バイオマスによる二酸化炭素固定技術:バイオ炭のグラントとスタートアップ分析とカーボンニュートラルの実現可能性

バイオマスによる二酸化炭素固定技術:バイオ炭のグラントとスタートアップ分析とカーボンニュートラルの実現可能性

著者:アスタミューゼ株式会社 髙橋 基延 修士(理学)

はじめに

バイオマスとは

地球温暖化におけるカーボンニュートラルへのとりくみや、持続可能な社会実現(SDGs)にむけて、バイオマスの利用は拡大しています。最近では、植物などのバイオマス由来の原料や、飲食店などから出る廃食油をもちいた持続可能な航空機燃料(SAF)を使用した飛行機が運航されるなど、バイオマスが本格的に実用化されはじめています。

バイオマスの活用の推進している農林水産省によると、「バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を示す概念であり、『動植物に由来する有機物である資源(化石資源を除く)』」と定義されており、大気中の二酸化炭素を増加させない「カーボンニュートラル」とよばれる特性があると述べられています(注1)。このことからもわかるように、現在バイオマスは気候変動対策における重要な役割をになっています。

注1:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-170.pdf

バイオマス活用の歴史

では、バイオマス活用はいつごろから注目されるようになったのでしょうか。契機は2回あったと考えられています。最初の注目は、1970年代に起きたオイルショックです(注2、3)。

注2:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/40/0/40_4/_pdf
注3:https://www.nrel.gov/docs/fy22osti/76260.pdf

当時石油が供給不足となり、経済を動かすためのエネルギーが枯渇するという懸念がひろがりました。このため、未利用の間伐材や残材を木質バイオマス資源として利用することや、エタノールを燃料として使用すること、つまり化石燃料の代替物質を検討することがもとめられました。しかし、その後の原油供給量増加と価格の低下により、バイオマスの価格優位性がうすれてしまい、バイオマスの利用は下火となりました。

2度目の注目は、1997年に第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されたタイミングです。環境保護への関心が急速にたかまり、持続可能な開発やその後のSDGs(持続可能な開発目標)につながる流れのきっかけとなり、世界的に地球温暖化防止にむけた転換点となりました。この流れをうけて、バイオマスは20世紀末以来、ふたたび注目をあつめるようになりました。

バイオマスの分類方法

1990年代後半から再燃したバイオマス利活用では、地球環境改善にむけて多くの資金が投入され、さまざまな用途にむけた研究活動が活発化しています。バイオマスの利用は多岐にわたっており、複雑化していますが、農林水産省がその詳細な分類や分析を行っています(注4)。

注4:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij/63/5/63_5_533/_pdf

バイオマスの分類方法は原料からの分類、発生源(由来)による分類、変換技術による分類などさまざまありますが、利用用途による分類をおこなうと下記のようにわけられます。

  • エネルギー利用:おもに燃料利用として、バイオマス発電、バイオマス燃料、バイオガス。おもに熱利用として、バイオマスボイラー、バイオマス暖房
  • 材料利用(マテリアル):バイオマスプラスチック、バイオケミカル、セルロース繊維、バイオ建材
  • 環境利用:土壌改良材、浄化材

この分類方法で考えると、「エネルギー利用」は化石燃料の代替と考えることができ、「材料利用」は化石燃料から生成される工業原料の代替と考えることができます。では、「環境利用」の位置づけはどうなるでしょうか。環境利用で使われる土壌改良材は、おもに土壌中に長期間たまりつづけて効果を発揮します。このことから、ながい年月が必要な化石燃料生成過程の代替といえるかもしれません。化石燃料が生成される過程は二酸化炭素(CO2)の固定であり、今後のバイオマス利用における重要な観点となると考えられます。その理由をつぎの段落でみていきます。

CO2固定の観点から見たバイオマス

バイオマス利用による環境負荷低減指標

バイオマスの利用によって、どれほど環境負荷が低減できたかをはかる指標として、温室効果ガスの排出削減量があります。この指標は、原料だけでなく、輸送時や加工時に生じる排出量といったサプライチェーン全体で発生する排出量も含めて考えねばならないため、複雑ですが、削減率を評価するうえで重要な指標です。この評価はライフサイクルアセスメントとも呼ばれます。CO2を含む温室効果ガス(GHG)の排出量算定の概念については、資源エネルギー庁によるわかりやすく説明があります(注5)。

