【社会課題レポート】「水処理・淡水化技術」の特許競争力トップは日本企業!国別の総合スコアは中国・韓国には及ばず ~水に関する社会課題の解決、SDGsの実現~

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は「2022年度版社会課題俯瞰レポート」を提供しており、各105社会課題のインパクトの定量評価と、テクノロジーによる課題の解決策を網羅的に整理しています。このたび社会課題のうち、「河川湖沼環境の水質を保全し持続可能な 水源確保と水不足のない社会を実現する」という課題に着目して、自社のイノベーションデータベースの解析を行ないました。本課題の解決策の一つである「水処理・淡水化技術」においては、日本の水処理技術に強みをもつ企業が高い競争力を持っていることが示された一方で、中国や韓国の大学・企業の特許競争力が急速に脅威となっていることを明らかにしました。その分析内容と結果について今回ご報告します。

著者:アスタミューゼ 伊藤大一輔 博士(生命科学)

課題の背景

私たち人間の生命活動にとって、体内の7割を構成する「水」が不可欠であることは言うまでもありませんが、農業や工業など経済活動にも大量の水が必須です。地球の表面積の7割は水でおおわれていますが、その97.5%は海水であり、そのまま利用することはできません。飲用水、農業・工業用水として淡水が必要となりますが、残り2.5%を占める淡水の多くは氷や地下水として存在するため、実際に人間が利用できるのは、地球上の水のわずか0.01%です。

日本は、温暖湿潤な気候と、水道インフラの整備により、水資源に恵まれた国ではありますが、近年では異常気象による水不足も深刻化しています。特に、2022年の日本列島では6月27 日に異例の早さで梅雨明けが発表され、これまでで最も短い梅雨を記録しましたが、同時に降水量の減少にともなう水不足が懸念されています。 

世界に目を向けると、経済発展に伴う工業生産や、穀物需要の増加などにより、過去50年間で淡水の使用量が倍増しており、水源からの過剰な取水による水不足や、水源の水質汚染が深刻な課題となっています。世界的には利用可能な淡水資源は偏在化しており、水源環境の保全、新規の水源開発、節水や水の再利用の促進による持続可能な水源の確保が急務となります。 

課題の「インパクト」

2022年6月14日に経団連から発表された提言書では、サステイナブルな資本主義の実践に向けた取り組みとして、インパクト指標を活用した企業と投資家のパーパス起点の対話の促進を提言しています。

例えば、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の場合、「疾病の罹患者数」がインパクト指標であり、具体的な企業の取り組みによる目標として扱いやすいものとなります。では、今回のレポートで注目している「河川湖沼環境の水質を保全し持続可能な 水源確保と水不足のない社会を実現する」という社会課題について、どのようなインパクト指標が存在するのかを見てみましょう。

本課題に関しては、主な課題としては、産業・生活用水の不足や、下水処理施設の不足・未整備などが重要課題として挙げられます。 

産業・生活用水の不足については、近年経済発展や人口の増加により、農業用水や工業用水の使用量が増大していますが、世界では水不足の地域に住む人々の数が、25億人に達していおり、世界人口の3割強にもなります(2018年、国連)。この問題の解決策としては、近年、海水の淡水化技術の研究が進められていますが、低コスト化や作物に害をもたらす成分の除去など、淡水化した海水を持続的に農業に利用するには多くの課題が残されています。海水淡水化技術により、新たに淡水の供給サービス・ビジネスが開始された場合、テクノロジーの恩恵を受けて水不足が解消された人口(=インパクト指標)の改善が、社会課題解決への貢献度の指標となります。 

課題解決につながる解決策・テクノロジーの整理 

水不足のない社会を実現するためには、テクノロジー/ビジネスによる解決策が不可欠となります。水源である河川や湖沼の流量・水量減少や、水質汚染は、安全・安定な水供給に対するリスクであり、森林や生態系の維持による水源涵養や排水・廃棄物処理による汚染防止対策が求められています。 

