フラクタル材料:「形」で機能を生み出す次世代高機能材料

フラクタル材料:「形」で機能を生み出す次世代高機能材料

著者:アスタミューゼ株式会社 池田 龍 博士(理学)

フラクタル材料とは

「フラクタル」とは、図形の一部を拡大すると全体と相似な形状がくりかえしあらわれる性質を指す、幾何学の概念です。近年、この「フラクタル構造(自己相似構造)」を材料設計に取り入れた「フラクタル材料」がさまざまな領域で注目を集めています。

フラクタル材料の特徴は、自己相似性を設計要素として意図的に取り入れる点にあります。数学的なフラクタル図形を近似的に再現した構造や、自然界の自己相似構造を模倣した構造を、材料の表面や内部の骨格に採用します。図1と以下の例は、こうした設計のもとになる代表的な形状です。

図1:左上から時計回りに、コッホ曲線、ヒルベルト曲線、シェルピンスキのガスケット、シェルピンスキのカーペット
  • 数学的なフラクタル図形
    • 曲線フラクタル:コッホ曲線、ヒルベルト曲線など
    • 平面フラクタル:シェルピンスキのガスケットやカーペット
    • 立体フラクタル:メンガーのスポンジ(シェルピンスキのカーペットの3次元版)
  • 自然界に見られる自己相似構造
    • 生体:肺の構造、血管網、腸管内壁、神経網など
    • 植物:樹木の枝分かれ、ブロッコリー、シダの葉など
    • その他:デンドライト(樹枝状結晶)、リヒテンブルク図形など
    • 海岸線、河川、山脈、銀河の大局的分布など

単一のスケールで設計された平滑な表面や周期構造では、特定の波長や振動数など、限られた条件で高い性能を発揮する場合があります。対応する帯域や動作範囲を広げるため、材料の大型化や多層化が必要となることもあります。一方、フラクタル材料は、限られた面積や体積の中に長い曲線や大きな表面積を持たせられます。また大きさの異なる相似な構造を階層的に配置することで、それぞれの構造を異なる物理条件に応答させることができます。こうした特徴は、広帯域の電磁波吸収や超親水性・超疎水性、高表面積による触媒や電極活性の向上、軽量性と強度・安定性の両立などにつながります。コンパクトな材料に複数の機能をもたせる設計として期待されます。

高性能なフラクタル材料の実現には、構造の設計、製造、評価をつなぐ技術が必要です。設計では、フラクタル次元(図形が空間を埋める複雑さを表す指標で、整数値とは限らない)や階層数を、目的とする物性に結び付けるシミュレーション技術が重要になります。製造では、ナノからマクロまでの各スケールで設計形状を再現する微細加工や積層造形の技術が、評価では階層構造を壊さずに調べる非破壊計測技術が求められます。また、長期使用を見すえ、微細構造の機械的耐久性や量産時のばらつきを管理することも重要です。

フラクタル材料に関連する技術や用途は、大きく次の5つの領域に整理できます。

  1. 電磁波・光:広い周波数帯に対応する電磁波吸収体や遮蔽材、フラクタルアンテナ、フォトニック結晶、プラズモン増強素子、トポロジカル材料など
  2. 熱・流体:フラクタル流路をもちいたデバイス液冷やマイクロ反応器、微小血管チップ、放熱フィン、蓄熱材、断熱材など
  3. 表面改質:水を極めてはじきやすい超疎水性や、水になじみやすい超親水性、防氷性、防汚性をもつ材料、高表面積の触媒など
  4. 構造体:軽量かつ高強度の構造材、振動や衝撃を吸収する材料、広帯域の吸音材や遮音材、フラクタル架橋ハイドロゲルなど
  5. エネルギー・センシング:燃料電池や二次電池向けの電極、摩擦帯電型ナノ発電機、電磁波のエネルギーを回収するハーベスタ、共振型センサ、ひずみセンサなど

本レポートでは、これらの領域の研究開発動向を把握するため、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、フラクタル材料に関連する特許と論文を分析しました。