注5:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/scope123.html

CO2排出量削減は、インフラ(交通機関や発電)の電化や代替燃料、再生可能エネルギーの利用など、使用量が大きい用途ほど、その効果が大きくなります。これまで各国政府が電化や再生可能エネルギー利用の推進のための施策を打ってきたことも、この考えかたにもとづきます。したがって、バイオマスの利活用においても、SAFの実用化のように、バイオマス発電やバイオマス燃料といったエネルギー利用の研究開発や実用化が先行されています。

一方で、CO2固定の観点から考えるとどうでしょうか。エネルギー用途のバイオマスは、エネルギーを創出するために、バイオマスそのものを燃焼させる必要があります。したがって、バイオマス原料がCO2を固定する期間は、エネルギーとして燃焼させるまでの期間と考えられます。このCO2を固定できている期間をひとつの指標としてとらえてみましょう。材料用途のバイオマスは、バイオマス原料から成形され、材料として使用されているあいだはCO2固定がつづきます。役目を終え、廃棄(燃焼)されるまでがCO2固定期間であり、使用されている期間がエネルギー用途のバイオマスよりも長いといえます。土壌にまぜて使用する環境用途のバイオマスにいたっては、燃焼させることなく半永久的に使用することを前提としているため、CO2固定期間は前出の2つの用途よりも格段に長いといえます。

CO2固定は、今後の炭素削減に必須な技術として、地中貯留や海洋隔離といった技術に対して資金が供出され、研究開発がすすめられています。したがって、CO2固定期間の長い環境用途のバイオマスは、今後さらに研究開発が活発化されることが見込まれるバイオマス分野であるといえます。この環境用途のバイオマスの最たる例が「バイオ炭」です。

バイオ炭とは

バイオ炭(biochar)は、有機物を炭化させて得られる炭素材料です。専用炉をもちいて、酸素を遮断した状態で高温にすることで、燃焼させるのではなく、熱分解させて生成されます。生成されたバイオ炭は、多数の細孔を有する多孔質であり、表面積が大きいため吸着能が高いことが利点とされています。バイオ炭の材料としては植物が主流であり、木質バイオマスである間伐材や木くず、廃棄物バイオマスであるナッツの殻やサトウキビのしぼりかす(バガス)が用いられています。生成方法や材料から考えると、焼畑農業がバイオ炭生成に当たるのかと誤解しそうですが、焼畑農業では酸素飽和の状態で燃焼されるため、炭素が固定されずにCO2として放出されてしまいます。

バイオ炭を使用する利点は、その構造と化学的性質にあります。バイオ炭は細孔がいくつもある多孔質構造を有しており、比表面積が大きいため、すぐれた吸着能を発揮します。この吸着能により、水分を保持するため保水力向上や、栄養分を保持することで栄養素の流出を防ぐ効果が期待できます。さらに、この吸着能は重金属や有害化学物質も吸着して固定化することができるため、土壌や水、大気を浄化する重要な用途としても考えられています。また、化学的性質としては、バイオ炭はアルカリ性であるため、pH調整能力があり、酸性土壌の改質に役立つとされています。

逆に、不利な点としては生産コストがあげられます。バイオ炭の生成過程では高温の熱分解プロセスを必要とするため、エネルギーが必須です。小規模生産ではエネルギー効率も悪くなってしまうことが懸念されています。しかし、規模を大きくすると専用炉が必要となるため、初期投資が高額になってしまうというジレンマがあります。この不利を解消しようとするこころみとして、エネルギー用途のバイオマス利用と複合させることで、発電やバイオ燃料を生成しつつ、その過程でバイオ炭を作成するプロセスの開発も進められています。

次に、バイオマスの中でも炭素固定に有用と考えられるバイオ炭に焦点を当てて、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、バイオ炭の開発動向を見ていきます。

バイオ炭に関する研究予算の動向

科研費などの競争的研究資金は「グラント」と呼ばれ、研究者が新たなアプローチや研究をおこなうために必須の資金です。また、資金源である国や企業が、これから必要とされる技術を選定している場でもあるといえます。アスタミューゼでは、グラントに採用された案件の研究概要にふくまれるキーワードの出現数の年次推移を算出することで、近年伸びている技術要素を特定する「未来推定」という分析をおこない、萌芽的な分野の予測をしています。キーワードの変遷をたどることで、すでにブームが去っている技術や、これから脚光をあびると推測される要素技術を可視化することができ、今後発展する技術や黎明・萌芽・成長・実装といった技術ステータスの予測が可能となります。

