アスタミューゼ×ベイン・アンド・カンパニー データで読み解く脱炭素 第4回 技術領域別炭素削減インパクトランキングと有望な技術のご紹介

この度、データ解析企業のアスタミューゼと戦略コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーが共同で日本企業におけるESGに関する論文を発表することにいたしました。本稿はその4回目として、アスタミューゼの「企業別炭素削減インパクトランキング」の中から、技術領域別ランキングの発表と共に、有望な個別技術の状況とその分野で強みを持つ日本企業についてご紹介いたします。

1. 本稿での分析全体像

前回リリース(第3回 炭素削減インパクトランキングと脱炭素先進事例のご紹介)では、炭素削減インパクトスコアグローバル総合ランキングを発表致しました。総合ランキングは、企業別での炭素削減インパクトを俯瞰的に把握する上では有用ですが、個別企業の強みが活きる炭素削減用途を精緻に評価する上では、炭素削減技術を一定の粒度で区分した上で、区分した技術毎での企業の炭素削減インパクト評価が必要となります。アスタミューゼでは、こうした課題意識を踏まえ、炭素削減技術を38に分類・整理しており、個別技術毎に企業の技術・特許競争力を評価しています。

本稿では、38の技術(以下図表参照)のうち、①2030年時点での炭素削減ポテンシャルが高い技術、②2030年以降2050年までの同ポテンシャルの増加分が大きい技術、という2つの観点から選定した以下2つの技術について、技術別の炭素削減インパクトスコア1)グローバル企業ランキングを提示するとともに、ランキングの背景にある市場および技術動向を深掘り分析していきます。

①2030年時点での炭素削減ポテンシャルが高い技術:太陽光発電
②2030年以降2050年までの同ポテンシャルの増加分が大きい技術:CO2吸収/吸着/分離素材

(参考)炭素削減技術別の年別削減ポテンシャル(前回リリースに掲載)

2. 2030年時点で有望な技術(太陽光発電)の深掘り

(1)市場・技術動向分析

2030年時点での有望技術の1つが太陽光発電2)です。太陽光発電は再生可能エネルギーである太陽光をエネルギー源とした発電手法であり、すでに世界の年間発電量の3%にあたる844TWh、日本の年間発電量の9%にあたる84TWhを賄っています。現在、世界的には太陽光発電の発電コストは化石燃料による発電コストに匹敵するほど低下しており、風力発電、地熱発電、水力発電などの他再生可能エネルギー源と比較し導入障壁が低い事もあり、今後も導入量の増加が見込まれます。IRENA(International Renewable Energy Agency) の分析によると、2030年時点での全世界の総発電容量は2018年時点の480GWの5.9倍にあたる2840GWになり、世界の総発電容量に占める太陽光発電容量の割合は現状の3%から約13%に増加すると予測されております。

太陽電池は太陽光を電力に変える仕組みで、現在大きくシリコン系、有機系、化合物系の3種類があります。技術が成熟しており、発電量あたりのコストが低いシリコン系太陽電池は、現在普及している太陽電池の95%以上を占めております。

今後、より高い発電効率、より長い耐久性、より柔軟な設置場所に対応するために技術革新が進み、その中でシリコン系の中での技術の置き換え、またシリコン系から有機・化学系への技術の置き換えが進むと考えられています。例えば、過去にもシリコン系では、多結晶シリコンからPERCに技術革新がすすみ変換効率が上昇し、PERCが広く普及しました。今後は裏面電極(バックコンタクト)、HJT、TOPConを駆使した発電効率が高いシリコン系太陽電池の普及が加速すると考えられています。

(2)炭素削減インパクトランキングと個別企業分析

2030年時点での太陽光/太陽熱発電における炭素削減ポテンシャルランキング

こうした先進的な太陽光発電に求められる特性に対応するため、各社で様々な技術開発がなされています。

アスタミューゼが分析した、太陽光発電における炭素削減インパクトスコアランキングでは、韓国のLGエレクトロニクスが首位となりました。同社は、現在主流であるシリコン系太陽電池で高い競争力を保有しており、激化するパネルの高出力化競争の中でも、銀色の配線を太陽電池セル裏面に形成する裏面電極(バックコンタクト)技術を活用し、セル表面を遮光する配線を除去することにより、セルの全面を発電に活用することでの高出力化を実現しています。

シリコン系と同じく期待されるのが有機系太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池と化合物系太陽電池のGaAs系太陽電池や、折り曲がる基板上で製造が可能なCIGS系太陽電池です。

