バイオマイニング:未利用資源から重要鉱物を回収する生物利用技術 ~特許・論文・研究資金・スタートアップから読み解く技術トレンド~

バイオマイニング:未利用資源から重要鉱物を回収する生物利用技術 ~特許・論文・研究資金・スタートアップから読み解く技術トレンド~

著者:アスタミューゼ株式会社 中曽根 大輝 博士(理学)

バイオマイニングとは

近年、脱炭素化や電動化、AIやデータセンターの拡大を背景に、銅、リチウム、ニッケル、コバルト、レアアースなどの重要鉱物の需要が拡大しており、その安定的な確保が世界的な課題となっています。国際エネルギー機関(IEA)は2026年、現在公表されている鉱山開発プロジェクトを織り込んでも、2035年には銅の供給が需要を約25%下回ると予測しています(注1)。

注1: IEA, “Global Critical Minerals Outlook 2026 – Executive summary,” 2026.
https://www.iea.org/reports/global-critical-minerals-outlook-2026/executive-summary

こうした需要増に対応するには供給の拡大が必要ですが、新規鉱山の開発には長い期間を要するうえ、既存鉱山では鉱石品位の低下も進んでいます。鉱石中の金属含有率が低くなるほど、同じ量の金属を得るためにより多くの鉱石を採掘し、処理する必要があり、エネルギーや薬剤の使用量、コスト、環境負荷も増加します。そのため、重要鉱物の供給力を高めるには、新たな鉱山を開発するだけでなく、これまで資源として十分に利用されてこなかったものを新たな供給源として活用することが重要になります。低品位鉱や尾鉱、鉱山廃棄物、使用済み製品などから有価金属を回収できれば、利用可能な資源の範囲そのものを広げることができます。

そこで注目されているのが、微生物や微生物由来の物質を利用して、鉱石や廃棄物から金属を回収する「バイオマイニング(biomining)」です。バイオマイニングの対象には、低品位鉱(有用な金属や鉱物の含有量が少ない鉱石)や鉱山尾鉱(鉱石から有価部分を選鉱したあとに残る残渣)のほか、鉱山廃水、電子廃棄物、使用済みリチウムイオン電池、廃触媒、赤泥、焼却灰などがあります。金属をふくみながら、品位や組成、処理コストなどの問題から利用されてこなかった原料を、新たな金属供給源へ変える技術として期待されています。

微生物の培養、曝気(水や排水などの液体に空気を送り込み、酸素を供給する処理)、温度やpHの調整には、一定のエネルギーや薬剤が必要です。一方、高温で鉱石を溶かす乾式製錬と比べると、バイオマイニングは比較的温和な条件で処理できます。このため、対象原料と工程の組み合わせによっては、従来法では採算の合わなかった低品位鉱や廃棄物から、エネルギーや薬剤の投入量を抑えて金属を回収できる可能性があります。

バイオマイニングは単一の技術ではありません。鉱石や廃棄物から金属を回収する工程のうち、どの段階に生物機能を組み込むかによって、次のように整理できます。

  1. 鉱物の選別工程:バイオフロテーション(Bioflotation)
    微生物の細胞表面の特性(疎水性や親水性)や代謝産物を利用し、従来の浮遊選鉱(フロテーション)における鉱物の分離精度を向上させる技術
  2. 金属の溶出工程:バイオリーチング(Bioleaching)
    微生物が生命活動の過程で生成・再生する酸や酸化剤、錯化剤を利用し、不溶性の鉱石や廃棄物にふくまれる目的金属を溶液中に溶かし出す(浸出する)技術
  3. 難処理鉱石の前処理工程:バイオ酸化(Biooxidation)
    金を代表とする貴金属の回収において、目的金属を包み込んでいる硫化鉱物マトリクス(基質)を微生物によって選択的に酸化・分解し、後段の化学抽出(シアン浸出など)の効率を高める前処理技術
  4. 液中からの金属回収工程:バイオソープション(Biosorption)、バイオ沈殿(Bioprecipitation)、生物電気化学系(Bioelectrochemical Systems:BES)
    溶液中に溶け出した金属イオンを、微生物の細胞や代謝産物、電気化学的な代謝プロセスを利用して濃縮、分離、回収する技術

本レポートでは、微生物や微生物由来分子を利用して金属を回収するバイオマイニングに焦点を当て、アスタミューゼ独自のデータベースから抽出したグラント、論文、特許、スタートアップ企業の情報をもとに、技術開発と市場形成の動向を分析しました。