既存の水源においては、水量や水質を検知する監視システムや、水理・水循環を正確に把握するためのシミュレーション法の開発も重要です。なかでも、水資源や供給量に乏しい地域では、工場排水や下水を高度処理技術により浄化・再利用するシステムや、海水を淡水化するシステムの構築が重要と考えられます。

解決策となる技術を保有するプレイヤーの分析

本レポートでは、解決策となるテクノロジーの一端を紹介しましたが、水源の確保に資する技術である「水処理・淡水化」技術に関して、競争力の高い技術を保有するプレイヤーを分析しました。 

アスタミューゼでは、出願件数だけではなく、特許の「強さ」を指標化して、技術力評価するためのスコアリング手法を開発しています。今回の分析では、2010-2020年に出願された全世界の「水処理・淡水化」技術に関する特許のパテントインパクトスコア(※注1)を算出しました。対象期間中には約9万9000件の特許が出願されています。一つ一つの特許のスコアをもとに、特許の出願人(企業や大学など)ごとの特許の総合力であるトータルパテントアセット(※注2)を分析しました。表1に、各企業が所有する特許のトータルパテントアセットのランキングを示します。 

※注1)パテントインパクトスコア:他社への排他権としてのインパクト評価を中心に、更に地理的な権利範囲、権利の時間的な残存期間などを重み付けしアスタミューゼが開発した定量的な評価指標
※注2)トータルパテントアセット:各社の特許ポートフォリオとしての総合的な競争力を計る指標

表1. 2010-2019年間の「水処理・淡水化技術」に関するトータルパテントアセット上記企業10社

1位と4位には水処理技術に強みを持つ日本の栗田工業とオルガノがランクインしており、それぞれ膜分離装置や濾過処理システムに関する特許が高いスコアを示しています。 

注目すべきは中国の大学が多数ランクインしている点です。個別の保有特許を見てみると、河川および湖の水域浄化装置や、廃棄、飲料水中の重金属イオン除去方法などに関する特許のスコアが高くなっています。中国の存在感が非常に大きいことから、さらに出願人の帰属国別のトータルパテントアセットの合計を分析しました。

表2に、帰属国別のトータルパテントアセットのランキングを示します。

表2. 2010-2020年間の「水処理・淡水化技術」に関するトータルパテントアセット帰属国上位5か国

帰属国別では、中国の企業・大学が保有する特許が質・量ともに他国を大きく引き離す結果となっています。日本では前述のように水処理技術に競争力のある企業が存在しているものの、総合力の観点では中国だけでなく、出願件数の少ない韓国にも先行されている構図です。

中国政府は近年特許出願を国策として推進しており、2011年からの5カ年計画で特許出願の増加を掲げています。実際に2010年代半ばからの出願件数の急激な増加が顕著です。中国においては急激な経済発展に伴い、工業排水が増加していますが、廃水処理施設の不足や水源地の汚染が深刻な問題になっていることも、技術開発が急激に進む背景にあると推察されます。

今後の展望

水不足の大きな原因は経済発展と人口増加が挙げられますが、世界の総人口は2022年の78億人から2050年には97億人まで増加すると予測されており、ますます水不足の深刻化が進むと考えられます。

また、気候変動による降水量の変化に伴う干ばつや水害による水源地への悪影響も深刻化しています。このような状況のなか、世界の水ビジネス市場は人口増加や新興国の都市化を受け拡大し続けています。

経済産業省では官民共同での水ビジネス海外展開を支援しており、日本の高い水処理技術の展開拡大が期待されています。一方で、今回の特許競争力の分析で明らかになったように、中国や韓国の技術力の急激な成長も見られます。 

今後は、日本の企業や大学も水不足に起因する世界の社会問題の重要性を鑑み、さらなる技術開発の継続が不可欠と考えられます。 

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