非財務データを活用した企業価値評価 ~“二人三脚”で試行錯誤して進めた投資戦略の高度化~

三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社

URL
https://www.smtam.jp/
業種
金融業
課題
  • テーマファンド運用における企業技術力の定量評価
  • クオンツ運用における投資戦略の高度化
  • 多様な非財務・無形資産データを活用した企業価値評価

非財務データを活用した企業価値評価 ~“二人三脚”で試行錯誤して進めた投資戦略の高度化~

日本を代表する資産運用会社の三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社。2024年に創業100周年を迎えた三井住友トラスト・グループの資産運用ビジネスを担い、アジア最大級の運用資産規模を誇る。投資運用事業の高度化に向け数年間にわたりアスタミューゼとともに走ってきた。その軌跡について小林 拓史氏に聞いた。

インタビュイー:リサーチ運用部次長 チーフアナリスト 小林 拓史 氏

1998年中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。2005年よりクオンツアナリストとして、国内株式クオンツモデルの開発や機械学習・テキストマイニング等の分析に従事。2018年より三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社にてクオンツアナリスト業務に従事し、2023年以降、現職にてリサーチ業務全般を統括。2012年一橋大学大学院 国際企業戦略研究科修士課程修了。

企業の技術情報を定量化して評価をする難しさ

御社の事業内容をご紹介いただけますか。

小林:三井住友トラスト・ホールディングスのグループ企業として、資産運用に関する金融商品、投資運用プロダクトを個人のお客様や機関投資家のお客様向けにご提供するのが主たる事業内容です。お客様からお預かりしたお金を基に投資判断を行っている運用部、販売会社に対して取扱商品の提供や販売支援を行う営業部、新しいプロダクトの開発を担う商品開発業務部などに分かれています。

私が所属するリサーチ運用部では、資産運用に関するリサーチ全般を担当しています。リサーチ運用部の中には様々なアナリストが所属しており、定性的な投資判断を行う企業アナリスト・クレジットアナリストや、データを中心にして定量的な投資判断を行うアナリストやデータサイエンティストがいます。特にデータを用いて株価や業績に関するデータ、マーケットデータなどを数量的、定量的に分析して行う運用手法を業界ではクオンツ運用と呼んでいますが、企業の魅力度を数値化し、ポートフォリオを形成して運用していくシステマティックな運用スタイルです。現在、私はクオンツ運用を含めたリサーチ運用部全体のマネジメントを担当しています。

アスタミューゼがサポートを開始した2021年当時の課題を教えてください。

小林:2021年当時、私はクオンツ運用モデル開発の長を務めていました。企業の競争優位性を判断する要素の一つとして、特に日本の場合は製造業が多いため、技術力の定量化が重要な要素になります。そこで、アスタミューゼが独自に定義している136の成長領域別のスコアに魅力を感じ、テーマファンド(AIや半導体、5Gなど一定のテーマに基づいて銘柄選定や投資を行う投資信託)の開発に活かせるのではないかと考えました。

他社も検討されましたか?

小林:検討はしましたが、そもそも国内で特許データを提供かつ比較分析までしているデータベンダーがほとんどなく、さらに特許評価の重要な要素である引用件数のデータなど開示データの量も多いことから、透明性の高さを評価してアスタミューゼにお願いしようと決めました。

オリジナリティある“伴走型”の分析支援

2022年から本格的な情報提供が始まり、2023年からは御社のニーズに特化した情報提供を開始しました。

小林:2021年から2022年にかけて「有望成長領域136」のデフォルトスコアを日本株式と外国株式のファンドに適用してみたのですが、思うような成果が出ませんでした。クオンツ運用の場合、過去に投資判断に適用した場合にどのようなパフォーマンスであったかというシミュレーション結果も重視しており、外国株式ではアメリカ・ヨーロッパ・アジアの地域的な違いもあって、アスタミューゼのデフォルトの指標では一貫した解釈、説明が難しかったのです。そこで、アスタミューゼの標準スコアをそのまま使うのではなく、当社の活用シーンに合わせたデータ・ロジック開発を前提とした協業(PoC)をすることにしました。これは一定の成果を生み出せたと思います。