バイオマイニングに関する特許の動向分析

アスタミューゼが保有する特許データベースから、要旨に「バイオマイニング」「バイオリーチング」「バイオフロテーション」などの技術用語をふくむ特許を検索したところ、2,072件が抽出されました。出願国・地域別の年次推移を図1にしめします。

図1:バイオマイニング関連特許の出願国・地域別件数推移(2015~2025年)

出願国の割合に注目すると、中国からの出願は1,043件と、母集団の約半数を占めていました。中国では中南大学、清華大学、中国科学院過程工程研究所など、大学や公的研究機関による出願が多く、特定の企業ではなく複数の研究機関に分散しています。中国の件数は、鉱物処理や環境技術に関する幅広い研究基盤が国内出願へ結びついた結果と考えられます。

一方、企業による出願では、オーストラリアおよびアメリカのRio Tinto Group、アメリカのJetti Resources社とLocus Solutions社、ニュージーランドのMint Innovation社、ドイツのBASF社、イギリスのAnglo American社などが存在感をしめしていました。

また、日本からの出願は45件で、母集団の2.2%を占めています。出願人には、株式会社ガルデリア23件、JX金属22件、芝浦工業大学20件、住友金属鉱山17件、九州大学12件、IHI 10件と、非鉄製錬企業や大学が並びます。特徴は共同出願の多さで、芝浦工業大学とJX金属は金属結合ペプチドを、九州大学と住友金属鉱山は難処理鉱石の前処理と浸出を、それぞれ連名で出願しています。

以上のことから、出願構造は3つにわけられます。中国では大学や公的研究機関を中心に幅広く権利化され、欧米やオセアニアでは鉱山操業や金属回収プロセスを事業化する企業が集中的に権利化し、日本では非鉄製錬企業と大学の共同出願が中心になっています。なお、後述するスタートアップのうち、この母集団に出願があらわれるのはMint Innovation社、株式会社ガルデリア、Cemvita社、Brokkr Mineral Resources社、BiotaTec社、Allonnia社の6社にとどまり、大半は1件もあらわれません。バイオマイニング関連の特許は鉱山操業企業や大学、公的研究機関が中心に押さえており、新興企業の多くは権利化以外の手段で参入していることがうかがえます(注2)。

注2:特許は公開まで原則18か月を要するため、近年設立された企業の出願は未反映の可能性があります。

次に、文献にふくまれるキーワードの年次推移から、近年進展がみられる技術要素を特定する「未来推定」分析を実施しました。これは、キーワードの変遷を追うことで、すでにブームが去った技術や今後注目されると予測される技術を定量的に評価し、各技術要素の成熟度(黎明・萌芽・成長・実装)を予測する分析手法です。

図2に、2015年以降に出願されたバイオマイニング関連特許のキーワードの年次推移をしめします。

図2:バイオマイニングに関連する特許に含まれるキーワードの年次推移(2015~2024年)

なお、キーワードごとの成長率(growth)は、2015年以降の文献中における出現回数と、2021年以降の文献中における出現回数の比で定義され、値が1に近いキーワードほど直近での出現頻度が高いといえます。近年増加傾向にあるキーワードを分析すると、技術の深化と応用の広がりが鮮明に見てとれます。

近年の特許では、「pre-leaching」「biolixiviant」「iron-sequestering」「lanmodulin」など、金属回収工程へ組み込む生物機能に関連したキーワードの出現頻度が増し、権利化が進んでいることがわかります。具体的には、浸出前処理剤、微生物が生産する浸出剤、複数の機能を分担する微生物群、希土類結合タンパク質などが該当します。菌株の培養条件だけでなく、生物機能を組成物や回収材料、処理工程として保護し、既存の鉱物処理工程へ導入できる技術単位として押さえる動きが表れています。

