プラスチックとサーキュラーエコノミー ~スタートアップと研究プロジェクトの最新動向~

プラスチックとサーキュラーエコノミー ~スタートアップと研究プロジェクトの最新動向~

著者:アスタミューゼ株式会社 琴岡 匠 博士(工学)/ 源 泰拓 博士(理学)

はじめに

近年、環境への負担を減らしつつ経済成長を実現する方法として、サーキュラーエコノミーが注目されています。サーキュラーエコノミーは、資源を効率的に使い、廃棄物を最小限にし、製品の寿命をできるだけ長くする経済モデルのことです。

とくに、プラスチックの消費と廃棄は大きな課題となっています。全世界で毎年何億トンものプラスチックが生産され、その大部分は使い捨てられます。使い捨てられたプラスチックは自然に分解されず、環境に流れ込んで大気、土壌、海洋などに深刻な汚染を引き起こします。例えば、水生生物がプラスチックを誤って摂取し、それが食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼす可能性があり、2050年までには海洋のプラスチックが魚の量を上回る可能性もあります。さらに回収することが困難な微小なプラスチック粒子・マイクロプラスチックは、富士山頂の雲に含まれる水からも検出されています。

このような背景から、サーキュラーエコノミーはプラスチック廃棄物の問題に取り組む有望な方法として注目されています。日本でも2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラ法)が制定され、国内でもプラスチックの資源循環への取り組みが進んでいます。

このレポートでは、プラスチックに関するサーキュラーエコノミーの取り組みについて、アスタミューゼ独自のデータベースを使って、スタートアップ企業と研究プロジェクトの活動を紹介します。

スタートアップの動向

まず、スタートアップ企業のデータベースから、会社概要(description)に「サーキュラーエコノミー」と「プラスチック」が明記されている企業を抽出しました。スタートアップ企業は、新しい技術で社会や既存プレイヤーにインパクトを与える企業であり、その資金調達額は社会の期待値を反映していると言えます。

図1は、2012年から2022年までの間に設立されたサーキュラーエコノミーとプラスチックに関連するスタートアップ企業の数と資金調達額の推移を示しています。設立数も資金調達額も2017年以降から急激に増加し、2021年にピークへ達しました。

図1:2012~2022年のプラスチック&サーキュラーエコノミー関連スタートアップ企業の設立数と資金調達額の推移
図1:2012~2022年のプラスチック&サーキュラーエコノミー関連スタートアップ企業の設立数と資金調達額の推移

国別でのスタートアップ企業の設立件数が図2です。米国が128社でトップ、その後にイギリス、カナダが続いています。

図2:2012~2022年の国別プラスチック&サーキュラーエコノミー関連スタートアップ企業の設立数

これらのスタートアップ企業は、主に廃棄プラスチックの処理方法やリサイクル・再資源化の事業に取り組んでいます。この増加の背景には、2017年代に中国が廃棄物輸入を規制し、プラスチック廃棄物が米国内に蓄積され、リサイクルインフラが不足している状況があります。これをビジネスチャンスと見なし、新しいリサイクル技術やソリューションの開発に着手したことが、スタートアップ企業の増加に寄与したと考えられます。なお、日本においては、プラスチックに関連するサーキュラーエコノミーを掲げるスタートアップ企業は見当たりませんでした。

以下では、資金調達額の上位に位置するいくつかのスタートアップ企業を紹介します。

  • Protein Evolution
    • https://protein-evolution.com/
    • 所在国/創業年:アメリカ/2021年
    • 資金調達状況:約2,000万ドル
    • 事業概要:自然科学と人工知能技術を組み合わせて、使用済みの繊維やプラスチック廃棄物を再利用し、プラスチックの廃棄物を減少させ、循環型プラスチックの製造に取り組むバイオテクノロジー企業
  • Polymateria
    • https://www.polymateria.com/
    • 所在国/創業年:英国/2016年
    • 資金調達状況:約2,500万ドル
    • 事業概要:生分解性で堆肥化可能なプラスチック製品の開発に従事。通常のプラスチックを完全に生分解させ、環境に負担をかけずにマイクロプラスチックの排出を抑制する技術を有する
  • Tide Ocean
    • https://www.tide.earth
    • 所在国/創業年:スイス/2010年
    • 資金調達状況:約2,500万ドル
    • 事業概要:海洋プラスチックを素材として使用したプラスチック製品を提供し、廃棄プラスチックの収集と成形技術を提供。硬質プラスチック製品や3Dプリント用のフィラメントなど、100%リサイクル材料を製造している

