世界の脱炭素関連研究開発投資額は1,100億米ドル!日本は近未来の人工光合成技術に強みあり ~脱炭素系関連技術における有望企業/大学研究機関の技術資産スコアランキング~

目次

  • 世界的な潮流、脱炭素
  • 脱炭素社会の実現に向けた課題解決アプローチの全体像
  • 水素・水素社会に付随する関連技術の国別研究開発投資額
  • 脱炭素関連技術の今後の展望
  • 自社展開領域の検討アングル
  • アスタミューゼによる可視化アプローチ
  • 可視化を通じた企業価値向上の実現
  • まとめ

世界的な潮流、脱炭素

地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を防ぐために、石油や石炭などの化石燃料への依存からの脱却を図る「脱炭素」社会への取り組みはより一層重要度を増しています。日本でも、菅義偉首相の就任後初めての所信表明演説において、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ化、すなわちカーボンニュートラル/脱炭素社会の実現を目指すといった目標が示されると共に、脱炭素のための技術支援に2兆円の基金創設を明言されるなど、国を挙げての脱炭素への取り組みが加速しています。

金融市場においても、ESG投資への資金流入が年々勢いを増しており、脱炭素への機運が高まる昨今においては、多くの企業にとって、自社の技術/事業を通じて脱炭素社会の実現にどのように貢献していくのかが、重要な経営イシューになっています。

アスタミューゼでは、脱炭素に関する各国政府の研究開発投資データを分析。1,100億ドルに上る研究技術テーマとそれぞれのテーマにおいて優位性のある国や研究機関を抽出しました。


脱炭素社会の実現に向けた課題解決アプローチの全体像

しかしながら、一口に「脱炭素」と言っても、実現に向けた課題解決の方向性や具体的な技術は多岐に亘るため、自社の展開領域を検討する上では、まずはその全体像を俯瞰的に正しく把握することが必要です。

例えば、太陽光/地熱/核エネルギーといったCO2を排出しない「代替物の利用」や、エコカー/MaaS/シェアリングを通じたCO2の「化石燃料の使用量削減」はもちろんのこと、ゼロエミッション石炭火力発電/セメントキルン排ガスからのCO2の分離・回収といったCO2の「分離/回収/地下海底貯留」や、人工光合成によるCO2の「物質変換」もまた、脱炭素における重要な課題解決アプローチに位置付けられます。



前述のアプローチ全体像を基に、脱炭素関連の課題解決主要テーマにおける有望企業/大学研究機関を分析しました。「エネルギー分野における代替物の利用」「輸送・移動分野における化石燃料の使用量削減」「エネルギー分野における物質変換(※今回は人工光合成にフォーカス)」の3領域について、技術資産スコアに基づく企業/大学研究機関別技術資産スコア1)ランキングは下記の通りになっています。


これら領域における日本勢の技術競争力の高さが見て取れるかと思います。特に、「物質変換」の一つとしてランキングでフォーカスした人工光合成については、政府による研究課題への投資額に基づき一定の競争力があるのではないかとは既に述べた通りですが、個別企業/大学研究機関の技術競争力の観点からも同様の見方が出来るでしょう。

水素・水素社会に付随する関連技術の国別研究開発投資額

また、当社では、日本が総じて競争優位性を発揮できる技術領域として、主に、再エネ・蓄電池/水素・水素社会に付随する技術/カーボンリサイクルがあると考察。例えば水素・水素社会に付随する技術について、一般的には、水素燃料電池自動車や家庭用水素燃料電池と水素ネットワークが挙げられますが、この2領域の研究開発投資情報を国別に見ると、日本については、家庭用水素燃料電池と水素ネットワークに関する研究課題に対して、比較的多くの資金を供与していると言えます。


脱炭素関連技術の今後の展望

2020年11月、菅首相は主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を示しています。この、いわば「国際公約」を達成するためには、従前の排出削減にとどまらない取り組みが求められます。日本では省エネルギー技術が先行しているために、例えば「対GDP比の二酸化炭素排出量は少ない」といった先進性が語られていた時代もありました。しかしながら、温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するためには、”化石燃料の使用削減”では不十分で、二酸化炭素を全く排出しない”代替物の利用”をすすめる必要があります。

一方で、温室効果ガスのなかでもメタン、亜酸化窒素は、農業等に伴って排出される量が多く、大幅な削減は困難とされています。したがって、メタンや亜酸化窒素等の排出を、二酸化炭素の除去、すなわち“物質転換”でカバーしなくては、温室効果ガス排出量実質ゼロの達成は不可能です。ゼロに導くための必然的な帰結として、近い将来、人工光合成を始めとする“物質転換”の技術が注目されるものと展望されます。