以下、代表的な特許事例を紹介します。

  • WO2022182599A1「SYSTEMS AND METHODS FOR EXTRACTING RARE EARTH ELEMENTS WITH ENGINEERED MICROORGANISMS」
    • 出願組織:Cornell University
    • 国:アメリカ
    • 公開年:2022年
    • 概要:希土類元素の浸出性能を高める遺伝子改変を導入した微生物と、その微生物が生産するバイオリキシビアントを利用する技術。微生物が生産した浸出液を分離して使用できるため、微生物の生育条件と金属浸出工程を切り分けたプロセスを構築できる。
  • WO2023141456A1「BIO-LEACHING COMPOSITIONS AND METHODS FOR MINING METALS」
    • 出願組織:Locus Solutions IPCo, LLC
    • 国:アメリカ
    • 公開年:2023年
    • 概要:ソホロリピッド系バイオサーファクタントと、酸、酸化剤または微生物由来の金属可溶化剤を組み合わせた浸出技術。浸出前処理によって鉱物表面や不純物の状態を変化させ、後段の金属浸出速度と処理量を高める。
  • WO2019078735A1「A PROCESS FOR RECOVERING METAL FROM ELECTRONIC WASTE」
    • 機関/企業:Mint Innovation Limited
    • 国:ニュージーランド
    • 公開年:2019年
    • 概要:電子廃棄物を粉砕して浸出剤で金属を溶かした後、浸出液へ微生物由来バイオマスを投入し、金などの目的金属を選択的に吸着させる。金属を吸着したバイオマスを液から分離し、目的金属を回収する一連の工程を対象とする。Mint Innovationが展開する電子基板からの金属回収プロセスの中核に位置づけられる。

バイオマイニングに関する論文の動向分析

企業や研究機関が発表する論文は、研究開発段階にある技術を反映しており、特許と比較すると社会実装までに時間を要する中長期的な技術動向をしめします。特許分析と同様に、バイオマイニングに関連するキーワードを要旨にふくむ論文4,233件を抽出しました。著者所属国別の発表件数推移を図3にしめします。

図3:バイオマイニング関連論文の著者所属国別発表件数推移(2015~2026年)

論文でも中国からの報告件数が多いものの、特許ほどの集中はみられません。アメリカ、インド、ドイツ、ロシア、オーストラリア、イギリスなどにも研究が広がっています。鉱山国だけでなく、重要鉱物の輸入依存度が高い国や、電子廃棄物や電池のリサイクルを政策課題とする国でも研究が進められていることが見てとれます。

次に、特許と同様に「未来推定」分析を実施しました。図4に、2015年以降のバイオマイニング関連論文にふくまれるキーワードの年次推移をしめします。

図4:バイオマイニング関連論文にふくまれるキーワードの年次推移(2015~2025年)

論文では、希土類の選択性と実用条件での処理性能が研究の中心になっています。ランモジュリンに関する研究では、化学的性質の近い希土類をどこまで個別に識別できるかが検証されています。電子廃棄物や使用済み電池では、高い固液比、金属毒性、反応時間が研究対象になっています。研究課題は「微生物で金属を回収できるか」という機能実証から、「選択性、処理量、速度を実用水準まで高められるか」へ移っています。

最も明確な変化は、希土類に選択的に結合するタンパク質であるランモジュリンに関する研究の増加です。「lanmodulin」の出現数は2024年の9件から2025年には29件へ増加しました。「ree-binding」「ree-biosorption」「hansschlegelia」「methylorubrum」など、希土類の認識や吸着、細胞内取り込みに関係するキーワードも出現しています。希土類は、固体から浸出した後の分離・精製が難しい金属です。ネオジム、プラセオジム、ランタンなどは化学的性質が近く、浸出液から個別元素へ分離する工程が複雑になります。研究の重点は「希土類を溶かせるか」から、「共存する希土類を選択的に分けられるか」へ移っています。

もう一つの上昇領域が、電子廃棄物と使用済みリチウムイオン電池です。これらは複数の有価金属をふくむ一方、樹脂や電解質、重金属などが混在し、微生物の働きを阻害します。そのため、高い固液比での処理、金属毒性への耐性、浸出後の液からの選択回収が研究課題になっています。

