スーパーゼネコン5社の技術を分析! 建設業界の新規事業・事業拡大のチャンスはここにある(後編)

スーパーゼネコン5社の技術を分析! 建設業界の新規事業・事業拡大のチャンスはここにある(後編)

2020年11月27日に公開したレポートの前編(https://www.astamuse.co.jp/information/2020/1127/)では、「スーパーゼネコン」とも称される、ゼネコン大手五社(鹿島建設、大林組、清水建設、大成建設、竹中工務店の出願特許を技術ごとに分類しましたが、後編では、その中から今後成長が期待される注目すべき技術をピックアップし分析した解説レポートを公開します。

<目次>

  1. ゼネコンの保有技術から浮かび上がる、2025年の有望成長領域
  2. 注目分野の分析
    1. 【注目技術分野2】スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM
    2. 【注目技術分野3】土壌環境保全・有害物質除去
    3. 【注目技術分野4】地震対策
  3. 新規事業・事業拡大のチャンスが見込まれる有望市場とは?

1. ゼネコンの保有技術から浮かび上がる、2025年の有望成長領域

日本の大手総合建設会社、いわゆる“ゼネコン”の技術を俯瞰し、中長期的な成長が期待される有望成長領域に関連する保有技術の分析を試みます。前編で「スーパーゼネコン」とも称される、ゼネコン大手五社が2001年1月1日以降に出願した、22,675件の出願特許を分類しました(図1)。そして、各分類に関連する有望成長領域の有力なプレイヤーと注目される技術をピックアップし、ゼネコンの持つ技術の応用展開可能性を検討します。ここでいう「有望成長領域」とは、アスタミューゼの先端分野のアナリストが、世界のイノベーションキャピタルデータベースを分析し、今後10年から20年のスパンで大きく成長が見込まれる有望な市場として定義した「未来を創る2025年の有望成長領域136」のことで、そのカテゴリーからピックアップします。

また、当該有望成長領域において多額の資金を得ている研究費(グラント)とベンチャー企業を紹介し、新規事業や事業拡大の可能性を示します。

(1)建設、土木、建造物

最も出願数が多く、ゼネコンの業務に関わりの深い領域です。関係の深い有望成長領域“地下大空間・地下構造物” について、前編(2020年11月27日リリース)で分析しました。

(2)情報処理、制御、測定

計算機、データ処理といった、いわゆる「デジタル化」に関わる技術がこの領域に含まれます。更に詳しく分類すると、「デジタルデータ処理」に関わるものがおよそ1/4を占め、「材料の調査/分析」、「放射線防護・放射能汚染物質の処理」がこれに次ぎます。ここで示された出願傾向から、アスタミューゼが定義する「未来を創る2025年の有望成長領域136」のうち、「スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM」に注目します。

(3)物理的な加工・成形(工作機械等)

この領域では廃棄物処理や汚染土壌の処理に関わる特許が最も多く出願されています。クレーンやベルトコンベアなど機械・装置の技術が続きますが、いずれも廃棄物処理に関わる出願数の半分程度にとどまります。

「物理的な加工・成形(工作機械等)」分野に関連する有望成長領域としては「土壌環境保全・有害物質除去」に注目します。

(4)照明、空調

この領域でのスーパーゼネコンによる出願特許のうち、空調・換気に関わる出願が7割以上を占めています。空調・換気は健康やエネルギーなど様々な分野にまたがる技術であり、 はっきりと結び付けられる有望成長領域がないため、今回はこの分野の分析は見送りました。しかし新型コロナウイルス(COVID-19)等の感染症に関係して注目される技術であり、重要性とともに市場も成長することが見込まれます。

(5)機械(エンジン・タービン等)、機械部品

この領域でのゼネコンによる出願特許のうち、緩衝・振動減衰技術に関わる出願特許が2/3近くにのぼり、建築物の免震機構に関係する技術を多く保持していることが窺えます。そこで、「機械(エンジン・タービン等)、機械部品」分野に関連する有望成長領域としては「地震対策」に注目します。

「機械(エンジン・タービン等)、機械部品」分野におけるスーパーゼネコン出願特許

2.注目技術分野の分析

前編で取り上げた「【注目技術分野1】地下大空間・地下構造物」の他に、3つの技術分野をピックアップし、それぞれを下記の4つの視点で分析します。

1)特許に見る有望プレイヤーと技術動向
2)注目すべきベンチャー企業
3)注目すべき研究費(グラント)
4)ゼネコンの持つ類似技術

2-1.【注目技術分野2】スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM

この技術分野は、設計・施工の各プロセスから得られる電子情報を活用して、建設・土木事業の効率化・省力化を図るもので、生産性・安全性の向上や労働環境の改善が期待されています。