バイオ炭に関するグラントにおけるキーワード分析

図1に2012年から2023年まで12年間において、バイオ炭に関わるグラントに採用された研究の概要にふくまれている特徴的なキーワードの年次推移をしめします。

図1:バイオ炭に関わるグラントに採用された研究の概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移

図中の「growth」(成長率)は、全期間の文献内における出現回数に対する、後半6年間の文献での出現回数の割合をあらわします。数値が1に近いほど、直近に多く出現しているとみなせます。

競争的資金を受けるバイオ炭の研究には、「bagasse」( サトウキビのしぼりかす)や「algal」(藻類)、「husks」(もみがら)といった原料が選ばれていることがわかります。さらに、2018年以降には「bentonite」(高い膨潤性と吸着性を持つ鉱物)や「hydrochar」といった、バイオ炭と同時に利用することで相乗効果を生みだす材料や、低温でマイルドな生成過程を研究していることをしめす語が成長率上位に見られます。つまり、バイオ炭を効率的かつ効果的に利用するための基礎的な開発が必要とされていることがしめされています。また、「footprint」や「credit」、「lca」(ライフサイクルアセスメント)といったCO2削減に関する語が見られ、カーボンニュートラルに対するバイオ炭のCO2固定能への期待がうかがえます。さらに「sub-Saharan」からは、サハラ砂漠以南の土地においてバイオ炭が有用であることが継続的に述べられていることがしめされています。

バイオ炭に関するグラントの国別分析

図2は、2012年から2023年までのバイオ炭に関連するグラント(研究競争資金)の採択件数における上位5か国の動向をしめしています。ただし、中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映していない可能性が高いため除外しています。また、公開直後のグラント情報には、データベースに格納されていないものもあるため、直近の集計値については過小評価されている可能性があります。

図2:バイオ炭に関連するグラントの国別件数推移(2012~2023年)

図3は、グラント配布額の国別年次推移をしめしています。配賦金額はプロジェクト期間で均等にわりふり、各年度に配分して値を集計しています。たとえば、3年計画で3万米ドルのプロジェクトの場合、各年に1万米ドルを計上しています。

図3:バイオ炭に関連するグラントの国別付与額推移(2012~2023年)

件数に関しては突出した国はありませんでしたが、配賦額ではEUがとびぬけて多く、他国と大きく差をつけています。この背景には、EUでいち早く政権主導の国家プロジェクトがたちあがったことがあります。EUでは、2019年末に発表された欧州グリーンディールにもとづき、「2050年までに排出ゼロを達成する世界初の大陸になる」ことを目標に、さまざまなEU圏内のプロジェクトがたちあげられています(注6, 7)。

注6:https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/12/c32b97e28cf745f7.html
注7:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_19_6691

政権主導ということもあり、2020年以降、毎年10億ドルをこえる資金が投じられている計算となります。プロジェクトの起案は2023年以降も継続されており、EU各国での研究はさらに活性化すると考えられます。