以下、代表的な論文事例を紹介します。

  • A family portrait of lanmodulin selectivity for enhanced rare-earth separations
    • 雑誌名:Nature Chemical Biology
    • DOI:10.1038/s41589-026-02176-3
    • 出版年:2026年
    • 機関名:Lawrence Livermore National Laboratory、Pennsylvania State University(アメリカ)
    • 概要:621種類のランモジュリンと15種類の希土類の組み合わせを網羅的に評価。ランタンからプラセオジムを一段で純度99.9 mol%超、収率83%で分離できる候補を見いだした。希土類結合タンパク質の探索を、少数候補の個別評価から大規模スクリーニングへ移行させた研究。
  • Lanmodulin-Decorated Microbes for Efficient Lanthanide Recovery
    • 雑誌名:Advanced Materials
    • DOI:10.1002/adma.202412607
    • 出版年:2025年
    • 機関名:Massachusetts Institute of Technology(アメリカ)
    • 概要:大腸菌の表面にランモジュリンを発現させ、凍結乾燥した菌体を希土類吸着材として利用。競合イオンが100倍存在する条件でも80%を超える回収率を示し、10回の吸脱着後も利用できることを確認した。
  • Indigenous bioleaching strain enables efficient leaching of lithium, nickel, cobalt, and manganese from spent lithium-ion battery
    • 雑誌名:Minerals Engineering
    • DOI:10.1016/j.mineng.2026.110261
    • 出版年:2026年
    • 機関名:全北大学校、群山大学校、国立生物資源館、国立環境科学院(韓国)
    • 概要:Acidithiobacillus ferriphilusをもちい、パルプ密度100 g/Lの条件で24時間以内にリチウム77%、ニッケル47%、コバルト53%、マンガン87%を浸出した。バイオリーチングの実用化を妨げる高固液比条件での金属毒性と反応速度に取りくんだ研究。

バイオマイニングに関するグラントの動向

続いて、グラント(競争的研究資金)の近年の配賦動向を分析します。企業や研究機関に賦与されるグラントは研究計画段階にあり、特許や論文と比較して、社会実装までにより長い時間を要する技術と考えられます。特許や論文の分析と同様に、バイオマイニングに関連する特徴的なキーワードをふくむグラント141件を抽出しました。図5は、各年に実施中のグラント件数と、確認できた採択総額を実施期間で均等に配分した年次配賦額をしめします。

グラントの実施期間が複数年度にまたがる場合は、資金配賦額をプロジェクトの実施年に応じて各年へ均等に配賦しました。件数も同様に年ごとに集計しています。

図5:バイオマイニング関連グラントの国別件数と年次配賦額(2015~2026年)

図5でしめすように2018年に実施中だった64件のうち、中国が33件を占めています。2018年前後までに開始された中国の研究プロジェクトが順次終了する一方、それを置き換える規模の新規案件が確認されなかったことが、その後の全体件数の減少につながっています。

一方、年次配賦額は2021年以降に増加しています。件数が減りながら金額が増えたのは、個別の菌株や反応機構をあつかう小規模研究に代わって、微生物の探索・設計から浸出、選択分離、パイロット実証、環境・経済性評価までを一体化した大型プログラムが、イギリス、アメリカ、EUで立ち上がったためです。対象も、鉱山廃棄物や低品位鉱、電子廃棄物などからの重要鉱物回収に重点が置かれており、供給網の強靱化やサーキュラーエコノミーを目的とした社会実装が資金配分を主導しています。