BIM(Building Information Modeling、ビルディング・インフォメーション・モデリング)とは、建物の3Dデジタルモデルに、「材料」、「コスト」、「採光」、「仕上げ」、「管理情報」、「法規制」などの情報を持たせ、建築工程の各段階で活用していくワークフローを示します。そして、このBIMを建築のみならず、土木にも拡張しようと考え出された概念がCIM(Construction Information Modeling/Management、コンストラクション・ビルディング・モデリング/マネジメント)で、道路、電力、ガス、水道などインフラ全般が対象とされています。

1)特許に見る有望プレイヤーと技術動向

有望成長領域「スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM」の特許出願数ランキング

アスタミューゼが独自に開発した特許の許価値評価ロジックを用いた、出願特許のスコアリング結果のランキングを表に示します。首位はスマートコンストラクションを含む広汎なセキュリティの技術で、2位は4次元拡張現実(AR)モデルを用いた工事の進捗確認に関わる技術です。3,4,5位は建物内のセンシング配置・運用を最適化するための建築技術が占めています。 

アスタミューゼ独自の特許の許価値評価ロジックによるハイスコア特許TOP5 

(有望成長領域「スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM」) 

2)注目すべきベンチャー企業 

アスタミューゼのデータベースから、 “スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM”に関わる2000年以降に設立されたベンチャー企業を抽出して、資金調達額が多い順にランキングしました。 

2000年以降に設立されたベンチャー企業の資金調達額TOP5 

(有望成長領域「スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM」) 

建設プロジェクトのデジタルトランスフォーメーションに関わる企業が上位を占めています。調達額上位10社は、すべて2010年以前に設立されたもので、直近に創業して短期間に多くの資金を集めているベンチャー企業は比較的少ないと言えます。 

3)注目すべき研究費(グラント) 

この領域のグラントでは英国のプロジェクトが上位を占めています。英国は我が国と同様に、建設業界の熟練労働者の不足に直面しており、建設業のデジタル化・スマート化に関わる研究開発に政策的なテコ入れがなされていることが窺われます。また、ベンチャー投資、研究費のどちらも投資額・配分金額上位には建築・BIMに関わる物が多く、土木・CIMへの投資は相対的に小さいと言えます。 

2009年以降に配分された研究費(グラント)の資金調達額TOP5 

(有望成長領域「スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM」) 

4)ゼネコンの持つ類似技術 

以下に出願特許とグラントで注目すべき技術に類似していると考えられる、ゼネコンの保有する特許を挙げます。特許スコアリングで高く評価された空調状況のモデリングや拡張現実(Augmented Reality: AR)による工事進捗管理に類似した特許を、大成建設、清水建設がそれぞれ出願しています。また、多額の資金を配分されている研究テーマである、BIMシステムとのコミュニケーション、ロボットによる作業に関係する技術を前田建設工業と清水建設が開発していました。 

注目すべき出願特許、グラントの技術に類似した、ゼネコンの保有する特許 

2-2.【注目技術分野3】土壌環境保全・有害物質除去 

土壌環境保全・有害物質除去の技術は、有害物質の拡散を防ぐ、土壌から除去する、分解・無毒化する、の大きく三つに分けられます。土壌をセメント等により固化して有害物質の拡散を防ぐ方法や、掘削して取り出した土壌を吸着・分級・加熱等により洗浄する方法などが、ゼネコンの技術と親和性が高いといえるでしょう。また、大成建設とMCフードスペシャリティーズは、酵母の分解物により有害有機化合物の分解を促進する方法を開発しています。 

1)特許に見る有望プレイヤーと技術動向 

世界の特許出願数ランキングを見ると、上位10社のうち7社が日本企業で、そのうちゼネコンが3社、ランクインしています。日本のゼネコンが、土壌環境保全・有害物質除去の領域におけるビッグプレイヤーであることは、あまり知られていないのではないでしょうか。 

有望成長領域「土壌環境保全・有害物質除去」の特許出願数ランキング 

この成長領域における出願特許のスコアリング結果のランキングによると、スコア上位5件のうち、汚染物質の除去に有用なナノ粒子に関わる技術が3件を占めています。 

アスタミューゼ独自の特許の許価値評価ロジックによるハイスコア特許TOP5 

(有望成長領域「土壌環境保全・有害物質除去」) 

2)注目すべきベンチャー企業 

ベンチャー企業の資金調達額ランキングによると、首位のGeotech Soil Stabilisation社と2位のHesus社が一千万ドル以上の資金を調達しており、3位以下に大きく水をあけています。資金調達額トップのベンチャー企業Geotech Soil Stabilisation社は、汚染物質をオンサイトでカプセル化する技術を保有しています。 

2000年以降に設立されたベンチャー企業の資金調達額TOP5 

(有望成長領域「土壌環境保全・有害物質除去」) 

3)注目すべき研究費(グラント) 