中でも、有機系のペロブスカイト太陽電池は、アスタミューゼの分析によると2030年までに普及拡大が期待される技術であり、日本企業が技術的な強みを発揮している領域の1つです。例えば、パナソニック(炭素削減インパクトスコアランキング第3位)はガラスを基板とする軽量化技術などを用い、太陽電池モジュールのエネルギー変換効率で2020年1月時点で世界最高となる16.09%を達成し、新規市場での実用化に向けた技術確立を目指しています。一方、ペロブスカイト太陽電池は、シリコン系に比べてパネルの寿命や耐久性の他、人体や環境影響がある鉛を原材料に使用している点などが、今後の普及に向けた課題となっています。こうした課題の解決に向けて、パナソニックではABX3型の結晶構造により、これまでよりも高い耐久性を実現した電池を開発・特許化しています。

日本企業は太陽光発電分野において優れた技術的競争力をもつ一方、量産にむけた生産体制の構築が遅れ、国際競争力が低下した過去があります。進化を遂げる太陽光発電技術の中で、どれが主導権を握るのか。現状の技術力を生かし先進的な太陽電池を開発しながら、量産体制を早期に整えることが重要です。

3. 2050年時点で有望な個別技術(CO2吸収/吸着/分離素材 )の深掘り

(1)市場・技術動向分析

カーボンニュートラルの実現に向け、火力発電所や化学プラントなど、電化・化学プロセスの変革による完全な脱炭素化が難しい領域では、CO2吸収技術が有望視されており、吸着、分離素材などを含むCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)という技術の適用が期待されています。2020年時点では世界21のCCUS設備で年間4000万トンのCO2回収容量が稼働しております。ベインの見立てではCCUSは2030年で現在の約4~15倍、50年で現在の45~66倍のキャパシティが必要と考えられています。

CCUSの普及のカギを握るのは、二酸化炭素の排出価格とCCUSのコスト低減です。CCUS技術は、排気ガスの二酸化炭素濃度が高いほど回収コストが低下する傾向にあります。2020年後半時点での回収コストは排気ガスの二酸化炭素濃度が高濃度の場合は2,200〜3,900円/tCO2、低濃度の場合は5,000〜16,500円/tCO2、大気中から二酸化炭素を回収する場合は17,500-66,000円/tCO2が目安となります。電力、産業を対象とする欧州二酸化炭素排出量取引(EU ETS)の二酸化炭素市場価格は現在 約7800円/tCO2(2021年10月時点)である事を踏まえると、欧州では既に高濃度二酸化炭素の回収においてCCUS導入のメリットがコストを上回る可能性があることが示唆されます。

今後CCUSを収益化することにより浸透を拡大するためには、政策支援、民間投資、研究開発、ビジネスモデルの確立、スケール化によるコストの低減が必要となります。

(2)炭素削減インパクトランキングと個別企業分析

2050年時点でのCO2吸収・吸着・分離素材における炭素削減ポテンシャルランキング

アスタミューゼの分析では、CCUSにおいて、日本企業が高い競争力を発揮しており、三菱重工業、東芝、IHI、関西電力の4社が上位10位以内にランクインしました。ランキングトップとなった三菱重工業は、同社グループ会社の三菱重工エンジニアリングが、火力発電所や工場等からの排出されるCO2回収プラントを既に商用化しています。

同プラントのシステムの肝となるのは、同社が独自開発したアミン吸収液関連技術です。当該技術も活用することにより同社のCO2回収率は現状の業界標準の90%を大きく上回り、排ガスからのCO2回収率は最大99.8%に到達しています。

日本企業で三菱重工業に次ぐのが、同第4位の東芝です。同社は、CO2を選択的に吸収/放出する特性をもつ吸収液での化学吸収法により、火力発電所等の排気ガスに含まれるCO2を分離回収する技術の確立と推進に取り組んでおり、これらの関連する競争力の高い特許を保有しています。

なお、CO2吸収/吸着法には、前述の化学吸着法以外にも物理吸着法として、エクソン・モービルは、メソポーラス材料を用いた圧力スイング吸着法によるCO2回収・分離技術に関する有望特許を保有していることがわかりました。

アスタミューゼのランキングからわかるように日本企業はCO2吸収分野において優れた競争力を保持しています。今後CCS分野でビジネスを拡大していくためにはさらなる研究開発によるCCSの適応範囲の拡大、コスト削減や、政策動向を把握した上での適切な海外展開戦略、ビジネスモデルの構築などが重要です。

注記)

  1. 技術別の炭素削減ポテンシャルに特許競争力評価を乗じて算出した定量スコア
  2. 太陽光/太陽熱発電のうち、本稿では太陽光発電を対象に分析

参考文献

本件に対する問い合わせ

アスタミューゼ株式会社 CI・広報室 広報担当
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株式会社ローランド・ベルガー 広報担当
E-Mail: strategy_tyo@rolandberger.com