研究プロジェクトの動向

次に、グラント(科研費などの競争的研究資金)の動向について示します。グラントには、まだ論文での発表がない新たな問題や課題に対するアプローチや研究プロジェクトが含まれています。

図3は、2012年以降のプラスチックとサーキュラーエコノミーに関連するグラントプロジェクトの件数が上位の5つの国の動向です。ただし、中国のデータは年によって開示状況が異なり実態を反映していないため除外しました。

図3:2012~2022年のプラスチック&サーキュラーエコノミー関連グラントプロジェクト件数上位5か国の推移

これらのグラントの研究内容は、生分解性プラスチックの開発や廃棄プラスチックのリサイクルなど、素材と処理に関する研究が多く見られます。2012年ごろには、日本とアメリカが上位に位置していましたが、2020年から日本の件数が減少傾向にあります。一方、EUは後半になるにつれて件数が増加しており、プラスチックへの関心の高まりがうかがえます。

図4では、各国の年次研究資金の推移を示しています。EUの増加が特に著しく、件数と資金の両方が増加しています。これからもグラントのプロジェクト数と資金調達額が増える傾向が続くことから、プラスチック問題への関心が高まっていることが分かります。

図4: 2012~2022年のプラスチック&サーキュラーエコノミー関連グラント賦与額上位5か国の推移

また、EUは2021年に特定のプラスチック製品の市場流通を制限・禁止する規制を施行し、プラスチック汚染問題に官民一体で取り組んでいます。このような社会的背景が、グラントのプロジェクト数と資金調達額の増加に影響を与えていると推測されます。

以下にいくつかのグラント事例を紹介いたします。

  • FOR THE CIRCULAR ECONOMY OF TYRE DOMAIN: RECYCLING END OF LIFE TYRES INTO SECONDARY RAW MATERIALS FOR TYRES AND OTHER PRODUCT APPLICATIONS
    • 機関/企業:ORION ENGINEERED CARBONS GMBH
    • グラント名/国:CORDIS/EU
    • 採択年:2020年
    • 資金調達額:約1,360万米ドル
    • 概要:使用済みタイヤを再資源化し、タイヤと他の製品向けの二次原料を製造する技術を確立し、タイヤ産業のサーキュラーエコノミーの構築を目指すプロジェクト
  • Case For Support – Compostable plastics: unlocking existing barriers to systems change
    • 機関/企業:Coventry University他
    • グラント名/国:UKRI/英国
    • 採択年:2020年
    • 資金調達額:約150万米ドル
    • 概要:堆肥化可能なプラスチックに関する持続可能なシステムの構築、堆肥化可能な製品の環境分析と自動検出の技術開発など、廃棄物を堆肥に変えるプロセスを改善するプロジェクト
  • ERA-NET: Novel enhanced bioplastics from sustainable processing of seaweed (PlastiSea)
    • 機関/企業:SINTEF AS
    • グラント名/国:RCN/ノルウェー
    • 採択年:2020年
    • 資金調達額:78万米ドル
    • 概要:養殖海藻と野生海藻を基にした新しいバイオプラスチック材料の開発、バイオプラスチックの課題(生分解性、リサイクル性、低コストなど)を解決するプロジェクト

まとめ

スタートアップ企業は、特に2017年以降で社数と資金調達額が急増し、アメリカがスタートアップ企業の数でトップであることが分かります。多くのスタートアップは、リサイクルをはじめとした再利用や再資源化に焦点を当てており、既存の技術を組み合わせたり、改善したりするアプローチが一般的です。グラントのプロジェクトにおいても、廃棄プラスチックの資源化などに焦点を当てた研究が多く見られ、プラスチック製造と再利用プロセスのシステム構築と最適化に対する取り組みが行われています。

さらに、EUはプラスチック規制を導入し、プラスチック汚染問題に取り組むための官民協力を推進しており、これがグラントの件数と資金調達額の増加に寄与していると考えられます。今後も素材開発やプロセス改善の技術開発が進み、持続可能な社会を実現するための取り組みがますます重要になるでしょう。

著者:アスタミューゼ株式会社 琴岡 匠 博士(工学)/ 源 泰拓 博士(理学)

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