方で、当社はこれまでに、脱炭素の課題解決アプローチ全体について、各国政府における研究開発投資データを分析。また、特許の強さをスコア化することにより、関連技術における有望企業/大学・研究機関の技術資産を定量評価しています。その結果、日本の企業・研究機関が競争優位性を発揮できると期待される技術領域として、再エネ・蓄電池/水素・水素社会に付随する技術/カーボンリサイクルを挙げました。(ご参考レポート:https://www.astamuse.co.jp/information/2021/030902/ )上述の、当社が行ったグリーンイノベーション基金配分のための分析と、当社の企業/大学・研究機関の技術評価を組み合わせることにより、カーボンニュートラル実現に向けて重点的に投資される分野と、その中で注目される技術ならびに有望なプレイヤーを浮かび上がらせることができます。

2021年6月に開催されたコーンウォール・サミットにおいて、G7各国は国内電力システムを2030年代に最大限、脱炭素化することが謳われました。電力の脱炭素化は、20年以下のスパンで達成すべき喫緊の課題と位置づけられます。そこで、今回のレポートでは、再生エネルギーのうち、太陽光に並んで大きく、かつ実需をまかなうに十分な発電ポテンシャルのある風力発電をとりあげます。風力発電の課題の一つは風況・騒音問題などを含む適地の開拓です。洋上風力発電はこれらの課題を解決する技術として今後伸びると考えられる産業であるため、今回はこの「洋上風力産業」に焦点をしぼり、関連技術を分析しました。

洋上風力産業に関わる特許の分析

特許は、自社がその技術を独占的に実施する権利を守り、排他性を発揮することで意味が生じます。アスタミューゼは、出願件数それ自体ではなく、特許の「強さ」を指標化して、技術力評価するためのスコアリング手法を開発しています。特許の「強さ」とは、排他力、つまり競争相手を排除する力であると考えて、特許1件1件の強さを定量評価したものがインパクトスコアです。また、各々の特許のインパクトスコアに権利の残存期間などの要素を加味して、特許を所有する企業/大学・研究機関ごと、あるいは国別の技術資産を指標(トータルパテントアセット)で示すこともできます。ただし、競争力が一定以上ある特許をもっていない企業/大学・研究機関については、トータルパテントアセットは算出できません。トータルパテントアセットは、特許ポートフォリオとしての総合的な競争力の指標と考えることができます。

今回の分析では、2010-2019年の10年間に出願された全世界の洋上風力に関する特許のインパクトスコアを算出しました。対象期間中には4,478件の特許が、計29か国から出願されています。 表1に、各企業が所有する特許のパテントインパクトスコア(※1)の最高値であるパテントエッジスコア(※2)のランキングを示します。上位には米国および欧州の企業・機関が多くランクインしています。競合他社に対して大きな脅威となりうる突出した技術が開発される地域として注目されます。個別の技術に目を向けますと、首位のPrinciple Power, Inc.、2位のOceanwind Technology LLC、3位のSBM Offshoreにおいて最高値を得た特許は、いずれも浮体式の洋上風力発電機の基礎部分に関するものでした。発電部分だけでなく、それを支える構造においても技術開発の熾烈な競争があることがうかがえます。

  • ※1)パテントインパクトスコア:他社への排他権としてのインパクト評価を中心に、更に地理的な権利範囲、権利の時間的な残存期間などを重み付けしアスタミューゼが開発した定量的な評価指標。
  • ※2)パテントエッジスコア:競合他社に対して大きな脅威となりうる突出した特許を示すパテントインパクトスコアの最高値。

表1 2010-2019年間のパテントエッジスコア上記企業20社

この、一つ一つの特許のスコアをもとに、風力発電に関わる特許の出願人(個人含む)ごとのトータルパテントアセットを分析しました。表2にその上位20までのランキングを示します。トータルパテントアセット(※3)が算出された機関は619。その首位のState Grid Corporation of China(中国)は公報数でも238件と首位でした。同社では、発電状況のモニタリングおよび発電機の制御に関する特許が高いスコアで評価されています。日本の機関に注目しますと、上位20までに、三菱重工(2位)、日立製作所(17位)、三井E&Sホールディングス(旧三井造船)(18位)がランクインしています。三菱重工の出願特許では、発電機や、浮体構造を含む発電機の基礎部分に関する特許が高いスコアで評価されています。

  • ※3)トータルパテントアセット:各社の特許ポートフォリオとしての総合的な競争力を計る指標

表2 2010-2019年間のトータルパテントアセット上記企業20社

続いて、トータルパテントアセットを国別に算出しました。首位の中国は抜きん出ていて、2位日本と3位米国は僅差となっています。トータルパテントアセットが算出された出願人619機関のうち、中国の機関が約30%を占めています。中国では数社の強い企業や研究機関の力ではなく、国全体として関連技術の開発が進んでいることが示されています。

