TechLetters001:注目集まる緑の水素! – 水素製造に関わるグラントと特許件数から見た技術開発の動向 –

Astamuse TechLetters 第1回

はじめに

2022年4月7日にウェビナー「水素領域における課題や課題解決に挑むプレイヤーを学ぶ ~水素ビジネス入門編~」を弊社アスタミューゼで開催いたしました(実際のウェビナーは本レポート末尾に動画として掲載しております)。

参加された方からのご質問・ご希望で多かったのは、以下の2点です。

  • 海外を含む水素関連の技術情報の提供 
  • 各種規制や標準化の動きと技術開発動向の関連 

 このレポートでは、水素をめぐる技術動向のうち、とくに水素の製造技術について解説します。水素は「どのように作られたか」によって、カーボンニュートラルへの貢献度が異なります。

例えば、生成時に二酸化炭素を排出する水素の利用は認められない、と規定される可能性は無視できないと考えられます。

その水素は何色ですか?

次世代のエネルギー源として期待の大きい水素ですが、その製法によって「グリーン」、「ブルー」、「グレー」の色分けがされています。

「グリーン水素」は太陽光、風力などの再生可能エネルギーによって製造されるもの。「ブルー水素」と「グレー水素」は、化石燃料を燃やして、そのガスから水素を取り出すものです。

そして、水素を取り出したあとのガスから二酸化炭素を回収できれば「ブルー」、そのまま放出してしまえば「グレー」となります。つまり「グレー水素」の利用は二酸化炭素排出削減には貢献できません。

現在、工業原料や燃料電池に使われている水素のほとんどがグレー水素となっています。そして、川崎重工、岩谷産業、電源開発(J-POWER)、丸紅などの事業者は、オーストラリアで褐炭(水分や不純物の多い低品位な石炭)から水素を生成し、その過程で生じる二酸化炭素を地中に貯留してブルー水素とするプロジェクトを進めています。 

今回の分析にあたって、アスタミューゼが保有する世界最大級(注)の無形資産可視化データベースから、水素製造にかかわる大学・研究機関向けの研究予算(グラント)と特許を抽出しました。

グラントをデータとして分析すると、将来有望な技術領域 / 研究テーマを見いだせるほか、ビジネスの点では研究・開発を共同で行えるプレイヤー(大学・研究機関)を探すこともできます。 

(注)193ヵ国 / 39言語に跨るデータを計7.0億件以上保有する世界最大級のデータベース。技術を中心とした無形資産や社会課題 / ニーズを探索できる。

水素製造に関わるグラントの配分額と特許出願数の推移

図1. 水素製造にかかわる研究予算(グラント)配分額と全世界の特許出願数の推移。
アスタミューゼの無形資産可視化データベースから作成。2010年を100とした比で示す。
2019年以降はデータベースに未登録のものが存在する。

図1は、水素製造にかかわるグラント配分額と全世界の特許出願数の増減を示しています。グラントを得たプロジェクトでは、一般に3年から5年以上の年月をかけて研究が進められていきます。

ここで見るべきは研究の進捗ではなく、その分野の研究を推進する決断がいつ行われたのか、という政策判断なので、プロジェクト開始年に注目しています。

2019年以降については、データベースに登録されるまでのタイムラグがあるので、図に示されるような大きな減少はないと考えられます。

日本のグラントは2011年、世界のグラントは2015年に配分額のピークを迎えていますが、特許出願は右肩上がりの傾向です。

特許は産業上利用できる発明であることが求められます。一方、グラントは、今後発展する、あるいは発展させるべき研究プロジェクトに対する資金供給と言えるので、特許よりも社会的な実装に距離があると考えられます。

つまり、水素製造に関しては、課題が研究段階から産業での活用段階に入りつつあると言えるでしょう。

多額の資金を獲得した水素製造プロジェクトは?

図2. 水素製造にかかわる研究予算(グラント)配分額上位10件。
緑色のセルはグリーン水素の製造に関連するプロジェクト。
アスタミューゼの無形資産可視化データベースから作成。 

図2は、多額の資金を獲得したプロジェクトをまとめたものです。上位10件のうち4件は、太陽光などの再生エネルギー(再エネ)の利用が明記された、いわゆる「グリーン水素」でした。

上位10件には入っていませんが、米国カリフォルニア大学バークレー校のNocera教授らは、自己修復する劣化しない触媒と正浸透膜(水は通すが塩分などのイオンは通さない膜)を用いた水分解システムを開発しました。これは海水などの不純物の多い水も利用できる水素製造法であり、2018年から3年間のプロジェクトで154万米ドルの研究資金を得ています。

彼らは、2009年の学術雑誌にて「パーソナライズド・エナジー構想」を早くに発表しており、例えば、家の屋根に設置した太陽光発電パネルから、日中生産したエネルギーを水電解によりグリーン水素として貯蔵し、燃料電池によって必要なときに取り出す、エネルギーシステムを個人に帰属する構想を掲げています(図3)

図3. グリーン水素生成・利用の模式図。
ソーラーパネルから電解槽に電力を供給し、水素を生成。
夜間や曇天のときには水素を燃料電池に供給して家庭用電源として用いる。 
出典: MIT Technology Review 
https://www.technologyreview.com/2008/10/20/268606/sun-water-fuel-2/ 

ここで水素を海水から取り出せると、無尽蔵の太陽エネルギーとの組み合わせから究極の分散型電力システムとなるでしょう。

太陽光や風力といった再エネは、自然条件によって出力が変動するため、発電量が需要を上回ることがあります。水素の製造は利用可能な電力量に応じて行えるので、グリーン水素は、再エネを蓄える、蓄電池と同じ役割を果たすといえます。グリーン水素は再生エネルギーを無駄にしないための技術でもあるのです。 

さらにくわしい分析は……

なお、アスタミューゼでは、水素システム・インフラ(製造 / 貯蔵 / 輸送)領域について、脱炭素視点でのリスクと機会を分析するとともに、技術的視点を織り込んだ中長期的な(2030年 / 2050年)市場の展望の考察、さらに有望視されるプレイヤーを示すレポートを提供しています。

今回お示ししたグラントと特許の他に、ベンチャー企業への投資データも用いていて、これらのデータを組み合わせて、対象領域において起こり得る中長期的な変化を俯瞰的 / 客観的に可視化しています。お問い合わせはこちらへお願いします。

また、2022年4月7日には「水素領域における課題や課題解決に挑むプレイヤーを学ぶ 〜水素ビジネス入門編〜」と第したウェビナーを開催しました。

水素ビジネスにおける課題や、水素技術が脱炭素社会の実現にどのくらいのインパクトを与えられるポテンシャルがあるか、そこにはどんなプレイヤーがいるかなど、水素領域の全体感をお伝えする入門編です。

無料セミナーは随時行なっております。案内をご希望される方はこちらの問い合わせフォームからメールアドレス等をご記入いただければ次回開催時にご案内させていただきます。レポート更新のタイミングも併せてお知らせします。

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