以下に、年次配賦額の増加に対する寄与が大きいグラント事例を紹介します。

  • ELEMENTAL: Engineering Biology Hub for environmental processing and recovery of metals; from contaminated land to industrial biotechnology in a circular economy
    • 機関:University of Kent主導・9機関
    • グラント名/国:UKRI・BBSRC/イギリス
    • 採択年:2024年~2029年
    • 資金賦与額:約15.8百万米ドル
    • 概要:UKRIが2024年2月に発表した6つのEngineering Biology Mission Hubの一つで、金属回収を主題とする唯一のハブ。バイオリーチング、バイオ回収、バイオプロセッシング/産業バイオテクノロジー、バイオセンシング、バイオレメディエーション、金属のサーキュラーエコノミーという6テーマ構成をとり、鉱物採取、都市鉱山、産業廃棄物、核関連(放射性核種)廃棄物という組成も規制も異なる4種類の原料を同一の技術基盤で扱う点に特徴がある。微生物によるバイオリーチングに加え、金属を集積する植物を用いるファイトマイニングも対象に含む。英国が金属回収を工学的生物学の重点応用分野として制度的に位置付けたことを示す事例といえる。
  • EMBER: Environmental Microbes as a BioEngineering Resource
    • 機関:Lawrence Livermore National Laboratory主導・他2チーム
    • グラント名/国:DARPA/アメリカ
    • 採択年:2022年~2026年(第3フェーズ非公開)
    • 資金賦与額:約8.7百万米ドル(第3フェーズ非公開)
    • 概要:希土類の存在量ではなく、分離・精製工程の海外依存を国防サプライチェーン上の脆弱性として捉えたプログラム。対象原料はリン鉱山廃棄物、鉱山廃水、電子機器リサイクル残渣といった未利用の国内資源に限定されている。希土類を生育に必要とする環境微生物が進化させた取り込み機構と酵素を出発点に、微生物・生体分子の選択性を工学的に高め、分離から精製、製造可能な形態への変換までを一連の工程として構築する。第1フェーズで微生物・生体分子の開発、第2フェーズで実原料を用いた効率改善、第3フェーズでパイロット規模の実証と段階を分け、選択性とスケールの両立を検証する設計をとる。
  • EFRI ELiS: Bacteria-Bacteriophage Hybrid System for Rare Earth Element Biomining
    • 機関:University of California, Berkeley
    • グラント名/国:NSF EFRI-ELiS/アメリカ
    • 採択年:2022年~2026年
    • 資金賦与額:約2.0百万米ドル
    • 概要:細菌による浸出と、バクテリオファージによる分離・濃縮を一つの工学的生命システムとして統合する。分離側では、M13バクテリオファージの主要外殻タンパク質にランタニド結合ペプチドを組み込み、1粒子あたり約3,300コピーのペプチドを提示する生体テンプレートを構築。pH変化により希土類の吸着と放出を制御でき、軽希土類より重希土類に選択的に結合することを示した。さらに感温性のエラスチン様ペプチドを共提示し、温度変化で相分離させて回収する構成も報告されている。希土類結合分子を材料としてではなく、自己複製するファージという生産系ごと設計している点が特徴。
  • OPTIMINER: Pioneering Sustainable CRM Recovery in European Mining
    • 機関:ICCS(ギリシャ)主導・22機関
    • グラント名/地域:Horizon Europe/EU
    • 採択年:2025年~2028年
    • 資金賦与額:約8.2百万米ドル
    • 概要:低品位・複雑鉱からの重要原材料回収を、単一技術ではなく5つの成果単位に分解して同時に開発。回収技術群にはスマート選鉱ソーター、膜ベース湿式処理、バイオリーチング、ファイトマイニングが含まれ、AIによる回収技術セレクタを介して鉱山側が選択できる形で提供。あわせてデジタルツインによる工程監視、エネルギー・水・廃棄物とLCAの管理、市場動向監視、実証を並行して進める。実証はスペイン、ギリシャ、ポーランド、フィンランド、チリの6ユースケースで行われ、対象はマグネシウム、タングステン、希土類(特にネオジム)、銅、コバルト、原料炭。バイオリーチングを単独技術ではなく、鉱山ごとの条件に応じて選択できる回収技術群の一つとして組み込んでいる点が特徴。
  • XTRACT: A Sustainable Ecosystem for the Innovative Resource Recovery and Complex Ore Extraction
    • 機関:Technische Universität Bergakademie Freiberg(ドイツ)主導・9カ国14機関
    • グラント名/地域:Horizon Europe/EU
    • 採択年:2023年~2027年
    • 資金賦与額:約5.4百万米ドル
    • 概要:採算性が低く従来は利用されなかった低品位鉱、尾鉱、鉱山廃棄物を対象に、排出ゼロ鉱山の概念実証をおこなう。技術は三層で構成される。第一に、UAV搭載センサやミューオン利用の孔内探知装置、掘削同時計測により、到達困難な鉱体や廃棄物堆積場を遠隔評価する層。第二に、原位置バイオリーチングと膜処理を組み合わせ、微生物活性と触媒生成を最適化して金属を選択的に溶出・回収する層。第三に、金属集積植物をもちいるファイトマイニングの層。検証はドイツ、ポルトガル、スウェーデン、ギリシャの4カ国・4パイロットサイトで実施し、採掘そのものを縮小して精密採掘に置き換える構想のもとで、バイオリーチングが低TRLの環境技術として位置づけられている。
  • ENICON: Sustainable processing of Europe’s low-grade sulphidic and lateritic nickel/cobalt ores and tailings into battery-grade metals
    • 機関:KU Leuven(ベルギー)主導・8機関
    • グラント名/地域:Horizon Europe/EU
    • 採択年:2022年~2026年
    • 資金賦与額:約6.3百万米ドル
    • 概要:欧州域内の低品位ニッケル・コバルト資源(硫化鉱、ニッケル/コバルトを含む黄鉄鉱・ケイ酸塩系尾鉱、ラテライト鉱)を電池グレード金属まで精製する一貫フローシートの構築を目的とする。技術的中核は塩酸ベースの新規湿式ルートで、金属を繰り返し沈殿・再溶解させる従来型の湿式法を回避することで薬剤消費と有害廃液の発生を抑える。バイオリーチングは主工程ではなく、コバルトに富む黄鉄鉱尾鉱から混合硫化物・水酸化物沈殿を得る前段の供給源として位置付けられ、その中間産物が塩酸ルートの入口原料の一つとなる。加えて、鉱物学的・組織学的要因まで遡って処理ロスの原因を特定する手法と、残渣マトリクスの有価化プロセスを開発し、既存法との環境・技術経済性比較まで実施する。
  • RAWMINA: Integrated innovative pilot system for Critical Raw Materials recovery from mines wastes in a circular economy context
    • 機関:LEITAT主導・10カ国19機関
    • グラント名/地域:Horizon 2020/EU
    • 採択年:2021年~2025年
    • 資金賦与額:約10.8百万米ドル
    • 概要:鉱山廃棄物からアンチモン、コバルト、ゲルマニウム、タングステンを回収する統合パイロットシステムを、産業実証レベル(TRL7)まで引き上げた事業。工程は、連続バイオリーチングによる溶出、磁気分離による鉄除去(鉄分は副産物として回収)、ナノ繊維複合材・熱脱着・電解採取・電気凝集を組み合わせた選択回収という順で構成。目標値として重要原材料4元素で回収率95%・選択率95%、金・銀・鉄系副産物で回収率80〜90%・選択率95%、水の90%再利用、廃棄物処理量100〜150 kg/日を掲げ、エンドツーエンドの管理システムによる連続運転制御を含む。

