レアメタルとレアアースのサーキュラーエコノミー ~脱輸入依存に向けたスタートアップとグラント分析~

レアメタルとレアアースのサーキュラーエコノミー ~脱輸入依存に向けたスタートアップとグラント分析~

著者:アスタミューゼ株式会社 田澤 俊介 博士(工学)

はじめに

脱炭素推進による洋上風力発電等の再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の需要増加にともない、それらの機材に必要なレアメタル(希少金属)およびレアアース(希土類)の需要が高まっています。

これらの資源は中国やブラジルなどの特定の国に産出が偏っており、とくにレアアースは世界全体の産出量のうち60%を中国が占めています。各国の脱炭素化や経済成長に欠かせないレアメタルおよびレアアースの安定的な確保のためには一度使用した資源を新たな製品や材料として再生および再利用することで循環させる「サーキュラーエコノミー」が重要です。

近年では使用済み電化製品(e-Waste)や工業廃棄物などの二次資源から金属資源を回収する「都市鉱山」が注目されており、2023年4月のG7札幌において合意された「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」にも含まれています。

アスタミューゼでは、世界中のグラント(研究プロジェクト予算)や特許、論文、スタートアップなど、イノベーションに関わる膨大なデータベースを保有しています。本レポートでは、レアメタルおよびレアアースのサーキュラーエコノミーに関する技術動向をスタートアップ企業と研究プロジェクト予算のデータから調査しました。

レアメタルおよびレアアースに関するスタートアップ企業の分析

図1に2012年以降に設立されたスタートアップ企業の年ごとの設立数、および資金調達額を示します。

図1:スタートアップ企業の設立数および資金調達額の年次推移

設立件数は年間平均で5~10件で推移しています。資金調達額は、2019年から大きく増加しており、2023年は2019年の約6倍となっています。

2018年まではリチウムイオン電池のリサイクル、レアアースを含む磁石や他のレアメタルのリサイクルに関するスタートアップ企業が中心でしたが、2019年以降、使用済みのリチウムイオン電池等から新しいバッテリーを製造するスタートアップ企業が大規模な資金を調達していることが要因です。

中でも、スウェーデンの「Northvolt」やアメリカの「Redwood Materials」社は、10億米ドル規模の資金調達を複数回おこなっています。また、レアアースのリサイクルに関連するスタートアップ企業も2023年に2.7億米ドルの資金調達をおこなっており、今後さらに資金調達額が伸びていくことが予想されます。

以下に資金調達額上位の企業のうち、注目企業を3社紹介します。

  • 企業名:Northvolt
    • https://northvolt.com/
    • 所在国/創業年:スウェーデン/2016年
    • 資金調達状況:88億米ドル
    • 事業概要:再生可能エネルギーを使用し、リチウムイオン電池をはじめとした使用済み電池から回収した電池素材をリサイクルしてバッテリーを製造するスタートアップ企業
  • 企業名:Redwood Materials
    • https://www.redwoodmaterials.com/
    • 所在国/創業年:アメリカ/2017年
    • 資金調達状況:38億米ドル
    • 事業概要:使用済みのリチウムイオン電池の材料から電極材料を再度製造することで、リチウムイオン電池の循環サプライチェーン構築を目指すスタートアップ企業
  • 企業名:Cyclic Materials
    • https://www.cyclicmaterials.earth/
    • 所在国/創業年:カナダ/2021年
    • 資金調達状況:5億米ドル
    • 事業概要:磁石に用いられるレアアースの循環サプライチェーン構築を目指す、レアアース専門のリサイクル企業

レアメタルおよびレアアースに関するグラントデータの分析

次にグラント(研究開発資金)について見ていきます。2012年以降のレアメタル・レアアースのサーキュラーエコノミーに関するグラントの採択数の年次推移を国別にまとめたものが図2です。

図2:グラント採択数の国別年次推移

2012年から2016年までは日本がトップでしたが、2017年以降大きく減少しており、2012年の半分以下になっています。一方でアメリカは採択数を近年大きく伸ばしており、2022年は2012年の約5倍となります。ただし、グラントにはデータベース格納にタイムラグがあるため、直近の集計値は減少しやすいことには留意が必要です。