フラクタル材料に関連する特許の動向

アスタミューゼが保有する特許データベースから、2011年以降に出願され、タイトルおよび要約に「フラクタル(fractal)」「自己相似(self-similar)」などのキーワードをふくむ特許514件を抽出しました。この母集団を対象に、文献中のキーワードの年次推移から近年進展がみられる技術要素を特定する「未来推定」分析をおこないました。キーワードの変遷を定量的に評価し、注目が落ち着いた技術や今後注目されると予測される技術をとらえ、各要素技術の段階(黎明・萌芽・成長・実装)を推定する分析です。

2011年以降に出願された関連特許のタイトルと要約にふくまれるキーワードの年次推移が図2です。

図2:フラクタル材料に関連する特許のタイトルと要約にふくまれるキーワードの年次推移

図2の成長率(growth)は、2011年以降の文献中における出現回数と、2019年以降の文献中における出現回数の比で定義されています。値が1に近いほど直近の出現頻度が高いとみなされます。

近年は、「勾配(gradient)」「フラクタル曲線(curve)」「シミュレーション(simulation)」など、フラクタル図形を設計要素として、各階層の寸法を段階的に変える構造設計に関連する語が頻繁に出現しています。ナノインプリントや積層造形などの微細加工技術の進展を背景に、精密なフラクタル形状を作製し、形状の設計によって電磁波や熱への応答を制御する技術開発が進んでいることがうかがえます。

用途に関する語では、撥水、防氷、防汚に関連する「超疎水性の(super-hydrophobic)」「自己修復型の(self-repairing)」、分岐流路による液冷放熱に関連する「マイクロチャネル (micro-channel)」、広帯域の電磁波吸収や遮蔽に関連する「電磁吸収体(absorber)」などが近年出現しています。これらは、電子機器の高密度化や発熱量の増加に対応する技術開発と関連すると考えられます。

つづいて、出願先の国・地域などによる特許出願動向を見ていきます。企業や研究機関の出願する特許の傾向には、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術と関連する、短中期の様相が反映されます。関連特許の国別出願件数の年次推移が図です。出願から公開までにはタイムラグがあるため、2025年の集計値は参考値です。

図3:フラクタル材料に関連する特許出願件数の国・地域別年次推移

出願先別では、長期的な増加傾向がみられる中国の件数がもっとも多く、米国、国際出願、欧州、日本が続いています。中国では、五カ年計画で産業基盤能力と競争力の強化に向けてハイエンド新材料産業に注力する方針を掲げており、新材料の一つとして「構造機能一体型材料」が挙げられています。

また、電磁環境両立性(EMC)対策やデータセンタの熱管理に対する需要が、フラクタル構造をもちいた小型のメタマテリアル吸収体や放熱構造の開発をうながしている可能性があります。一方、米国、欧州、日本の出願件数は2020年代以降伸び悩んでおり、構造設計や探索から個別製品への実装へと開発の重心が移行しつつある可能性が考えられます。

以下に、電磁波吸収、表面機能、電極に関する特許事例を紹介します。

  • CN115117638B:一种基于树枝分形结构的吸波超材料及制备方法)樹枝状フラクタル構造に基づく電波吸収メタマテリアルおよびその製造方法)
    • 機関/企業:中国人民解放軍ロケット軍工程大学
    • 国:中国
    • 公開年:2025年
    • 概要:放射状の分岐フラクタル構造と円環構造を組み合わせた吸収体単位を、アレイ状に並べた電波吸収メタマテリアル。3Dプリント技術で製造可能。中央から順に連結された分岐構造では、階層ごとの分岐数増加にともない、枝状構造の長さ、高さ、幅、角度が段階的に変化する。界面の数密度を高め、入射電磁波を各界面でくりかえし反射・屈折させることで、効率的な電磁波吸収を実現する。
  • 特開2020-23052:表面の疎水性もしくは親水性が高められた基体
    • 機関/企業:仲山貴金属鍍金株式会社ほか
    • 国:日本
    • 公開年:2020年
    • 概要:基材の表面を粗くして連続的な凹凸を形成し、その上に自己組織化単分子膜を形成する二段階の工程により、超疎水性や超親水性をふくむ、目的とする濡れ性(水などの液体へのなじみやすさ)を発現させる。フラーレン誘導体の超分子組織体を鋳型として多孔性フラクタル表面を転写する従来の手法とは異なり、量産性にすぐれ、自由度の高い濡れ性制御を実現する。μ-TAS(マイクロ流体技術やMEMS技術にもとづく試料分析用の小型デバイス)への応用を想定。
  • US9905858B2:Fuel cell with an improved electrode(電極を改良した燃料電池)
    • 機関/企業:Second Sight Medical Products, Inc.
    • 国:米国
    • 公開年:2013年
    • 概要:白金表面にフラクタル状の微細な被覆(「白金灰」)を電析させ、同じ形状の平滑な白金表面と比較して5倍以上の表面積を実現した電極と、その製造方法。電析速度を、平滑な白金が得られる速度より速く、白金黒が得られる速度より遅い中間域に制御することで、高表面積と機械的応力への耐性を両立する。かぎられた体積で反応面積を確保する必要がある燃料電池の電極や触媒への応用を図る。