バイオマイニングに関連するスタートアップの動向分析

最後に、スタートアップの近年の動向を分析します。スタートアップに関する情報からは、論文や特許、グラントで開発された技術が、どの工程を対象とする製品やサービスとして事業化されているかを確認できます。バイオマイニングに関連するスタートアップ26社を抽出し、設立国、設立年、対象金属、技術を導入する工程、事業内容を整理しました。

図6:バイオマイニング関連スタートアップ一覧

分析対象26社のうち21社は2020年以降に設立されています。国別ではアメリカが9社と最も多いものの、アルゼンチン、カナダ、イギリス、ドイツ、中国が各2社、エストニア、オーストリア、デンマーク、ニュージーランド、シンガポール、日本が各1社と、12カ国に分布しています。バイオマイニングの事業化が、鉱山会社の集積地だけでなく、合成生物学やタンパク質工学、廃棄物処理などの技術基盤を持つ地域でも進んでいることがわかります。

工程別では、15社がバイオリーチングなどの溶出工程を、2社が溶出と回収の両工程を対象としています。両者を合わせると、26社のうち17社が金属や不純物の溶出に関わる技術を開発しています。ほかに、選別工程が1社、溶出後の分離・回収工程が7社、微生物の選定を支援する企業が1社あります。

溶出工程に企業が集中する背景には、既存の鉱山設備へ技術を追加しやすいという事業上の特徴があります。鉱山全体を新たに建設するのではなく、既存のヒープリーチング設備や湿式処理設備に微生物や培養液、添加剤などを投入し、回収率の向上や不純物の低減を図る事業モデルです。一方、鉱石の組成や粒径、温度、pH、共存元素は鉱山ごとに異なります。おなじ微生物や処理条件をすべての鉱石へ適用することは難しいため、対象鉱石をもちいた試験、微生物群の選定、培養条件や添加量の調整が必要になります。Endolith社、1849 Bio社、Transition Metal Solutions社などは、鉱山ごとの条件に合わせて微生物群や運転条件を設計し、既存設備へ導入する事業を展開しています。