図3はグラント配賦額の年次推移です。配賦額はプロジェクト期間で均等割りし、各年度に配分して値を集計しております。ただし、中国はグラントデータの開示が不十分なため除外しています。

図3:グラント配賦額の国別推移

グラントの配賦額は、EUが2012年から2022年までに約10倍と大きく増加しています。また、アメリカも2019年以降が急激に伸びています。一方で日本の配賦額は2013年以降横ばいです。

配賦額上位の研究内容を分析したところ、レアアース、特にレアアース磁石からのリサイクルおよび分離回収に関する研究が多く見られました。これは、中国によるレアアースの輸出規制や、風力発電などの再生可能エネルギー用の発電タービンや電気自動車(EV)用モーターの需要増加に対する、アメリカやEUの「輸入に依存しない」ための資源戦略によるものと考えられます。

アメリカは、2017年の大統領令に基づいた「安全で信頼できる重要鉱物の供給に向けた連邦政府戦略」を策定しました。

独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のレポートによると、2018年以降、レアアースの生産量を増やし、2022年には世界第2位の産出国になっています

EUでも2021年に、欧州原材料アライアンスが「レアアースマグネット及びモーター:欧州行動要求」を提言しています。これは使用済みのレアアース含有製品や廃棄物の再処理、リサイクル促進を求めたものです。

以下に配賦額の高いグラントを3例紹介します。

  • タイトル:Sustainable Recovery, Reprocessing and Reuse of Rare-Earth Magnets in a Circular Economy (SUSMAGPRO)
    • 機関・企業:HOCHSCHULE PFORZHEIM(ドイツ)
    • プロジェクト期間:2019年~2023年
    • 資金調達額:約1450万米ドル
    • 概要:ネオジム鉄磁石(レアアース磁石)を、水素処理技術によりリサイクルし、レアアース磁石の循環サプライチェーン構築を目指す研究
  • タイトル:first of a kind commercial Compact system for the efficient Recovery Of CObalt Designed with novel Integrated LEading technologies
    • 機関・企業:FUNDACION TECNALIA RESEARCH & INNOVATION(スペイン)
    • プロジェクト期間:2018年~2022年
    • 資金調達額:約1370万米ドル
    • 概要: EU内の一次および二次資源に含まれるコバルトを高度な湿式冶金および電気化学技術により回収する技術に関する研究
  • タイトル:Development of an innovative sustainable strategy for selective biorecover of critical raw materials from Primary and Secondary sources
    • 機関・企業:FUNDACION CENTRO TECNOLOGICO DE INVESTIGACION MULTISECTORIAL(スペイン)
    • プロジェクト期間:2019年~2024年
    • 資金調達額:約710万米ドル
    • 概要:微生物による金属の移動を活用した、レアアースおよび白金などの重要金属を一次資源および二次資源から選択的に抽出する技術に関する研究

まとめ

レアメタルとレアアースのサーキュラーエコノミー技術に関連するスタートアップ企業およびグラントの両方で、資金調達額および配賦額の増加がみられました。

スタートアップ企業はリチウムイオン電池のリサイクルなどリチウムの循環に関連するものが多く資金を調達している一方で、グラントはコバルトなどリチウム以外のレアメタルおよびレアアースのリサイクルおよび回収に関連する研究に資金が投入されています。また、レアアースのリサイクルに関するスタートアップ企業も大きな資金を調達していることから、レアアースのリサイクルも社会実装に近づいているといえます。

EUではレアメタルおよびレアアースに関して、重要原材料法案の対象材料として2030年までに達成すべき域内での採掘・加工・リサイクルの努力目標を設定すると2023年11月に決定しました。

また、2023年9月にはEVバッテリーから抽出される金属資源のリサイクル改善のために廃EVバッテリー由来の金属および中間廃棄物の輸出を制限しており、域内でレアメタルやレアアースを循環させるための法整備も進んでいます。

脱炭素化の流れの中でレアメタルおよびレアアースの需要はますます伸び、それらの確保はより重要課題となるため、今後もこれらのリサイクルおよび回収技術の研究は、優先度が高まり、社会実装も加速していくものと考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 田澤 俊介 博士(工学)

さらなる分析は……

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