研究費(グラント)については、資金配分額首位の放射性物質の処理に関わる研究が2位のプロジェクトの2倍以上の資金を受けています。資金配分額上位の研究テーマは、健康への影響の統計分析、生物学的アプローチ等ばらばらで、はっきりと資金が集中するテーマはありません。 

2009年以降に配分された研究費(グラント)の資金調達額TOP5 

(有望成長領域「土壌環境保全・有害物質除去」) 

4)ゼネコンの持つ類似技術 

ハイスコアの特許、資金調達額の多いベンチャー企業の技術に類似していると考えられる、ゼネコンの保有する特許を挙げます。この分野での注目技術と言える、ナノ粒子、生物学的な汚染物質の処理について、それぞれ特許が出願されています。土壌環境保全・有害物質除去の領域では、日本のゼネコンの特許出願数は世界的に見ても多く、内容も最近の成長トレンドに沿ったものが出願されていると言えましょう。 

注目すべき出願特許、ベンチャー企業の技術に類似した、ゼネコンの保有する特許 

2-3:【注目技術分野4】地震対策

建築物の免振・耐震技術のほか、地震や津波の情報に関わる情報提供関わる技術がこの成長領域に含まれます。 

1)特許に見る有望プレイヤーと技術動向 

出願数上位10社には日本企業はランクインしていませんが、清水建設が385件の特許を出願し、12位に位置しています。 

有望成長領域「地震対策」の特許出願数ランキング 

出願特許のスコアリングの結果からは地震・津波等の大規模災害発生時の医療・通信体制と警報システムに関わる技術が高く評価されていることがわかります。 

アスタミューゼ独自の特許の許価値評価ロジックによるハイスコア特許TOP5 

(有望成長領域「地震対策」) 

2)注目すべきベンチャー企業

ベンチャー企業の資金調達額ランキングによると、地震波と油田開発に関連した事業が多額の資金を得ていることがわかります。調達額4位のLumedyne Technologiesは加速度、圧力、変位等のセンサーを開発していましたが、2015年にGoogleに買収されています。 

2000年以降に設立されたベンチャー企業の資金調達額TOP5 

(有望成長領域「地震対策」) 

3)注目すべき研究費(グラント) 

研究費(グラント)の配分額の上位は、地震・津波研究のための研究インフラの構築と維持に関わる包括的なプロジェクトが多くランクインしています。その一方で、地震対策にむけた特定の技術をテーマとする研究課題は、相対的には資金獲得額が小さいと言えます。 

2009年以降に配分された研究費(グラント)の資金調達額TOP5 

(有望成長領域「地震対策」) 

4)ゼネコンの持つ類似技術 

この領域の注目技術はゼネコンの主たる事業との関連が強いは言えませんが、スコアが高い特許と類似した特許をゼネコンが出願している例はあります。医療・通信体制と警報システムについて、鹿島建設と清水建設が関連する技術を保有しています。 

注目すべき出願特許に類似した、ゼネコンの保有する特許 

3. 新規事業・事業拡大のチャンスが見込まれる有望市場とは? 

前編から引き続いて、ゼネコンの保有技術を5社の出願特許を基に可視化し、その技術との関連が強いと考えられる有望成長領域をピックアップしました。そして、4つの成長領域に関わる特許スコアと、ベンチャー企業調達額・研究費(グラント)を分析し、高い評価を得ている特許、あるいは投資が集まっている分野をあぶり出して、ゼネコンの保有する知財と比較しました。 

  1. 地下大空間・地下構造物
  2. スマートコンストラクション・建築BIM・土木CIM 
  3. 土壌環境保全・有害物質除去
  4. 地震対策 

上記の4領域において、特許の評価、ベンチャー企業・研究への投資意欲にマッチした技術をゼネコンは保有しており、それぞれの領域で新規事業・事業拡大のチャンスがあると見込まれますが、なかでも有望な領域として「土壌環境保全・有害物質除去」が注目されます。この領域では、複数のゼネコンが世界有数の数の特許を出願しており、生物学的な汚染除去手法、ナノ粒子の活用といった特許の評価あるいは投資意欲の高い技術を保有しています。 

2019年度の日本国内の土壌汚染調査・対策実績は、受注件数前年度比12%増の約7,526件、受注高は5%増の734億円とされています(環境庁の外郭団体である土壌環境センターによる)。国外に目を向けると、中国では2017年に「汚染地塊土壌環境管理弁法」を施行しており、汚染対策と管理を強化しています。そのほか多くの途上国において急速な工業化の代償として土壌汚染が進んでいて、その対策が求められることから、市場の拡大が予想されるところです。「土壌環境保全・有害物質除去」ゼネコンの技術を活用できる新規事業・事業拡大のチャンスが見込まれる有望市場と考えられます。 

(アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、曵地知夏、*源泰拓) 

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