分離・回収工程では、金属結合タンパク質や生物由来吸着材をもちいて、複数の金属をふくむ溶液から目的金属を選択的に捕捉する技術が開発されています。この領域では、微生物を設備内で継続的に培養する必要がなく、タンパク質や吸着材を既存の分離カラムへ導入できる点が事業化上の特徴です。7社の対象金属は3つに分かれます。希土類を対象とするのがAlta Resource Technologies社、LanthaGen Bio社、AlkaLi Labs社、電池金属(リチウム、ニッケル、コバルト)を対象とするのがMagmatic Bio社、MicroMiner社、貴金属を対象とするのがMint Innovation社、ガルデリアです。貴金属をあつかう2社は、いずれも溶出には生物を使わず、回収工程にのみ生物をもちいる構成をとっています。この2社は、26社のなかで商業規模の設備をすでに運転している企業でもあります。

天然鉱石を対象とする技術と、電子廃棄物や産業廃水を対象とする技術では、事業化までに必要な検証期間も異なります。天然鉱石は組成のばらつきが大きく、鉱山ごとに長期間の実証が必要です。一方、電子廃棄物や産業廃水は原料を集約しやすく、組成や処理条件を管理しやすいため、一定の回収量を確保できれば商業設備へ移行しやすいという特徴があります。

以上から、スタートアップでは、天然鉱石を対象とする企業が鉱山会社とのフィールド試験を進める一方、電子廃棄物を対象とする企業では商業規模の処理施設を建設する動きが確認できます。以下では、技術を導入する工程が異なり、パイロット試験や商業設備への展開を公開情報で確認できる企業の詳細を紹介します。

  • Allonnia
    • 国:アメリカ
    • 設立年:2020年
    • 対象金属:ニッケル、銅、モリブデン、リチウム、希土類
    • 概要:微生物由来の選択的溶解液D-Solveをもちい、鉱石や精鉱から脈石と不純物を除去する前処理技術を開発。既存の選鉱・製錬工程へ追加する方式であり、目的金属の損失を抑えながら、後段工程へ送る原料の品質を高める。カナダ・オンタリオ州のSGS Lakefieldで実施した5日間の連続実証では、マグネシウム系不純物を40%削減し、ニッケル品位を18%向上。2025年12月からは、北米で稼働中のニッケル鉱山であるEagle Mineへ移動式ユニットを設置し、日量1〜2トンの連続処理による現地検証を開始している。
  • Endolith
    • 国:アメリカ
    • 設立年:2023年
    • 対象金属:銅、リチウム、希土類
    • 概要:微生物群、合成生物学、鉱石の分析データを組み合わせ、既存の浸出工程における金属回収率を改善する技術を開発。BHPのプログラム(世界最大の資源・鉱業会社である豪州のBHPグループが実施する気候変動対策プログラム)を通じて鉱石をもちいた試験を進め、2025年にはフィールド実証への移行を目的としたシード/シリーズAラウンドを実施しました。天然鉱石を対象とするバイオマイニング企業が、研究室試験から鉱山での実証へ移る事例。
  • Mint Innovation
    • 国:ニュージーランド
    • 設立年:2016年
    • 対象金属:金、銅など
    • 概要:電子廃棄物を化学的に浸出した後、微生物バイオマスへ金などを吸着させて回収するプロセスを開発。2022年にオーストラリア・シドニーで商業規模のバイオリファイナリーを開設し、アメリカ・テキサス州Longviewでは2027年の稼働開始を予定する処理施設を計画している。組成を管理しやすく、都市部で回収できる電子廃棄物を対象とすることで、鉱山向け技術に先行して商業設備へ展開している。

バイオマイニングに関する技術動向のまとめ

データソースごとに、技術が現れる時期は異なります。グラントは研究計画の段階、論文は研究開発の段階、特許は社会実装に近い段階、スタートアップは事業化の段階をそれぞれ映します。4つを統合して俯瞰することで、バイオマイニング領域の中で何が成熟し、何がこれから立ち上がるのかを分けて捉えられます。

特許では、銅と金を対象とする従来型の技術が実装技術として維持されたまま、その上に新しい層が積み上がっています。「bio-heap」「Acidithiobacillus caldus」「thermophilic」「acidophilic」といった用語は2015年以降を通じて継続的に出現する一方、「pre-leaching」「biolixiviant」「iron-sequestering」「lanmodulin」は2022年から2023年に集中して現れました。権利化の単位も、菌株の培養条件ではなく、浸出前処理剤、微生物が生産する浸出剤、機能を分担する微生物群、希土類結合タンパク質といった組成物や回収材料、処理工程へ移っています。