2024年5月からは、総合技術力スコアの提供を開始しました。

小林:それまでは成長領域にこだわっていましたが、総合技術力スコアを使えばカバレッジをもっと広く提供することができるという提案をいただいて、銘柄の選択肢が広がるのであればとPoCを開始しました。分析対象銘柄の範囲が広がり、個別の企業を一社一社深く掘り下げるというよりはマーケットを面で見て魅力的な企業をピックアップしてくるというクオンツのスタイルには総合技術力スコアはマッチしているようで、銘柄の予測力が上がってきているという実感があります。

数年に及ぶサポートの中で、アスタミューゼのどこに魅力を感じていただけましたでしょうか?

小林:ベンチャー企業投資額やグラント(科研費などの競争的研究資金)といったデータはかなり面白いと思いましたし、指標のカスタマイズについてはこちらのニーズを汲み取って対応していただき本当に感謝しています。個別企業と特許の名寄せという無理難題までこなしてくれるデータベンダーは他にはありません。

我々でも国内特許であればデータそのものを購入することは可能ですが、そのデータを意味のあるものにすることが非常に難しい。アスタミューゼは名寄せ専門チームによる非常に精度の高い情報をお持ちで、特許技術を技術の優位性・耐久性・ガバナンスの3つの観点からスコアリングしています。また、特許だけでなく論文、グラント、ベンチャー企業投資データといった複数データソースを接続し分析できるのが非常にユニークな点で、アスタミューゼと同じことを我々がやるのはとても無理だと思います。

様々な非財務データを活用して企業価値を多面的に評価

投資運用における非財務・無形資産データの活用をどのように考えていますか?

小林:株式投資の場合、従来は株価データや企業が開示する財務データといった伝統的なデータを中心に企業価値評価を行っていましたが、近年はオルタナティブデータといわれる伝統的データ以外の非財務・無形資産データの重要性が増してきています。

理由は、GAFAMに代表されるようにソフトウェアやAIなどのテクノロジーの価値が高まってきていて、企業が開示している財務情報だけでは企業の成長性や企業価値を評価するのが難しくなってきているからです。企業をもっと多角的な視点から評価する必要があり、人的資本経営、技術力、社会関係資本、ESG的な環境・自然資本など財務情報に出ていない非財務・無形資産データの活用が今後いっそう進むでしょう。

御社が描く今後の成長戦略とアスタミューゼへの期待を教えてください。

小林:個人のお客様や機関投資家のお客様1人ひとりの資産形成に貢献していく資産運用力の強化が我々のミッションですが、企業の成長性の評価はプロでも年々難しくなってきています。時代の変化に対応し、より良いサービスをお客様に提供するためにもアスタミューゼの知見をぜひお借りしたい。現在運用しているファンドの企業価値評価を技術力に関するアスタミューゼのデータでブラッシュアップしたいと思っています。

我々は株式投資や債券投資のプロではありますが、特許や特許の背景にある技術面での知見は不足しているので、技術データで企業をしっかり評価できるアスタミューゼにとても期待しています。

アスタミューゼは御社にとってどのような存在ですか?

小林:データ提供会社という位置付けではありますが、ここまでミーティングを重ねてフィードバックを返しながら伴走してくれる会社は他にはなく、非常に頼りにしています。今後も、以前から大きな可能性を感じていた特許データだけでなく、様々な非財務・無形資産データの活用方法を一緒に考えていきたいですね。我々が与えられたデータを最大限に活用して、投資戦略としてプロダクトに結び付けていくことが今後の課題です。

今後も引き続き有益な情報を提供できるよう努めたく思います。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

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