G空間・位置情報サービスの領域は、技術開発からサービス展開のステージへと移行 ~特許・ベンチャービジネス動向から見える技術段階~

G空間・位置情報サービスの領域は、技術開発からサービス展開のステージへと移行 ~特許・ベンチャービジネス動向から見える技術段階~

著者:アスタミューゼ株式会社 ミシェンコピョートル 博士(工学) / 源泰拓 博士(理学)

はじめに

GPSを含む位置情報サービスは、現代の生活に欠かせないものになっています。一般的な位置情報サービスは、特定の時刻(いつ)と場所(どこに)を示すものですが、これに加えて「何が」、「どのような状態か」という情報が加わったものが、G空間情報です。G空間・位置情報サービスとは人工衛星や現地調査などからえられる地理データや付随する空間・時間データをデジタル情報としてあつかい、分析、編集、応用などを可能にする技術分野です。

日本政府は、国土地理院や法務省、民間企業、学術機関などから提供された地図データを集約する「G空間情報センター」の運用を2016年に開始し、2023年から地理データを一般公開しました。地図データを都市計画や交通計画、災害対策、ビジネスマーケティングなどに応用することで、G空間・位置情報サービスを社会的な価値の創出につなげることが期待されています。

このレポートでは、アスタミューゼが提供するデータベースから関連技術情報をくわしく掘り下げ、特許、グラント、ベンチャーの情報を活用し、G空間・位置情報サービスの最新動向について見ていきます。

G空間・位置情報サービスの特許出願動向とスコア

図1はG空間・位置情報サービスに関連する国別の特許出願の傾向を示しています。この分野の特許出願は2001年以降、約90,000件が出願されました。

図1:G空間・位置情報サービスに関連する出願件数の推移(2001年~2021年)

図1からわかるように、出願件数が4位の韓国、5位のドイツ、6位の台湾、7位のフランス、8位のイギリス、9位のオランダ、10位のフィンランドの特許出願件数は全期間を通じて停滞傾向にあります。一方、1位の中国は2006年以降急激な成長を遂げています。2位のアメリカは2017年まで、3位の日本は2004年まで、ともゆるやかなに成長し、その後は安定しています。

特許の価値を測るためのスコアを算出し、帰属国別と出願者(企業・研究機関を含む)別にトータルパテントアセットを計算しました。図2では、帰属国別のトータルパテントアセットランキングです。中国が1位、アメリカが2位、日本が3位、韓国が4位、ドイツが5位です。トータルパテントアセットのランキングにめだった特徴はありません。

図2:G空間・位置情報サービスに関連する出願特許の帰属国別のトータルパテントアセット

図3は、出願人(企業・研究機関含む)ごとの特許出願件数とトータルパテントアセットのランキングです。

図3:G空間・位置情報サービスに関連する出願特許の出願人(企業・研究機関など)ごとのトータルパテントアセット

出願件数では、韓国のSamsung Electronics Co., Ltd.とアメリカのQUALCOMM, Inc.が突出していますが、特許の価値を加味したランキングでは、1位は中国企業のState Grid Yingda International Holding Group Co., Ltd.、2位と3位は中国の研究機関であるSoutheast UniversityとNanjing University.となります。15位には日本のトヨタ自動車株式会社もランクインしています。もっともスコアが高く評価された特許は、車両の位置情報を音声認識に活用する技術でした(注)

注:Method and system for speech recognition using grammar weighted based upon location information(WO2005066934A1 / 2005年1月出願)

G空間・位置情報サービスに関連する国別のベンチャー企業の資金調達額

図4では、ベンチャー企業の2001年から2021年までの資金調達の動向を示しています。G空間・位置情報サービスに関連するベンチャー企業はこの期間に524件増加し、総資金調達額は27億米ドル(米ドル換算)に達しています。特に、1位のアメリカと2位の韓国は近年急速に成長しています。また、全世界の資金調達額も2016年以降急激に増加しています。

図4:G空間・位置情報サービスに関連するベンチャー企業の国別(全世界含む)の資金調達総額(米ドル換算)の動向(2001年~2022年)

日本発のベンチャーでは、ダイナミックマッププラットフォーム株式会社が、2016年の創業以来、世界でもTOP3に入る300億円以上の資金を調達しています。同社は、自動走行や安全運転支援システムだけではなく、インフラ維持管理、防災・減災にも活用できる高精度3次元データの提供を事業化しています。

まとめ

G空間・位置情報サービスの領域全体を俯瞰すると、特許出願の増加率がゆるやかである一方で、ベンチャー企業の資金調達額が急激に増加している傾向が見受けられます。

図5:G空間・位置情報サービスに関連する特許出願件数(上位10か国の合計・左軸)とベンチャー企業の資金調達額(米ドル換算・右軸)の推移(2001年~2022年)

このような傾向は、G空間・位置情報サービスのステージが、基礎技術の開発から、技術を活用したサービス提供へと進化していることを示唆しています。これまで、政府機関が主導していた人工衛星による位置情報提供に加えて、スペースXのスターリンクのように民間企業が衛星コンステレーションを運用するなど、民間セクターの参入が増えています。

同時に、政府機関は「G空間情報センター」のように、地理情報を基盤技術として提供し、それを活用したビジネスモデルの育成を支援しています。以前、日本において天気予報や気象情報が政府機関の独占状態から民間企業への参入・移行がみられたように、今後はG空間・位置情報サービスの多様な展開が期待されています。

著者:アスタミューゼ株式会社 ミシェンコピョートル 博士(工学) / 源泰拓 博士(理学)

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アスタミューゼは世界193ヵ国、39言語、7億件を超える世界最大級の無形資産可視化データベースを構築しています。同データベースでは、技術を中心とした無形資産や社会課題/ニーズを探索でき、それらデータを活用して136の「成長領域」とSDGsに対応した人類が解決すべき105の「社会課題」を定義。

それらを用いて、事業会社や投資家、公共機関等に対して、データ提供およびデータを活用したコンサルティング、技術調査・分析等のサービス提供を行っています。

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