論文では、研究の重点が機能実証から実用条件の達成へ移っています。希土類に選択的に結合するタンパク質「lanmodulin」の出現数は2024年の9件から2025年の29件へ増え、「ree-binding」「ree-biosorption」「hansschlegelia」「methylorubrum」といった認識や吸着、細胞内取り込みに関わる語も現れました。電子廃棄物や使用済みリチウムイオン電池では、高い固液比、金属毒性、反応時間が研究対象になっています。問われているのは「微生物で金属を回収できるか」ではなく、「選択性、処理量、速度を実用水準まで高められるか」です。

グラントでは、資金の単位が大型化しています。個別の菌株や反応機構をあつかう小規模研究に代わって、微生物設計から浸出、選択分離、パイロット実証、事業化評価までを一体化したプログラムがイギリス、アメリカ、EUで開始され、件数が減少するなかで少数の大型案件が配賦額を押し上げる構図になりました。対象も、鉱山廃棄物や低品位鉱、電子廃棄物からの重要鉱物回収に重点が置かれています。

スタートアップでは、事業化の対象が工程単位に細分化しています。26社のうち21社が2020年以降の設立で、17社が溶出工程、7社が溶出後の分離・回収工程を対象としています。溶出側は既存のヒープリーチング設備や湿式処理設備へ微生物や添加剤を投入する形をとり、分離・回収側は金属結合タンパク質や生物由来吸着材を既存の分離カラムへ組み込む形をとります。分離・回収を担う企業は、2016年設立のMint Innovation社を除けばいずれも2022年以降の設立で、論文でランモジュリン関連の語が増えた時期と重なります。

特許、論文、グラント、スタートアップの動向を重ねると、バイオマイニングには成熟度の異なる三つの層があることがわかります。銅・金は商業運転後の性能を検証する段階、電子廃棄物や使用済み電池などの二次資源は商業設備が立ち上がり始めた段階、希土類の選択分離は研究開発と市場形成が同時に進む段階です。

一方、事業の形には共通点があります。設備を新設するのではなく、微生物や培養液、添加剤、金属結合タンパク質、吸着材を既存工程へ追加し、顧客の原料に合わせて運転条件を設計する形です。鉱石や廃棄物の組成は案件ごとに異なるため、標準化された単一製品よりも、材料の継続供給と個別の試験・工程設計を組み合わせた事業が中心になると考えられます。

この事業モデルでは、実験室における最大回収率だけでは採用につながりません。大量処理時の反応速度、金属毒性への耐性、長期運転時の微生物の安定性、共存元素下での選択性、回収物の純度、生体材料の再利用性、既存工程を含む総コストを一体として示す必要があります。研究資金が個別の菌株研究からパイロット実証を含む統合型プログラムへ移っていることも、競争の中心が要素技術からプロセス全体へ移ったことを示しています。

こうした市場構造と競争軸を踏まえると、日本は、金属耐性や浸出能力を持つ菌株を探索する上流と、浸出液から目的金属を取り出す回収・分離の下流に技術を蓄積しています。芝浦工業大学とJX金属による金属結合ペプチド、株式会社ガルデリアによる微生物バイオマスをもちいた貴金属回収は、その代表例です。ガルデリアはNEDOのディープテック・スタートアップ支援を受けて吸着剤の量産体制を整えるとともに、三井金属鉱業の竹原製煉所ではボイラー排ガスを利用した培養試験を実施しており、研究成果を既存の製錬工程へ接続する段階に進んでいます。

今後は、こうした個別技術を、菌株の選定、浸出、選択分離、精製までをふくむ一連の工程として組み合わせることが重要になります。日本には非鉄製錬企業の湿式処理・精製技術と、都市鉱山をふくむリサイクル網があります。この既存基盤を活用できる二次資源や希土類分離は、日本がバイオマイニングを事業化するうえで有力な対象です。大学や研究機関が持つ菌株と金属結合分子、スタートアップの培養・回収技術、非鉄製錬企業の設備を接続し、実原料をもちいた連続処理へ展開できるかが次の焦点になります。

バイオマイニングは、従来の製錬技術を全面的に置き換えるものではありません。既存工程では採算が合わなかった原料を処理できるようにし、回収率や選択性、原料の適用範囲を広げる補完技術です。日本にとっては、新たな鉱山開発を前提とするよりも、既存の製錬所とリサイクル網へ生物機能を組み込むことが、強みを事業へつなげる余地が大きいと考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 中曽根 大輝 博士(理学)

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