自社展開領域の検討アングル

上記の分析を踏まえ、自社がどのような技術・事業をもってどの領域に取組むべきかを検討する上では、多岐に亘る領域に対して多角的な評価が必要となります。

領域そのものの有望性を測る上では、CO2の削減効果ポテンシャルや市場規模だけではなく、社会実装までに要する時間や、関連する規制や標準化の形成状況をも捉える必要があります。また、ある技術が移行期における当座のものであったとしても大きな事業インパクトが見込める場合に短期的にでも取組むべきか、移行期以降に実装化され得る革新的技術にどのようにシフトさせていくかといった判断も求められます。

斯様にして市場/規制/技術等の環境変化を先読みしながら、併行して、自社保有資本を起点とした際に競争力を発揮でき得る領域の見極めも図っていかなければなりません。

アスタミューゼによる可視化アプローチ

当社では、新製品/新事業/新技術といった世界中のイノベーション及びそれらに対する150兆円以上にものぼる投資に関する情報、さらには特許/論文/財務データ等の客観的情報を多数保有しています。それら膨大なデータを活用することで、短期/中期/長期それぞれの時間軸で技術トレンドを俯瞰的に捉え、来るべき未来を可視化することができます。

例えば、短期的トレンドを捉える上では、実用化済みの技術である特許情報の把握が有用です。一方、中期的トレンドの把握にはベンチャー企業のビジネスモデルの動向が、長期的なトレンドとして破壊的イノベーションの萌芽および実現時期を探索する上では、政府の研究開発投資予算の情報を活用することが望ましいです。



また、当社では、事業会社に対しては企業価値向上を、投資家に対しては企業価値発掘を支援すべく、企業が保有する知的資本/製造資本/人的資本/社会・関係資本/自然資本などの非財務情報を定量的にスコアリングしておりますが、個社が競争力を発揮でき得る領域を見定める上では斯様な可視化アプローチも有用です。


脱炭素においても、「客観的・俯瞰的・膨大なデータに基づく未来の可視化」と「非財務情報の定量評価による自社競争力の可視化」のアプローチを用いることで、自社にとって中長期的に有望な領域を選出することが可能となります。

「客観的・俯瞰的・膨大なデータに基づく未来の可視化」について、例えば、各国政府の脱炭素関連研究開発投資(グラント)に関するデータを用いることで、次世代技術がどのような時間軸で実装されていくかについて、大きな流れを捉えることが可能となります。

一方、「非財務情報の定量評価による自社競争力の可視化」についてですが、例えば、知的資本である特許について、他社に対する排他権としてのインパクト評価を中心に、地理的な権利範囲、権利の時間的な残存期間などを重み付けした形で技術資産スコアとして定量化することで、技術競争力を相対評価することができます。

特に、物質変換の一つとしてランキングでフォーカスした前述の人工光合成については、政府による研究課題への投資額に基づき一定の競争力があるのではないかとは既に述べた通りですが、個別企業/大学研究機関の技術競争力の観点からも同様の示唆が抽出できると考えます。

このように、保有特許の競争力を技術資産スコアとして定量化することで、自社がどの領域であれば技術的な競争優位性を発揮でき得るかを評価することが可能となります。

勿論、事業としての持続的な競争優位性を確立する上では、技術競争力だけでなく、競争環境上のKSF(Key Success Factor)も捉えたバリューチェーン上の水平/垂直展開やエコシステムの構築等、ビジネスモデル上の優位性も構築していかなければなりません。アスタミューゼは、有望な技術の見極めだけでなく、それらを事業という形に落とし込んでいくことも支援できます。


可視化を通じた企業価値向上の実現

脱炭素社会の実現に向けて、「客観的・俯瞰的・膨大なデータに基づく未来の可視化」や「非財務情報の定量評価による自社競争力の可視化」といったアプローチをとる便益として、自社が展開すべき領域への道筋が描けるようになるだけでなく、多様なステークホルダーに対するアカウンタビリティ(説明責任)を果たせることも挙げられます。

特に、金融市場との対話力向上による便益は大きく、「自社の無形資本の価値の再評価」、「成長の持続性及び競争優位性への理解醸成」、「潜在力を有する無形資本を用いた事業戦略/事業ポートフォリオの提示」等により、資本コストを引き下げた形でグローバルの成長資金を呼び込め、企業価値向上へと繋げていくことができると考えます。

まとめ

脱炭素社会の実現を図る上で、自社はどのような領域に展開すべきか。多角的な評価が求められる中、今回は、技術面での競争優位が発揮でき得る領域を探索する際の手法として、自社の技術資産の定量評価を起点としたアプローチについて解説しました。 脱炭素という広範囲に亘る複雑な課題に取り組む上では、希少で且つ模倣困難な強みを拠り所にすることが重要であり、技術資産はそのような強みのコアを形成するものと考えられます。