以下は配賦額の高いグラントの事例です。

  • Demonstration of circular biofertilisers and implementation of optimized fertiliser strategies and value chains in rural communities
    • https://cordis.europa.eu/project/id/101000527
    • 研究機関/企業: University of Leuven(ベルギー)他
    • グラント名/国:CORDIS/EU
    • 研究期間:2021~2024年
    • 配賦額:約824万米ドル
    • 概要: 地域の固形廃棄物の中でもっとも回収率の低い食品廃棄物を肥料化することが目的。これにより、埋め立て地で廃棄物が分解されてメタンを発生させることを防ぎ、資源回収もめざす。5つある変換プロセスのうちの1つに、バイオ炭生成が挙げられている
  • agriculTurE wAste PyrOlysis and Thermocomposting for renewable energy in Sustainable agri-food sector (TEAPOTS)
    • https://www.teapots-project.eu/
    • 研究機関/企業:ETHNIKO CENTRO EREVNAS KAI TECHNOLOGIKIS ANAPTYXIS, The Centre for Research and Technology-Hellas (CERTH) (ギリシャ)他
    • グラント名/国:CORDIS/EU
    • 研究期間:2024~2027年
    • 配賦額:約760万米ドル
    • 概要:処理のむずかしい農業廃棄物を熱分解と熱堆肥化によってバイオ炭と堆肥を生成し、農家の地域特性に応じた解決策を講じるコンソーシアム。ヨーロッパ7か国から16のパートナーが参加している
  • Turning food waste into sustainable soil improvers for better soil health and improved food systems
    • https://waste4soil.eu/
    • 研究機関/企業:National association of food industries(フランス)他
    • グラント名/国:CORDIS/EU
    • 研究期間:2023~2027年
    • 配賦額:約757万米ドル
    • 概要:食品廃棄物を持続可能な土壌改良剤に変え、土壌の健全性と食料システムの改善をはかることを目的としている。コンソーシアムには、EU9か国から27のパートナーが参加
  • Biochar Demonstrator Addressing Key Deployment Barriers for Carbon Sequestration
    • https://gtr.ukri.org/projects?ref=BB%2FV011596%2F1
    • 研究機関/企業:University of Nottingham(英国)他
    • グラント名/国:UKRI/英国研究期間:2021~2025年
    • 配賦額:約604万米ドル
    • 概要:バイオ炭を生産するための原料がかぎられており、英国では大規模な生産工場が稼働していない。その実情にかんがみ、2050年GGR目標の達成にむけて、バイオ炭をキー化合物とさだめ、その実用可否を判断するための研究開発や実証実験をおこなう。また、英国におけるバイオ炭の安定性と温室効果ガスの土壌排出への影響に関する初の包括的評価を提供することも目的としている

バイオ炭に関するスタートアップ企業の動向

国や企業から提供されるグラントをもちいて研究され、生み出された技術は、社会実装へとつながっていきます。その一つの出口がスタートアップ企業です。スタートアップ企業は、あたらしいテクノロジーを駆使して、社会や既存企業に大きな影響をあたえることが期待されています。そのため、スタートアップ企業が調達する資金額は、社会の期待値を反映していると考えられます。

バイオ炭に関するスタートアップ企業の会社概要におけるキーワード分析

図4に、2012年から2023年までの12年間におけるバイオ炭に関するスタートアップ企業の会社概要にふくまれているキーワードの年次推移をしめします。

図4:バイオ炭に関連するスタートアップ企業の企業概要に含まれる特徴的なキーワードの年次推移

最近の成長率が高い語として、「carbon-negative」や「credits」、「offset」といった脱炭素・カーボンニュートラルに関する語が多くならんでいることから、バイオ炭を社会実装することで地球温暖化防止に貢献するという企業の意思がしめされているといえます。また、「decentralized」や「storage」という語から、バイオ炭CO2固定能に着目して起業されていることがわかります。しかし、グラントで見られた「bagasse」や「bentonite」といった原料や協奏材は上位に入っておらず、バイオ炭はまだまだ研究段階にあり、社会実装は進んでいない段階であるといえます。

バイオ炭に関するスタートアップ企業の企業数と資金調達額分析

図5は、2012年から2023年までのあいだに設立されたバイオ炭に関するスタートアップ企業の数と資金調達額の推移をしめしています(※設立した年に資金調達しているとはかぎりません)。

図5:バイオ炭関連のスタートアップ企業設立数と資金調達額の推移(2012~2023年)

毎年の設立起業数が全世界的に見ても数社しかないことから、バイオ炭に関するスタートアップ企業は黎明期にあるといえます。前掲の図3において、2018年以降のグラントが増加していることに呼応するように、2021年以降の資金調達額が増加傾向にあります。図には記載がありませんが、2020年以降に資金調達した企業の数は、2019年までに資金調達した企業の数の3倍に増えています。特に、2023年は1,000万米ドルを超える資金を調達した企業が3件あり、そのうちの1社は、この12年間における最高額の資金を調達しています。

有望なバイオ炭関連のスタートアップ企業としては、フィンランドのCarbo Culture社(注8)があげられます。

注8:https://carboculture.com/

Carbo Culture社は、バイオ炭の生成と同時にバイオガスを作成できるプロセスを考案し、特許化しています。バイオ炭を生成する際にバイオガスも作成できるため、化石燃料を使わずにバイオ炭生成用のエネルギーを確保することが可能です。そのため、同社の技術を導入したリアクターを使用することで、バイオ炭におけるCO2削減効果が低いという不利な点を解消できると実証しています。さらに、生成したバイオ炭は農業用途以外にも、セメントの一部をおきかえる用途として提案されており、建設資材への適用により環境にやさしいコンクリートの実現をめざしています。