表3 2010-2019年間の国別トータルパテントアセット上位10か国

洋上風力産業に関わるグラントの分析

ここまで、特許の視点から、洋上風力発電事業に関わるプレイヤーを評価してきました。しかし、特許は出願の時点で実現が見込まれる技術を表すもので、その未来の技術をうかがうには不向きな指標です。アスタミューゼでは、現在ではなく未来を見通すための指標として、公募で決定される研究開発資金(グラント)に注目しています。グラントを獲得する研究は、まだ事業化には距離があるけれども、資金を配布する政府等の公的機関からの「推し」があると考えるためです。

当社の所有するグラントデータベースに拠ると、2010年から2019年の10年間に洋上風力にかかわるグラント配賦額の総計は4.8億ドルでした。2010年の投資額1,900万ドルから、2019年の7,900万ドルまで、年間成長率17.2%で伸びています。

洋上風力発電においては、

  • 発電効率の向上を目指すタービンの設計や開発に関する研究
  • 浮体式や固定式を含む発電設備や本体に関する研究
  • 洋上に設置した発電設備の監視や保守・点検に関する研究
  • 効率的な発電に適した風況の観測や、発電設備の設置に適した地形や地質の分析

に多くの資金が投じられています。

図 洋上風力発電の主たる研究テーマとその件数ならびに配賦額

各要素技術において、多額の資金をうけた研究テーマを見ると、風車やタービンの構造・機構に関わる研究よりも、故障解析やメンテンナンスの最適化を通じて稼働率を向上させて、コストを削減し、風力発電のアドバンテージを確保しようとするものが多く見られます。 そうした中で、浮体型の洋上風力発電設備の係留システムの最適化に関わるノルウェーの研究は、数少ないハードウェア寄りの大型プロジェクトと考えられます。 以下に、高額な資金が配賦されている研究テーマを要素技術別に紹介します。

風力タービンの設計・開発

発電設備・本体の設計・開発

監視・保守管理

風況・地形・地質の分析・調査

今後の展望

洋上風力発電に関わる特許の分析結果は、高い競争力を持つ日本企業が複数存在することがわかりました。一方で、国内の企業は2019年までに風力発電機の生産から撤退しており、その技術ポテンシャルを活かしきれていないのが現状と言えるでしょう。背景には国内の風力発電市場が伸び悩み、自国に市場をもつ欧米メーカーに規模の点で遅れを取ったことが挙げられます。

グラントから見ると、風力発電に関わる画期的な機構(ブレード、タービン等)の開発が進められているとは言えず、デジタルツインや状態監視など、ソフトウェアの部分で稼働率を上げ、コストを下げることが、現時点の主要な課題と言えそうです。 そうした中で注目したいのは、ハードウェアでは浮体技術、ソフトウェアでは風況予測です。これらはともに、経産省のグリーン成長戦略において、実証フェーズに位置づけられています。

風況が安定し、地形によって風が弱まることが少ない海洋上は、風力発電を効率よく行う適地です。しかし、欧州と比べて遠浅の海域が少ない日本では、比較的安価な着底型の洋上風車の設置が困難でした。安価で安全な浮体式洋上風力発電の開発は、日本における洋上風力発電の適地を一気に拡大する可能性を秘めています。今回の分析において、パテントエッジスコア上位2件の特許が、浮体型風力発電に関わる技術であることが判明しています。日本企業については、三菱重工の持つ153件の特許のうち、2番目に高いパテントインパクトスコアを得た特許が浮体技術に関するものでした。他に、独立行政法人海上技術安全研究所、IHI、東京電力の技術が、浮体型風力発電に関する特許のパテントインパクトスコア上位20位に入っています。浮体型風力発電技術において、日本の技術は一定の競争力を持つものと推察されます。

また、風況・地形・地質の分析・調査は、局所的な検討課題が多く、他国の研究開発の成果をそのまま適用することが難しい研究分野です。例えば海のすぐ近くにまで傾斜地が迫り、風向風速に大きな影響を与えるような地形での風向・風速の評価や、世界的に珍しい冬季雷と風力発電の関連といった課題については、日本独自の研究開発を行うべきです。

洋上浮力発電産業については、現時点で日本の出遅れ感は否めませんが、一方では最新技術を用いて整備していく余地が残っている、とも言えます。2050年までのカーボンニュートラルにむけたエネルギー供給手段の確保に向けて、「浮体式洋上風力発電」と「風況をはじめとする設置環境の評価」が、今後、日本が力を注ぐべきテーマと考えます。

(アスタミューゼ株式会社テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、源泰拓、伊藤大一輔、*曵地知夏)

参考文献

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