フラクタル材料に関連する論文の動向

企業・研究機関の発表する論文には、研究開発段階にあり、特許と比較して社会実装に時間を要する技術と関連する中長期の様相が反映されます。特許分析と同様に、概要にフラクタル材料に関連する特徴的なキーワードをふくむ論文1,458件を抽出し、「未来推定」分析をおこないました。2011年以降に出版された関連論文の概要にふくまれるキーワードの年次推移を、図4にしめします。

図4:フラクタル材料に関連する論文の概要にふくまれるキーワードの年次推移

キーワードの出現頻度を見ると、フラクタルナノ構造にもとづく特異なバンド構造を持つトポロジカル材料に関する「トポロジカルな(topological)」が、期間全体でもっとも高い頻度をしめしています。また、メンガーのスポンジやシェルピンスキのカーペット・ガスケット、ヒルベルト曲線(空間充填曲線)など、具体的なフラクタル図形を指す「menger」「carpet」「gasket」「hilbert」も継続的に出現しています。

直近では、メタマテリアルやメタサーフェスの設計への活用に関連する「フラクタルベースにもとづく(fractal-based)」「フラクタル構造の(fractal-structured)」のほか、複雑な形状を実際に作製する技術に関する「積層造形(additive)」が目立ちます。特許分析と合わせると、フラクタル構造の設計を製造につなげる研究開発が進んでいることがうかがえます。

用途に関するキーワードでは、特許でも見られた電磁波制御や熱管理、受動部品やセンサの小型化に関連する「マルチバンド電磁遮蔽(shielding)」「チップ冷却流路、オンチップインダクタ/センサ(chip)」が出現しています。加えて、「フラクタル架橋構造を有するハイドロゲル(hydrogel)」「軽量の (lightweight)」など、生体材料や軽量構造材に関連するキーワードも新たに見られます。こうしたキーワードの出現は、生体工学や建築などへの用途の広がりを示唆しています。

続いて、関連論文の出版件数の国別年次推移が図5です。

図5:フラクタル材料に関連する論文出版件数の国別年次推移(2011~2026年)

国別では、中国の論文出版件数が期間全体でもっとも多く、米国、ロシア、インド、日本が続いています。中国は2011年時点で首位にあり、その後も高い水準を維持しています。新材料分野への継続的な国家投資や、メタマテリアル、熱管理、積層造形などの応用領域の広さが背景として考えられます。

米国の出版件数にはゆるやかな減少傾向が見られます。これは、フラクタル材料に関する研究がすでに成熟段階にあり、学術研究から個別デバイスへの実装研究へと技術開発の重心が移りつつあることを反映している可能性があります。また、インドでは2021年に一時的な急増が見られますが、電磁波吸収体など通信分野に関する応用研究が集中的に進展した結果と考えられます。