Carbo Culture社のように、バイオ炭を主生成物としてプロセスを構築しているスタートアップ企業もありますが、英国のNova Pangaea Technologies社(注9)やデンマークのMash Makes社(注10)のように、バイオ燃料の生成を主目的とするスタートアップ企業が、副生成物として生成されるバイオ炭も商品化しようとするこころみがみられます。

注9:https://www.novapangaea.com/
注10:https://www.mashmakes.com/

図6は2012年からの12年間に起業されたスタートアップ企業数の国別比較結果です。

図6:バイオ炭に関連するスタートアップ企業の国別設立数(2012~2023年)

国別でのスタートアップ企業の設立数では、米国が圧倒的に多く、大きく差をつけてドイツと英国が続いています。この12年間において、EU諸国でのスタートアップ企業は少ないものの、グラントによるバイオ炭研究の強化が進んでいることから、今後の成長が期待されます。

以下に、資金調達額上位に位置するその他のスタートアップ企業の一部を紹介します。

  • Char Technologies
    • https://www.chartechnologies.com/
    • 所在国/創業年:カナダ/2011年
    • 事業概要:高温熱分解プロセスを独自に発展させ、森林伐採や加工時に出る残渣、建築物の解体で生じた廃棄木材といった木質バイオマスや排水処理施設から生じる固形有機廃棄物を原料の総質量に対して最大 90% 削減するとともに、バイオ炭と再生可能エネルギーを生み出し販売している
  • AquaGreen
    • https://aquagreen.dk/
    • 所在国/創業年:デンマーク/2016年
    • 事業概要:水分を多くふくむ汚泥に適用できるように、蒸気乾燥技術と熱分解プロセスをカスタマイズし、乾燥した木質バイオマスではなく、生活排水や醸造所、養殖産業などから出る産業排水をターゲットにして、廃棄物減量とCO2固定を実現。水分の多い原料に特化したバイオ炭生成プロセスを販売している。
  • Biochar Now
    • https://www.dp.tech/
    • 所在国/創業年:米国/2011年
    • 事業概要:低速熱分解技術をもちいて、原料のサイズによるバイオ炭の品質バラつきを低減するとともに、用途におうじたサイズの異なるバイオ炭を提供できることを売りとする。バイオ炭をもちいた大気や水の浄化において、米国環境保護庁の規制に準拠する方法として提供されており、米国全土の多くのプロジェクトで使用されている

まとめ:カーボンニュートラルの実現にむけて

バイオマスの利活用が活性化している中で、CO2固定という指標で考えると、バイオ炭はバイオマス製品の中でももっとも期待される存在であるといえます。バイオ炭に関する研究では、グラントを受けた研究におけるキーワード分析から「バイオ炭を効率的かつ効果的に利用するための基礎的な開発」が必要とされています。この傾向は今後もつづく見通しであり、さらなる技術革新が期待されます。

スタートアップ企業の設立数や資金調達額から見ると、ビジネス化はまだ黎明期にあるといえます。ここ数年の資金調達額の増加を考慮すると、今後も資金供給の増加傾向が続くであろうと考えられます。

バイオ炭のCO2固定能が高いことは認識されていますが、生成時に高温プロセスが必要なため、CO2削減量が他のバイオマスとくらべて低くなるという不利な点があります。これを解消する方法として、各スタートアップ企業でも採用されているように、バイオ炭の生成時にバイオガスやバイオオイルを生成し、それを燃焼用エネルギーとして活用するとりくみが進められています。または、エネルギー用途のバイオマスの利用にともなう副産物としてバイオ炭を生成する形もとられています。どちらの方法も、バイオマスの利用用途を限定せず、おたがいに保管することで不利な点を解消しています。

バイオマスにおけるバイオ炭は、CO2固定という観点から、今後重要な役割をになう技術であるといえます。まだ研究開発段階ではありますが、確実に社会実装へむけて進んでおり、資金供給の増加も見込まれています。さらに、バイオ炭の技術向上が進むことで、バイオマスの利用用途を複合的にとらえることが可能となり、エネルギーを創出するとともにCO2を固定するという形が、今後のバイオマス利用の主流となっていくと考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 髙橋 基延 修士(理学)

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