以下に、複数機能の両立、光の制御、環境発電に関する論文事例を紹介します。

  • Non-integer-dimensional architected materials enabling synergistic acoustic, mechanical, and fluid coupling(非整数次元構造材料による音響・力学・流体の相乗的結合)
    • 雑誌名:Materials Horizons
    • DOI:10.1039/d5mh01768h
    • 出版年:2026年
    • 機関名:中南大学など(中国・シンガポール)
    • 概要:非整数次元構造材料(NDAM)により、遮音性、機械的強度、通気性を一つの構造で同時に実現するため、次元を設計パラメータとする戦略を提案。高解像度の積層造形でメンガーのスポンジ型のNDAMを作製した。自己相似性にともなう散乱・共振による広帯域遮音性、応力の再分配によるエネルギー吸収性能、複数スケールの流路にともなう抗力低減による通気性向上という3機能の両立を実証した。材料の不均一性やハイブリッド化に依存せず、次元パラメータを多機能メタマテリアルの設計軸としてあつかえることをしめした。
  • Observation of nonlinear fractal higher order topological insulator(非線形フラクタル高次トポロジカル絶縁体の観測)
    • 雑誌名:Light: Science & Applications
    • DOI:10.1038/s41377-024-01611-1
    • 出版年:2024年
    • 機関名:西安交通大学など(中国・ロシア)
    • 概要:フラクタル構造に由来する非線形フォトニック高次トポロジカル絶縁体(HOTI:物質内部にD次元絶縁体、角や稜線などの低次元境界に(D-2)次元以下の金属状態が現れる特殊な量子相を初めて実証。シェルピンスキのガスケット型に配置した導波路のアレイで、トポロジカルに保護されたコーナー状態がフラクタル構造の内側と外側に発生することを確認した。さらに、それらの状態を入射光の強度によって効率的に制御できることをしめした。
  • Polarization-Insensitive Fractal Metamaterial Surface for Energy Harvesting in IoT Applications(IoTアプリケーションにおける環境発電のための偏波に依存しないフラクタルメタマテリアル表面)
    • 雑誌名:Electronics
    • DOI:10.3390/electronics9060959
    • 出版年:2020年
    • 機関名:カラブリア大学(イタリア)
    • 概要:2.45GHz帯のWi-Fi電波を利用する環境発電に向け、フラクタル構造にもとづくメタマテリアルの単位構造(ユニットセル)を提案。極小なセルで、極めて高い吸収係数と、広い入射角に対応し偏波に依存しない特性を実現する。9×9素子のメタマテリアルハーベスタを設計し、シミュレーションで2.45GHzにおける96.5%の集電効率を達成した。無線センサネットワーク向けの小型で高効率な環境発電システムへの適用可能性をしめした。

フラクタル材料に関連する技術動向のまとめ

本レポートでは、アスタミューゼが保有する特許と論文のデータベースをもとに、フラクタル材料の研究開発動向を年次推移と個別事例から分析しました。

特許分析では、フラクタル図形の各階層の寸法を段階的に変える構造設計に関連するキーワードが、近年頻繁に出現しています。また、広帯域の電磁波吸収、超疎水性や自己修復性を持つ表面構造、分岐流路による液冷放熱など、実装用途に関する技術開発の動向がうかがえます。出願先別では中国の件数が長期的に増加し、首位を占めています。新材料産業への継続的な国家投資がその主要な背景として考えられます。

論文分析では、トポロジカル材料や、シェルピンスキのカーペット・ガスケット、メンガーのスポンジとなどの図形に関連するキーワードが、期間全体を通じて高い出現頻度をしめしています。加えて、メタマテリアルの設計にフラクタル構造を活用する語や、積層造形による精密な作製に関する語が直近で目立ち、数理的な構造設計を製造につなげる研究の進展がうかがえます。電磁波の応答制御や熱管理に加え、ハイドロゲルや軽量構造材に関連するキーワードも新たに出現しており、研究対象となる用途の広がりが見られます。

これらの動向をふまえると、研究開発では、フラクタル次元や階層数を目的とする物性に結び付ける設計手法と、設計形状をナノからマクロまでの各スケールで再現する製造技術が重要です。実用化には、微細な階層構造の機械的耐久性の確保、量産時のばらつきの低減、階層構造を非破壊で評価する計測手法の整備にも取り組む必要があります。

将来的は、通信機器やデータセンタ、モビリティ、生体デバイスなどで、複数の機能を両立する材料として実用化が進むことが期待されます。精密な積層造形技術の成熟と、機械学習を活用した設計の最適化が進めば、フラクタル材料の活用先はさらに広がると考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 池田 龍 博士(理学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「フラクタル材料」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。

本件レポートを
ダウンロードできます その他、未来の成長領域
136に関わるレポートも販売中
ダウンロードはこちら

『2080年への未来地図』
好評発売中

ベストセラー『2060 未来創造の白地図』の続編。未来の変化と、これからの可能性を描き出します。

特設ページを見る